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「SKYキャッスル」はさながら現代版鬼子母神伝説だった(韓国ドラマ感想)

「SKYキャッスル」「夫婦の世界」のどちらを観ようかなと、両方とも2話まで観た時点で、わたしは「SKYキャッスル」を選んだ。
冒頭から、断然、こちらのほうが面白そうだと思ったからだ。
その結果、「ヴィンチェンツォ」も「シーシュポス」もほったらかしにして、一気見してしまった。
いやはや、続きが気になって仕方がない評判通りの面白さだった。

「SKYキャッスル~上流階級の妻たち~」という題なので、韓国の富裕層の受験戦争をめぐるマクチャンドラマなのかと思われがちだが、ドラマの宣伝もそのようにつくってあるけれど、確かに表面上はそうなのだが、このドラマの脚本家は、もっと深いテーマを最初から設定していて、それは絶対に鬼子母神伝説をもとにしているとわたしは確信している

経典によって多少の相違があるが、鬼子母経によれば、千人の子があり、五百は天上、五百は世間にあり、最小の子を愛奴(経によって嬪伽羅という)と名づけ憐愛した。鬼子母は性質邪悪で、常に他人の子どもを殺して食べたため、仏はこれを教化しようと愛奴を隠したので、鬼子母は探し求めることができず、悲嘆にくれた。そこで仏は、汝は千人中ただ一子を失うにさえ悲嘆懊悩するのに、汝に子を食われた親達の胸中はいかばかりか、と説いて、子を返した。以後鬼子母は、仏に帰依し、誓願を立て、産生と保育の神(ときには盗難除の守護)となる。

この鬼子母神伝説でよくわからないのが、その夫の存在だ。鬼子母神も神ならば、その夫も神であるわけで、母である鬼子母神が、人間の子を奪って食べている間、夫は何をしていたのだろうか。
釈迦が、鬼子母神を諭すのはわかるが、夫のことは諭さなかったのだろうか。

そのあたりの女からみたモヤモヤ感を、現代版鬼子母神伝説であるこのドラマでは、夫を登場させることですっきりと解消している。それが、トップの画像に持ってきたこのドラマの主演男性陣で上流階級の夫たちである。
韓国ドラマではお馴染みの演技派俳優たちが、階級社会のピラミットを少しでも上に上り詰めようとする滑稽なまでのまでの男性社会の愚かさをこれでもかとみせてくれる。

もちろん、女優陣も演技派ぞろいなので、夫婦どうしの掛け合いも面白い。
特に、キム・ピョンチョル演じる大学教授の妻のユン・セアに対するモラハラの数々は、ありそうな話なのに滑稽で笑い転げてしまった。
4組の夫婦と子供たちもがそれぞれ個性的でなので、登場人物は多いが混乱することなく、すっきりと話が進み、どんどんハマっていってしまうドラマであった。

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主演のヨム・ジョンアは、腹に一物あるけれど、根っからの悪女なわけではないという女性を演じさせたら、本当に上手い。どっかでみたことあると思ったら、映画「完璧な他人」にも出演していた。
これまた、悪女役では、第一人者になりつつあるキム・ソヒョンとのモンスターマザーどうしの対決は見どころのひとつである。

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この女優さんたちは、みなアラフォーも過ぎてしまった年代にも関わらず、抜群のスタイルの良さ。彼女たちが着こなすセレブファッションも見ものである。それに加えて、豪華なおうちのインテリアと食器類も必見だ。

そんなセレブ感あふれるドラマだが、終盤にかけての、子どもの幸せを願う母の行為とは、本当は何をいうのだろうかと考えさせられるような展開は実に見事であった。鬼子母神も、改心してからは、安産と子育ての神になったように、行き過ぎた行為も改心すれば救われるのだろうか、あるいは、親は悪いとわかっていても、盲目的な愛からか、子のためといいながら、過ちを繰り返してしまうものなのだろうか。

「わたしはそうはならない」と思いながらも、破滅の道に進んでしまう
そんな母の感情も、子に禍が降りかかったのは、「わたしのせいなのだ」と自分をせめてしまう母の感情も、どちらもそんなに離れたものではないのに。

現代の学歴社会を基礎とした階級社会ができるはるか前から、伝説にもなった鬼子母神はいたわけで、あらためて、時代を超えた負の母性とは何なのだろうかと考えてしまうわけなのだ。
その深遠なテーマをよくぞこんな面白いドラマにしたものだと感心してしまった。韓国ドラマの実力は恐るべしである。


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