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【エッセイ】百均の便利収納で人生を変える

わたしの人生は百均で変えられるのか

 まだまだ肌寒い今年の三月の始めに、弟の上京のために引っ越しに関する情報を集めていた。バルサンを炊くとか、戸棚のサイズを測るとか、わたしがこの家へ引っ越したときにはひとつも知らなかった情報がたくさん出てくる。引っ越しを完了させるべきなのはわたしのほうじゃないか。インターネットの人々が、消費で豊かになるために提案する無数の便利グッズを前に、わたしは百均の便利収納で人生を変えることにした。
 人生を変えることにしたというか、人生が変わるか試したかった。百均を筆頭とする小売店の商品ごときで人生が豊かになるのなら、戸棚のサイズひとつ測らずにこの家で暮らしてきたわたしはなんなんだ。インターネットの過剰な資本主義にあてられたわたしは、便利収納では根本的な満足度は得られないと証明することで、自分の人生を正当化したかったのだ。

収納計画、始動

 まずは、家のすべての戸棚のサイズを測るところから、わたしの収納ははじまった。キッチンの上の戸棚には、百均でファイルを収納するためのボックスを購入。シンク下の戸棚にはインテリア用品店でそれ専用の収納グッズを設置していく。戸棚に乱雑に押し込まれていた日用品や食料品が、目に見えて整えられていく様子は手軽に達成感をもたらした。
 1番の変化が見受けられたのは、我が家のユニットバスである。一切の収納がなく無秩序に配置されていた、シャンプー,リンス,ボディソープ等や入浴剤に至るまでのすべての配置が整えられていった。また、大きなカゴを区切るための小さなボックスを購入した際には、収納のキモである"シンデレラフィット"も体験した。
 シンデレラフィットとは、それぞれの収納グッズが偶然ぴったりとハマることを指しているのだか、これがかなり嬉しい。事前に測っておいた収納のサイズのメモを見ながら百均を回っていると、もしや、と思われるサイズの収納が売っている。それの大きさをチェックすると、メモのサイズと数ミリ程度しか差異がない。早速家に帰ってそれらを組み合わせると、元々そうであったかのようにサイズが一致している。これが収納で起こる奇跡、シンデレラフィットである。

 我が家の台所や風呂場に始まり、ワンルームの整頓も着手していった。なんの仕切りもない戸棚にはボックスを、行き場のない日用品にはワゴンを当てがい、大掛かりな断捨離もした。収納は目に見えて成果が出るし、ネットで検索すればいくらでも情報が入手できる。インスタントに達成感を感じられるのが嬉しくて、最終的には家の大掃除にまで至った。典型的な凝り性である。

すんげぇ収納、すんげぇ気合い

 そうして生活を根本的に改善した2月から月日が流れ、現在は6月が終わろうとしている。まず、4ヶ月のなかで整頓が維持されているかというと、なんとなく整ってはいるがなんとなく散らかりつつもある。物が少ないバスルームはかなり現状が維持されているものの、台所はだんだん収納の秩序が崩れてきており、ワンルームに至っては物を使ったら戻すという片付けの基礎がわたしにないために、かなり散らかっている。
 もちろん、収納があるとないとではあったほうが散らかりにくいのだが、増えていく物の所持数にそれが追いつかない。祖母の遺品をだいぶ譲り受けたのも一因であろう。そもそも、わたしは目に見えてその場が清潔になっていく掃除は苦でないのだが、片付けはかなり苦手である。だって、物が移動してるだけじゃん。結局、すんげぇ収納にもすんげぇ気合いがいるのである。(なさねば なんとか かんとかね)

人生に変わるとか、ないからねー。

 百均の便利収納で人生は変わったとまではいかないけれども、改善はした。そもそも、わたしは整っている部屋に対して「部屋が整っているなぁ」程度の理解度しかなかったため、整っている部屋は整えようとして整っているという当たり前の認識が持てたのは一歩前進である。
 ただ、最初から感じていたことではあるが、やっぱり収納って消費行為すぎる。買ったその瞬間の達成感は高くても、生活が根本的に変わる訳ではない。人生を変えるには受動的すぎるし、そもそも人生はスイッチが切り替わるようには変わらない。当たり前だけど、人生に変わるとか、ないからねー。
 そんな私の次なるブームは、"リペア"である。穴の空いたジーパンの当て布に始まり、シルバーの手入れやアンティークのサビ取りなど、またもや凝り性を発揮している。べつに人生を変えるためにやっているわけではないが、消費活動としての整頓と対照的なこの趣味は、わたしの人生を変えるのか……。変わらないだろう。

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