『飛火野耀読本~山科春樹から真行寺のぞみまで~』・序&1


 ―― 『心臓抜き』みたいな本が書きたい、ずっとそう思っていた。でも、あんな小説を書いてしまったら、あとは死ぬしかない。

     山科春樹『Can You Hear Me?』

   序

 いま飛火野耀の名前を聞いて、果たして何人が思い出せることだろう。
 ある者にとっては奔放な青春小説、ノベライズ版『イース』の作家。
 またある者にとっては奔放な冒険小説、ノベライズ版『エメラルドドラゴン』の作家。
 あるいは――『もうひとつの夏へ』『UFOと猫とゲームの規則』『神様が降りてくる夏』といった独自の作品で、忘れ得ぬ傷跡を残した作家。

 いま飛火野耀の名前を聞いて、「あの作家のことか」と思い出せる者。個人の思い入れをさておけば、ごく少数派には違いない。
 筆者は無論、その少数派の一人だ。

 20年以上に渡り、作家の足取りは途絶えている。しかしながら、その足取りが正確に辿られているとは言いがたい。
 未発表の短編に単行本化されないままの長編と、影はいくつも残されている。
 ならば、まずは辿ることにしよう。未発表作も含めて引用しつつ、可能な限りその足取りを振り返るとしよう。


   1 デビュー以前のこと(~1979年5月)

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