ナンパ師のレイプ犯が不起訴になった


 都会の街を歩いているときに、男性に声をかけられた経験のある女性は決して少なくないのではないでしょうか。街中では、ホストのキャッチ、風俗のスカウト、ナンパ師、さまざまな男性が女性を狙っています。

 わたしは2021年11月12日、大阪市内中心部の某駅でナンパしてきた男性に連れ去られ、男性の自宅でレイプの被害を受けました。どうしても許せなかったわたしは、後日警察に話を持っていき、刑事告訴をすることにしました。その一部始終をレポとして記しておきたいと思います。

 加害者とはいえ相手にも人権があるので、プライバシーを考慮して、彼の名前をRとします。


 2021年11月11日〜12日

 その日は、昼の15時からとてもお世話になっている知人の家で宅飲みをしていました。薄い麦焼酎の緑茶割りを2リットルは飲んだと思います。話がはずみ、あっという間に23時を過ぎました。わたしの最寄駅は某私鉄沿線で、その最終電車との乗り換え接続に間に合うように地下鉄に乗りました。

 某駅で地下鉄から私鉄に乗り換えるためには、人通りの多い広場を通ります。そこで一人の男性に声をかけられました。

R「お姉さんどこ行くの?」
わたし「帰ります」
R「ちょっと飲まない?」
わたし「結構です。課題の〆切に追われているので終電に乗ります」
R「今日ぐらいよくない? お姉さん超タイプだし、せっかく出会えたんだからこんなチャンスもったいない」

 わたしは双極性障害とADHDを患っており、毎晩決まった時間にそこそこの量の薬を飲んでいます。身体が薬に依存しているため、24時間を過ぎると離脱症状というものに襲われます。今の薬を飲み始めてから3年半が経とうとしています。
 離脱症状は、手先のしびれや震え、リンパの腫れ、脳内にシャンシャンという音が響きます。放置していると力が入らなくなり、意識が朦朧としてきます。薬を飲みそびれたまま眠ってしまうと、起き上がることが不可能になります。

わたし「薬を飲むために帰らないといけないので」
R「始発で帰ればいいじゃん」
わたし「終電に乗ります」
R「とりあえずインスタ交換しようよ」

 これまでにも何十回とナンパをされてきましたが、これまででダントツでしつこい男でした。だいたいのナンパ師は、インスタやLINEを交換すれば満足してその場では解放してくれるので、インスタを教えました。しかし、Rはこれまでのナンパ師とは違い、まだ食い下がりませんでした。

 相手は某国立大学の工学部を自称していました。
 歩きながら対処していると、前方に回られ、進路を妨害されました。そのまま抱きつかれ、わたしはその場から動けなくなり、乗るはずだった終電を逃しました。

「やめてください。怖いです」
「怖い人じゃないよ」
「終電が行ってしまったんですが」
「俺の家に泊まりなよ」
「怖いので結構です。行けるところまで帰ってタクシーに乗るので」

 相手は身長175cmほどで、わたしの身長は160cmです。今思えばあの場でタックルしたり大声をあげるなどして抵抗しておけばよかったのですが、わたしは幼少期に虐待を受けていた経験から、恐怖心というものに支配されると萎縮してしまうので、大した声も出ず、その場で小さい声で「怖い」「怖い」と言うことしかできませんでした。

 そのまま手をがっちりホールドされ(恋人繋ぎ)、私鉄のホームに連れて行かれました。Rは同じ私鉄の他線に住んでいるようで、改札を通ったところで自分の最寄駅のある線(最寄り駅まで行く電車はなくなっていましたが、数個手前の駅まで行く電車がまだありました)に乗ろうとしたのですが、手を引っ張られたまま、Rの自宅の最寄り駅のある線に乗せられました。

 その電車は某駅を出発して、途中までは同じ線路を走るので、途中駅で乗り換えればまだ自分の最寄駅のある線に乗ることができるため、そこで降りればいいと考え、同じ電車に乗ったことをしぶしぶ受け入れました。

 しかし、電車の中でも手をホールドされたままで、結局降りることができませんでした。どうしても乗りたかった電車が通り過ぎて行く光景を今でもはっきりと覚えています。
 手が恋人繋ぎになっているので、側から見ればカップルのようだったと思います。わたしはわたしで恐怖心がいっぱいで大声を出せず、周囲の乗客に助けを求めることができませんでした。

 結局、よくわからない駅(Rの自宅の最寄駅)で下ろされ、わたしはもうどうしたらいいのかわかりませんでした。逆らえば殴られるかもしれないし、逃げ出すにしても土地勘がないのでどこに行けばいいのかわかりません。交番や警察も見当たらず、手を引っ張られているので、もうされるがままになるしかありませんでした。

 途中でコンビニに寄ってお酒を買うことになりました。このコンビニが助けを求められる最後の場所でした。もう連れ去られたことに関しては諦め切っており、生きて帰ることができればいいやと半ば自暴自棄になっていました。

 そして、自宅に連れ込まれました。とにかく危険な状況であることだけは理解しているわたしは、部屋の隅で距離を取りながら、ツイッターやインスタを見て時間を潰しました。
 とりあえず「なんか某駅で大学生に拉致されてんけどどうしたらいいんw」とツイートするために部屋の写真を撮りました。

 これぐらいから、薬の離脱症状が始まりました。だんだん手先がしびれはじめ、力が入らなくなってきました。

「スマホばっかり見てないで構ってよ」

 スマホを奪われ、横から抱きつかれ、無理矢理キスをされたり、身体を触られたりしました。

「セックスだけは絶対にしないので」

 その場にうずくまって、身体を触られることを拒否しました。抱きかかえられそうになるのを暴れて抵抗したのですが、離脱症状で力が入らない中で、男の力に勝てるわけがありませんでした。そしてそのままベッドでレイプされました。ちゃんと避妊をするところが国立大という感じですね。何の配慮なんだよ。

 相手は射精して満足したようで寝る準備をはじめました。当時生理中だったので、シーツに少し血がついていました。それをご丁寧に取り替えてから就寝したので、隙を見て逃げ出しました(レイプされているのでもう手遅れですが)。

 半ばパニック状態で、駅で自衛のために交換したインスタは「ブロック→ブロックリストから削除」をしました。


 混乱していたわたしは、とりあえず駅に戻って始発を待つことにしました。どう考えても警察に行くべきなのですが、パニックになると警察という文字すら浮かびません。家に帰って一刻も早く薬を飲みたい、その一心でした。

 11月の夜中はとても寒く、身体を冷やさないように、自宅の最寄駅に向かう電車が来る駅を目指して歩きました。2駅ぐらい歩いた時点で始発が来て、なんとか自宅に帰ることができました。
 夕方からバイトがあったので、風呂に入って寝ました。


11月13日

 躁鬱仲間の友人とLINEで会話しているときに、「昨日レイプされてからバリ鬱〜」と軽いノリで言ってみたところ、「いや警察か加害者の大学に通報した方がいいよ」と言われ、やっと冷静になりました。なんだかもう感覚が麻痺していて、他人事のように感じていました。

 とりあえず被害にあった市の警察に電話をしたのですが、事件直後ではないこと、相手の身元がわからず証拠を収集できないことから、刑事事件化は難しいと言われました。担当してくれた警察官は男性でした。
 どうしても加害者に制裁を加えたいのであれば、民事訴訟に持っていってほしいと言われ、法テラスを勧められました。

 法テラスに相談したところ、性犯罪に強いらしい弁護士を紹介され、11月26日に打ち合わせをすることになりました。なぜそんなにも後回しにされるのか、全く理解不能でしたが、直近と指定されたのが11月26日だったので、受け入れるしかありませんでした。

 ちなみに、某国立大学に電話で問い合わせて、事件の一部始終を話すことで情報収集することを試みたのですが、個人情報なので学生の情報はお伝えできませんと言われました。


11月26日

 法テラスで紹介された弁護士の事務所に行きました。女性1名、男性1名の弁護士が担当してくれることになりました。またここで事件の一部始終を話すことになりますが、事件から約2週間が経っていることから、やはり証拠が少ないことから確実に勝てるわけではないと言われました。

 それでも諦めたくなかったので、訴訟を前向きに検討すると答えました。訴訟にもお金はかかりますが、収入が少ないことを伝えると、法テラスによる立替制度が使えると教えてくれました。

 また後日連絡をします、とのことでその日は終わりました。


12月13日

 弁護士からの連絡が2週間経っても来ないので、これはもう加害者に直接対面してその場で罪を認めさせ、警察に自主させるしかないという結論に至りました。

 確実に自宅にいる時間に凸るために、Twitterのフォロワーの力を借りて、なんとかブロ削したインスタのアカウントを見つけ出し、DMで会話しました。以下、抜粋になります。

わたし「どうも!おひさです!11月11日に梅田でナンパされて家行ったオンナです!覚えてますか〜」「めっちゃピンクの服着てたやつ〜〜〜覚えてないかな」
R「おぼえてる」「どしたん」
わたし「や元気にしてるかなと急に思って」
R「元気よ〜」
わたし「まだナンパ師やっとんのw」
R「やってないてw」
わたし「絶対うそやw」「ナンパ師暇人やとおもとる」
R「やめろw」
わたし「直近で暇な日ないんw」
R「なんで?」
わたし「いやー直接謝ってほしいなと思ってさ」
R「謝る?」
わたし「あれ無理矢理だったよね〜」
R「全然そうじゃなかったやんw」
わたし「セックスしないよってあたし言ってたしめっちゃ抵抗してたよね」「無理矢理ベッドに抱きかかえて乗せたの覚えてない?」
R「どこがよ」
わたし「服も勝手に脱がしてさ〜」「セックスしないよって何回も言ったの忘れてる?」
R「てか家にきたことすら覚えてないぶっちゃけ」
わたし「は〜なにそれ」
R「俺ともFFじゃないし」
わたし「あたしは住所しっかり覚えてますので部屋の写真も撮ってるよ」
R「そなんだあ」
わたし「パニックになってブロックしちゃったのさ」
R「俺も今逆にパニックやてw」「ブロックしよw」

 近いうちに家にいる時間を聞き出すことはできませんでしたが、わたしを覚えているということ、セックスをしたことはこれでほとんど認めたようなものです。

 記憶力が幸いして、彼の家の住所をSUUMOで特定しました(地図上のだいたいの位置と外観と間取り)。部屋番号もたまたま記憶していました。その某国立大学が生協で取り扱っている物件だということがわかり、大学名もほとんど確証を得ることができました。

 どうにかネトスト力を駆使して、彼のフルネーム、学部、コース名、年齢を割り出すことができました。また、インスタの投稿が自撮りだらけだったこともあり、顔貌の証拠も得られました。

 身内の男性を連れて、翌朝9時に凸ることにしました。


12月14日

 いよいよ決闘の日がやってきました。第一目標は警察への自主、第二目標は親に連絡をさせて示談させ慰謝料を請求することでした。

 何度ドアホンを押しても出ないので、居留守を使っているのかと思い、2時間ほど経ったあたりで警察に電話して、居場所を捜索してもらえないかを聞きました。また折り返し電話するとのことで、連絡を待っていると、正面からRが歩いてきました。

R「あなた誰ですか?(身内の男性を指して)」
男性「身内です。あなたこの子をレイプしましたよね?」
R「レイプなんてしていませんよ」
わたし「インスタでDMしたと思いますが、わたしのことを覚えていると言いましたよね」
R「あれはアプリの女の子として適当に返しただけですよ。てかどいてください。予定あるんで。あなたたち誰ですか?脅迫罪で訴えますよ」
わたし「わたしはあなたの部屋の写真を日時と位置情報付きで持っていますからね。服に指紋もついていますし逃げられませんよ」

 Rはわたしと男性を無視して部屋に篭りました。そのタイミングで警察から折り返し電話がかかってきたので、加害者に会えたので捜索していただかなくて結構ですと断りを入れると、加害者には接触しないでくださいと言われ、渋々諦めることになりました。

 身元がわかったのであればまた警察に来てくださいとのことで、翌々日に警察に足を運ぶことになりました。


12月16日

 担当の警察官が女性に変わりました。より具体的な話をするので同性の方が話しやすいだろうという配慮だと思います。

 また事件当日の具体的な話をすることになります。1ヶ月経っているので、やはりこちらも記憶が薄くなっているところも多く、ところどころは詳しいことを伝えられずもどかしい気持ちになりましたが、インスタのDMの言質や、ネトストで集めた情報など、11月13日に電話で相談していたときよりも証拠が増えていたので、ぽんぽんと話が進みました。警察官は聞き取った情報をノートに書き留めていました。

 部屋は防音壁でできており、携帯電話やパソコンの電源は落とすように言われました。手荷物検査も行われます。窓はなく、エアコン、机、椅子のみという、想像していた通りの事情聴取らしい部屋でした。

 11月13日に相談したときに、「念の為、当日着ていた服などは洗濯せず、ビニール袋に入れて保管しておいてください」と言われていたので、それらをまるごと持ち込みました。

 また、前日が精神科の通院日だったので、離脱症状を証明できるお薬手帳や薬のカルテなども証拠になるだろうとそのまま持ってきていたのが正解でした。障害者手帳も提出し、レイプに抵抗できなかったこと、性的合意がなかったことを証明するもの全てを揃えることができました。

 Rがわたしを覚えていること、わたしとの性行為があったことを認めることが書かれているDMも提出しました。その他、ネトストで集めた情報も提出しました。

 幼少期に虐待を受けていたことも話し、恐怖心に支配されると逃げることができなくなるということも伝えました。(全然この件とは関係ないですが、虐待の話を親身に聞いてくれたところで泣きそうになりました。いつも開き直ってネタにしているつもりですが、実は今でもずっと苦しいままなんだなということを自覚しました。)

 昼休憩を挟み、いろいろな書類を書きました。提出した証拠について「提出します」「返してもらいました」と記しておくもの、精神科医のカルテを警察に提出することの同意書、証拠品の服についているわたしの指紋を省いて捜査するために唾液からDNAを採取することへの同意書、など。印鑑を持っていなかったので、本人証明として指紋で印をつけたのですが、なんだか幼稚園の頃のおえかきの授業を思い出してちょっと楽しかったです。

 ひとつひとつの行動に書類が用意されており、わたしの同意が必要なので、警察が動き出すのに時間がかかる理由が少しわかりました。あとから被害者が「こんなことはされたくなかった」と言い出してしまっては困りますからね。

 書類に一通りサインをし、唾液を採取したら、警察官2人とわたしの3人で犯行現場に行くことになりました。パトカーに乗れるのかな?!と思いきや普通の乗用車でした。ちょっと乗ってみたかったです(緊急性がないので乗用車で当然ですが)。

 部屋の中にまでは入りませんでしたが、わたしの記憶の中にある場所を警察に知らせることができました。一昨日も足を運んでいて、そこでRに遭遇していたので場所には確信がありました。警察官はいろいろ写真を撮っていました。ポストに書かれている苗字が、ネトストで見つけた苗字と同じであることを確認し、その日は終わりました。車で駅まで送ってもらい、解散という形でした。12月22日にまた来てください、と言われました。

 車の中では、わたしに気を使ってか、2人の警察官はいろいろと明るい話をしてくれました。わたしの将来の夢の話、警察官のお子さんの話、クリスマスの話など、リラックスした状態で現場に向かうことができました。(一昨日に自ら凸してRの顔を見ているので、そもそもあまり不安感はなかったのですが、ありがたい配慮ではありますね。)


12月22日

 前回の事情聴取と同じ部屋に案内され、手荷物検査を終えると、別室に呼び出されました。人形再現をするとのことでした。

 わたしはてっきり人形再現と聞いてシルバニアファミリー的なものを想像していたのですが、部屋に入るとそこには等身大サイズのマネキンのような人形が服を着て座って(?)いました。どうやらその服は事件当日のわたしの服装を証拠品からイメージしたものだったようです(全く気づきませんでしたが確かに使用されているアイテムは同じでした)。

 そして、某駅でRに話しかけられ、抱きつかれ、手を握られそのまま引っ張られていくシーンと、R宅でRがわたしをレイプする流れの一部始終を、「被疑者」と書かれたプラカードを首から提げたR役の警察官と、わたしをイメージしたマネキンを使用した現場再現が始まり、カメラ担当の警察官による撮影が始まりました。いわゆる実況見分と呼ばれるものです。

 何度も何度も被害の状況を説明するのは苦しいことではありましたが、刑事告訴の証拠として必要不可欠の作業なので、薄れていく記憶をなんとかたどりながら再現することができました。


 また防音壁の部屋に戻され、次は担当の警察官がノートではなくパソコンを持って来ました。事件に至るまでのその日の行動、話しかけられてからレイプされ逃げるまでの状況をまた詳しく話し、警察官は今回はノートではなくパソコンに打ち込んでいました。

 乗った電車のダイヤや駅からR宅までの所要時間、写真に紐づいている時刻、わたしがレイプ被害を受けた直後に連絡していた知人へのLINEの送信時刻など、詳しい時間を聞かれました。事件の最中に一度スマホを奪われているので、正確な時刻まではわかりませんでしたが、だいたいでいいので記憶から遡ってくださいと言われ、それぞれの行為から逆算する形でざっくりした時刻を特定しました。

 また、R宅の間取りを紙とペンで描き、事件当時のわたしとRの位置関係も話しました。

 一通り話し終えると今回も昼休憩を挟みました。パソコンにメモをしていく中で、警察官はどうも文章を書いているようだったので、おそらく被害届を出せるのだろうという気がしました。

 昼休憩を挟み防音壁の部屋に戻ると、警察官は20枚ほどの印字された紙を持って来ました。「今から読み上げるので、訂正箇所がある場合はそのつど指示してください」と言われ、了承すると、警察官は「わたしは、2021年11月12日〜」と文章を読み上げはじめました。この「わたし」が筆者のわたしを指すことに気づき、警察官はやはり被害届を代理で書いてくれていたのだとわかりとても嬉しかったのですが、読み上げられた文章の結末が、「彼が一刻も早く罪に問われ、処罰されることを望みます」と締めくくられ、これはもしかして被害届どころではない何かかもしれない、と察しました。

 どうやら警察官が読み上げていた20ページほどの紙は調書だったようです。調書とは、事件の捜査から明らかになった事柄を裁判で公判するための文書です。これは供述調書とも言われ、わたしは刑事事件の当事者として重要な参考人となりました。つまり、これで刑事告訴することが決まりました。

 20ページほどの紙(調書)のあとに読み上げられた2ページほどの紙にはデカデカと「被害届」と書かれていました。内容は、調書に書かれていることを簡素化したような文言でした。


 そして、被害届を本日付で受理しました、と言われ、一歩前に進んだことがわかりました。同時に、これから犯人を準強制性行等罪の疑いで捜査するということを告げられました。

 準強制性行等罪は、刑法178条2項によると、

人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心身を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、性行等をした者は、前条の例による。

 というものです。前条とは、刑法177条の強制性行等罪を指し、

 13歳以上の者に対し、暴行または脅迫を用いて性行、肛門性行又は口腔性行(以下性行等という。)をした者は、強制性行等の罪とし、5年以上の有期懲役に処する。13歳未満の者に対し、性行等をした者も、同様とする。

 というものです。

 つまり、わたしは、虐待によって過敏になっている恐怖心に支配されたという心神喪失の状態と、精神薬の離脱症状という抗拒不能の状況でレイプされた被害者であるということを警察に認められ、その情報が検察官に渡されること、刑事告訴が行われることが決定しました。

 準強制性行等罪に「準」とつくのは、決して元のものに比べて軽い罪という意味ではなく、それに準ずるものという意味です。つまり「準」があってもなくても、有罪が確定すれば5年以上の懲役はほぼ確定、ということです。

 強制性交等罪、準強制性交等罪ともに、2017年の法改正から、非親告罪(被害者が告訴の手続きをわざわざ踏まなくても、検察官が被疑者を告訴できる罪)となっています。

 また、「3年以上の有期懲役」から「5年以上の有期懲役」にも変更されています。これの何が重要かというと、3年以下の懲役の言い渡しを受けると執行猶予(刑の執行を一定期間猶予し、その間に罪を犯さなければ刑罰を免れる)を付けることができます。法改正前は3年ぴったりの有期懲役が決定すれば執行猶予を付けられたのに対して、改正後は問答無用で5年以上の有期懲役なので執行猶予が付けられないということです。

 また、事件から時間が経っており、事件についての確固たる証拠がないため、逮捕状が出せるかはわからないと言われました。しかし、逮捕できなくとも在宅事件として扱い、Rを勾留をせずに日常生活の中で警察署に呼び出したりなどをして捜査するということを伝えられました。


 ようやくこれでRと闘えます。ここまで来るのに約1ヶ月半かかりました。1ヶ月半経ってしまったので、駅の広場やマンションの防犯カメラにはもうデータが残っておらず、かなり厳しい闘いになることが予想されます。あのとき、レイプされた直後に交番に駆けつけていれば……と後悔してやみませんが、悔やんでも仕方がありません。今できることをするしかないのです。

 ということで、わたしはそのままRの通う大学に突撃しました。自分の大学がかなり特殊であるため、他の大学の事情はよくわかりませんが、とりあえず大学内を探索し、総務課や教務課などの掲示板のある建物にたどり着きました。
 工学部の総務課長を呼んでもらうと、別室に案内され、総務課長と庶務課の人物の二人が現れました。

 わたしは彼らにざっくりとした被害内容と、被害届を出したこと、刑事告訴の手続きに入っていることを説明しました。大学からRに対する処分を求めるためです。

 とはいえ、まだRの捜査がこれから始まるという段階で大学からRについて処分させると、Rが逃亡したり証拠隠滅をしたりする可能性があるので、いますぐの処分は求めていないということを伝えました。事件の段階が進むごとに大学の方までご連絡を差し上げるので、全てが終わった段階で処分してくださいと言いました。

 5年以上の懲役になればどのみち在籍可能年数は超えることが予想されるので、大学から処分を下させるまでもないとは思いますが、Rが警察や検察に何をどう説明するのかがわからないので、有罪とは言い切れないとして不起訴になる可能性も十分ありえます。

 そのときのために、現在進行形で学生の不祥事として大学に訴えかけたというわけです。


 あとはRが警察からの捜査にどう応対するかが鍵になってきます。すんなり認めるのか、嘘をつくのか、アリバイ工作をするのか、全く予想ができません(Rと二度接した感想としては、嘘をつく可能性が大きいと感じています)。

 わたしは事実しか述べていませんから、Rが嘘をつけばつくほどバレたときにRは不利になります。警察も検察もプロですから、嘘をついたとしても暴いてくれると信じていますし、どんなアリバイを作ろうとも、わたしは部屋の写真やその時間帯の位置情報を持っているので失敗するとは思いますが、こればっかりはRへの事情聴取が始まらない限りわかりません。


 検察は、わたしの調書、物的証拠(服についた指紋、部屋の写真、スマホに記録されている事件当時の位置情報など)と、Rの証言などにもとづいて起訴か不起訴かを判断します。現在の日本では、起訴されればほとんどの確率で有罪とされます。

 調べた限りのこれまでの判例で、準強制性行等罪の指す「抗拒不能」とは、泥酔や睡眠などが多く挙げられます。はたして精神薬の離脱症状が抗拒不能扱いになるのか、そして、幼少期からの虐待による過敏になった恐怖心が心神喪失として扱われるのか、というところで、いかに検察を味方につけられるかにかかっています。

 特に離脱症状とは、精神病理学周辺の用語であることから、一般的な認知度が低いため、検察官にどういった判断がなされるのかがわかりません。そもそも、離脱症状の程度も患者によって異なる(飲んでいる薬の量が多いほど離脱症状は激しいとされます)ので、わたしのように飲み忘れると身体に力が入らなくなり、最終的には起き上がれなくなるという例はあまりわたし自身も聞いたことがなく、そこの判断がとても怖いところです。

 わたしは「セックスは絶対にしません」と数回はっきり言っていますが、相手がそれを覚えていないなどの否定的な供述をし、検察官がそれを「合意でないとは言い切れない」とし不起訴にする可能性も十分あります。


 時が経ってみないとわからないことだらけで、いつもそのことで頭がいっぱいになり苦痛です。(準)強制性行等罪、(準)強制わいせつ罪は被告人に対して損害賠償請求ができる(=民事裁判の初めの手続きをしなくてよい)ので、Rがどうか早く起訴されてほしいと願います。

 事件は警察の手を離れると検察のものとなるので、これからは検察に通うことが予想されます。警察にはあと一度足を運ぶ必要があるらしく、1月14日に警察に行くことになりました。前回提出した証拠品としての服は、返してもらいました。


1月14日

 いつもの防音壁の部屋に入り手荷物検査を終えると、調書の続きを書くようでした。

 「犯人の顔の特徴など覚えていますか?」と聞かれたので、保存しているRの自撮りだらけのインスタグラムのスクショがもはや目に焼き付いているわたしはかなり詳細に答えました。

 次に、10人程度の男性の顔写真が並んだ紙を渡されて、「この中に犯人の顔に似ているものがあったら教えてください」と言われました。ざっと目を通すと、そこにはRの顔がありました。

 正直、とても驚きました。警察に駆け込んでから犯人を調べ上げるまでたった1ヶ月ってすごい。いくらわたしがかなりの情報を集めてから警察に行ったとはいえ、警察からすればその情報も100%信じられるものではありませんし(事件そのものがでっち上げの可能性も0ではないため)、大阪周辺をうろつく男子大学生(に見える人たち)なんてごまんといます。それをたった1ヶ月で10人にまで絞るその捜査力にはたいへん驚きました。警察ってすごい。

 「この男で間違いありません」という署名をして、調書にもそれを書いてもらい、この日はこれで終了しました。

 必要な書類はこれで全て揃ったので、もうあとは任せてくださいねと言われたので、おそらくこれが最後の警察署訪問なのだと思います。事件として進展があればそのつど連絡します、と言われました。

 やっと警察から検察へと書類が行き渡ります。おそらくRにもそろそろ声がかかるでしょう。待ってろよ、という気持ちでいっぱいです。どうなるのでしょうか。


4月14日

 警察署から電話があり、「事件を検察に送った」との報告がありました。

 おそらく、この3ヶ月間に相手の事情聴取を行っていたものだと思われます。Rがレイプについてどう話したのかまでは教えてくれませんでした。

 近いうちに大阪地検に足を運んでもらうことになる、と言われて電話は終わりました。


5/10

 大阪地検から電話があり、5/20に検察庁に行くことになりました。いよいよ相手を裁判にかけるかどうかが決まります。


5/20

 大阪地検に行きました。とにかくセキュリティ管理がしっかりしていて、人の体温が感じられない場所でした。

 取調室に向かうと、女性の検察官の方が話を聞いてくれることになりました。隣では男性の書記?のような方がパソコンと向き合っていました。

 事件内容については警察から送られているので、内容に誤りがないかを確認する程度でした。
 ただ、警察では事件内容を中心に聞かれていたのに比べて、検察では事件後の生活などについても聞かれました。

 事件の記憶が薄れていく中で、警察に提出した調書と全く矛盾のないように話すのは少し難しかったです(当時とは感情が変わっているので)。

 わたしは相手に処罰を求めることを強調して話しました。間違ったことをしたことを反省するべきであり、間違っている自覚がないのであれば社会から教わるべきだと言いました。

 取調べはおそらく1時間程度で、起訴するかしないかが決まったら自宅に結果の書類を送ります、とのことでした。


5/26

 自宅に、大阪地方検察書と書かれた封筒が届きました。

 紙ペラ1枚に「Rに対する準強制性交等事件について、不起訴処分としたので通知します」と書かれていました。

 なんだかもう何とも思いませんでした。異議申し立てをする気力も残っていません。もうこの事件について考えることに疲れてしまったからです。

 不起訴処分の理由には「嫌疑無し」「嫌疑不十分」「起訴猶予」があります。おそらく証拠不足による嫌疑不十分でしょう。最初に警察に電話してから法テラスで紹介された弁護士からの連絡を待っている間に防犯カメラの映像が消えてしまっていますし、相手が避妊していたため粘膜から性行の証拠を掴むこともできず(使用済みの避妊具をゴミ箱から拾って持ち帰るという発想はさすがになかったので)、会話を録音していたわけでもないので合意でなかったかどうかを示すものがありません。

 一番腹立たしいのは、やはり警察と弁護士をたらい回しにされている間に防犯カメラの映像が消えてしまったことです。ナンパされて通路を妨害されているところも、いきなり抱きつかれているところも、腕を引っ張られて電車に連れて行かれているところも、あんなに怖かったのに、唯一の証拠である防犯カメラの記録について、助けを求めた機関が台無しにしたことを、わたしはきっと恨み続けるだろうと思います。


 ナンパ師レイプ魔は、「タダマンできてラッキーw」とでも思って、今でものうのうと生きているのでしょう。一方わたしは、今でも都会を歩くときにはあまりスカートや女性らしい服を着ないようにしているし、ナンパされた場所を通るたびに動悸がするし(乗り換えの都合上避けられない)、さまざまなセカンドレイプを思い出して苦しくなるし、理不尽に不自由な日々を過ごしています。

 この国は性犯罪者に優しすぎることを、性被害者に冷たすぎることを実感しました。

 いくら性犯罪の法律を整備したところで、起訴されなければ意味がありません。そもそもなかなか事件化してくれないし、事件化できたとしても起訴に持っていけるだけの証拠を被害者が苦しみながら集めなければならないし、集めたところでその先の起訴率が低いなんて、あまりにも被害者が報われなさすぎる。

 自分より身体の大きく力の強そうな男性に突然抱きつかれて、その場で正しい対処法を取られるわけがないでしょう。レイプされているときに証拠を残せるほど冷静でいられるわけがないでしょう。被害者心理を理解していないのが今の日本の警察であり検察です。

 悔しいけれど、わたしにはもう闘う元気はありません。女という性のせいで傷を背負わされたという記憶になるだけです。Rはこれからも同じようなことを繰り返して、たくさんの女性の尊厳を踏み躙って生きていくのでしょう。わたしが許せなくても、警察と検察は許してしまうのです。


おわりに

 同じような苦しみを背負う女性ができるだけ少なくあってほしいと思います。そのために、わたしが後悔していることを並べるので、もし被害に遭われたときの参考にしてください。

・ナンパされたときに助けを求められなかった

 ナンパはれっきとした性加害です。道ゆく一人一人の女性から尊厳を奪い、性器としてみなす行為です。ナンパをかわすことには慣れているつもりでしたが、かわしていただけで、相手に加害を理解させているわけではありませんでした。その場しのぎでしかなかったために、かわせなかったパターンが起きてしまいました。

 ナンパされたら、迷わずに「性的な嫌がらせだ」と表明してください。相手はそもそも嫌がらせだと思っていないのです。ナンパ師は、自分に起きる性的イベントがラッキーだと認識しているから、女性たちもそうだろうと勘違いしていたり、そもそも自分の欲求を満たすことしか考えられないのです。


・無理矢理連れて行かれたら、スマホなどで会話の録音をする

 その性行為が合意でなかったかどうかは、会話からしか判別できません。「性行為はしません」という音声が残されているだけで、合意でなかったことの強い証拠になります。

 警察官に限らず、世間にはいまだに「相手の家に上がったら、性行為が合意であったとみなされても仕方がない」という価値観の人間がいます。逆上されて命を脅かされないように抵抗しないようにしただけでも、「自分の足で行ったのだから自己責任だ」と言います。

 性行為の合意は、「この人とならば性行為をしてもよい」という相互の意思表明(言語外のコミュニケーションを含む)によってのみ取られるものです。どちらかが合意でないと言えばそれはもう合意ではありません。


・レイプされたらすぐに警察に行く

 わたしは精神薬の離脱症状が始まっていたので、すぐさま家に帰って薬を飲むことしか頭になく、警察にも後日電話するという手段を取ってしまいましたが、そのために警察と弁護士をたらい回しにされ、防犯カメラの映像や、レイプ時に使用された避妊具などの証拠が消えました。

 レイプされてしまったら、その足で警察に向かってください。相手の粘膜や指紋が身体に付着している状態はとても気持ち悪いですが、その気持ち悪いものが何よりの証拠になります。

 警察には電話で訴えるのではなく現地に飛び込んでください。電話だとどうしても緊急性がないと判断され、後回しにされます。

 相手が避妊具を使用したら、ゴミ箱から拾ってでも警察に提出してください。わたしはこれを拾わなかったことをずっと後悔しています。これさえあれば立件できたかもしれないのに、とひどく悔やんでいます。


 初めての性被害でうまく立ち回れるわけがなく、他にもたくさん後悔していることはありますが、とにかく上記の3つだけでもどこか頭の片隅に置いておいてください。わたしのように、悔しいまま生きていくしかない女性ができるだけ少なくあることを願います。

 上記のように自衛しなければならない社会は非常に生きづらいです。加害がなければ被害は生まれないのに、なぜまず先に被害を防がなければならないのか、抑制するべきは加害の方ではないかと強く思います。

 性被害・性加害の対立は前者が女性、後者が男性とも限りません。逆転する場合も、どちらも女性である場合も、どちらも男性である場合もあります。

 どうか性被害の事件を他人事だとは思わないでください。あなたが被害を受ける可能性も、あなたが加害者になる可能性も、どちらもあります。性的な行動のひとつひとつが加害ではないか十分に考えてください。被害を受けた場合は上記のわたしの後悔を思い出してください。


 性被害を受ける人が一人でも少なく、性被害を受けた人が一人でも多く報われることを願っています。


♥𝓫𝓲𝓰 𝓵𝓸𝓿𝓮♥ をください♡ なぜなら文章でごはんを食べたいので♡