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Starting Over~ジョン・レノン 1980/12/09 TUE (日本時間)

 あの日はとても寒い日だったと記憶している。本当にそうだったかは今となっては不確かではあるのだけど、個人的な記憶としてはそうだ。わざわざ当時の関東地方の気象情報を調べる気はしない。

 いつもだったら、あんな早い時間に町田駅を歩いてはいないので、多分期末テスト期間中で、部活がなかったのだろう。小田急線の町田駅前にあるバスセンターに向かう階段を降りるとそこに「新星堂」というレコード屋がある。文字通りレコード屋でCDというものがまだ世の中になかった。そこからジョン・レノンの曲がしきりに流れてくる。ちょうど、5年ぶりの新作が出たばかりなので、その関係かもしれない。でも、そのわりには当時の作品ではなく、旧作ばかりが流されている。胸騒ぎがする。結局、バスが来るまでの10分ほどずっとジョン・レノンの曲がかかりっぱなしだった。今なら、スマホを手に取り、早速ネット検索するところだ。

 なす術もなく自宅までざわざわした気持ちを抱えてバスに揺られ、寒くて暗い道を歩いて帰った。家に着くとちょうどテレビでは夕方のニュースを放送しているところだった。TBSの古株のさえないおじさんアナウンサーが妙なアクセントで「ポウル、マッカァトォニー」らとビートルズを組んでいたジョン・レノンが何者かに銃で撃たれ、病院に搬送されました。といったような原稿を無表情に読み上げていた。それからは次々にチャンネルを回し、7時のNHKのニュース、ニュースセンター9時、10時以降はFMラジオで続報を追いかけた。

 そして、その後、しばらくの間、ラジオの音楽番組ではジョン・レノンの特集をしていた。テレビは当日翌日以外あまり取り上げていなかったように記憶している。印象に残っているのは、あの饒舌な渋谷陽一がサウンドストリートで、ほとんどしゃべることなく、ジョン・レノンの曲をかけっぱなしだったことだ。甲斐バンドの甲斐よしひろは武道館のライブで「逝ってしまったジョン・レノンの為に…」と『100万$ナイト』を歌い、オフコースは『I LOVE YOU』(アルバム・バージョン)の間奏にニュース調でジョン・レノンの射殺についてのナレーションを入れた。

 5年間のハウスハズバンド生活に一区切りをつけ、“Starting Over”=再出発と歌いはじめたばかりのジョン・レノンがこの世を去るなんて、なんと皮肉なことだろうと当時漠然と感じていた。でも、その後、気持ちを新たにしたいときにはこの曲をかけたり、逆にこの曲が流れるとシャンとした気持ちになったり、特別な存在となった。あれから37年、自分の開業を祝って、大好きなサックスプレイヤーの方が、僕に“Starting Over”を吹いてくれた。とてもうれしく、キラキラした時間だった。

 そして、更に3年経ち、今年没後40年。彼が生きてきた年数と同じ年月が過ぎた。これだけの年数を彼は生きてきたのか。これしか生きていけなかったのか。相反する感情が交錯する。そんな気持ちをそのままに僕は真心ブラザーズの『拝啓、ジョンレノン』を何度も何度も繰り返し聴いている、、、


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