時間学、はじめました。人類はどのように時間を認識してきたのか。
時間とは何か。
あまりにも当たり前過ぎて、あまりにも身近すぎて、それが何なのか分からないもの、それが時間です。アウグスティヌスに始まり、哲学者、物理学者、脳科学者、生理学者、ありとあらゆる専門家が時間について考えてきましたが、それでもまだ、結論が出ていません。
そんな壮大な「時間」というテーマで創作活動をして半年、これまでの時間にまつわる思索を、言語化しておこうと思います。
この原稿は、時間学というプログラムを作ろうと今友人と議論をしている中で生まれてきたものです。
時間は存在するか、それ自体がどういった性質なのか、ということも議論されていますが、今回の記事では、人類はどのように時間を、認識し、時間と関わってきたのか?という、人間の時間観に焦点を絞っています。
人間は、どんな時に時間を感じるのか
時間自体を考えることは難しいので、逆に時間が存在しない or 時間を人間が感じないときってどんな時なんだろう?という問いから始めようと思います。
SF映画で、急に時間が止まるシーンがあったりしますよね。その時主人公は、まわりで時間がとまっていることを、人やモノ、世界がすべて停止していることから感じ取っています。つまり、人間は、何かしらの変化の中に、時間を見出しているのかもしれません。
では、改めて、人間は、どんな時に時間を感じるのでしょうか。
例えば、海を散歩してボーッとしている時。波の音がざぁざぁざぁ、同じリズムで繰り返される中で、僕たちは、時間の流れを感じます。
暗闇の中から太陽が出てくる時、逆に太陽が沈んでいく時、その一瞬一瞬に、時間の存在を感じます。そして、このリズムに先人たちは、1日という単位をつけました。
息を吸って、吐いてを繰り返している時、自分の脈拍が脈打つのを聞き続けている時。そんなときにも、僕たちは時間を感じてしまいます。
そして、気付きました。そうかと。
僕たちは、特定のリズムを感じているときに、時間の流れを感じるということに。また、世界にはいろんなリズムが存在していることにも気付かされます。太陽のリズム、地球のリズム、波のリズム、あの人のリズムと私のリズム。
"時" と "時間" は違う?同じ?
ここで、当たり前のように使っているこの2つの言葉ですが、議論を進める上で、意味を明確にしておきたいと思います。
「時」とは、それ自身が持っている固有のリズムを意味することにします。太陽のリズムを太陽の時と呼び、地球のリズムを地球の時と呼び、僕のリズムを僕の時と呼びます。ここでのポイントは、それぞれのリズム(時)は異なるから、実は時は1つではなくて、たくさんの時が存在するということです。
一方で、「時間」は、読んで字のごとく、時と時の間(あいだ)なので、何かの時と何かの時の間にあるものと定義します。例えば、僕の時と、あなたの時は違いますが、その間で、共有されているものが、「時間」です。何時何分何秒という時刻は、まさに人類みなが共通として持つものとして定義されています。
4種類の時:自然の時、時計の時、社会の時、身体の時
色々と思索を深める中で、この「時」には4種類存在すると考えています。
1つ目は、自然の時。太陽の動き、月の動き、季節で景色が変わる森の動き、海岸沿いの波の動きなどです。
2つ目は、時計の時。僕たちが現在接している、秒・分・時間・日・年です。
3つ目は、社会の時。ドッグイヤーだとか、社会のスピードが早くなっているという表現をしますが、まさにそういったものです。
4つ目は、身体の時。人間の鼓動のリズム、代謝のリズム、生死の寿命のリズムなどです。
そして、これらの時は、Nature(元々それ固有の特性)かArtificial(人類が創ったもの)か、Non-human か Human かの2軸で4象限に分けられます。このマトリクスを使って、人類が「時」をどのように理解してきたのかについて解説していきます。
STEP1:時間のない世界
まず、人類が生まれてほとんどの時間は(ホモサピエンスが生まれて20万年位)、時間という概念は存在しませんでした。ただ、太陽が出て落ちる。ただ、季節がある。それだけでした。
この時、人間は、コケコッコーを聞いて起きる、太陽が出たら起きる、暗くなったら自然と眠くなって寝る、そういった、自然の時の中で生活をしていました。この時、身体の時は、自然の時に同期していたはずです。
1-1. 時間の発見
しかし、人類は太陽の動きにともなって、木や岩の影が長さを変えるのを見て、時間の存在に気づいたと言われています。
1-2. 暦と時計の発明
紀元前3000年頃には、狩猟採集文明から農耕文明に移る過程で、いつ雨季で水害が起きやすいか、収穫を増やすためにはどうすればいいか、そういったことを考える中で、暦が開発されました。更に、日時計、水時計、砂時計など、自然の時を使った様々な時計が発明されました。
西暦1000年位までは、自然の中に存在するたくさんの時(自然の時)が、時計という形で表現されていました。
STEP2:時間が多様に存在する世界
西暦1000年頃から、自然の時とは別の論理で、時が刻まり始めます。
2-1. 鐘と機械式時計
時計のことをウォッチやクロックと呼びますが、Clock の語源は、Cloccam(鐘)だそうです。中世ヨーロッパでは、祈りの時(ミサ)を村人に伝える必要性から、教会の鐘を自動で鳴らす装置が発明され、そこから機械式時計が生まれます。
2-2. 振り子の等時性の発明
これが革命的な時間史上の発見でした。ガリレオ・ガリレイが、振り子は振れの大きさによらず、等しい周期で振り子運動を行うことに気付いたのです。
2-3. 大航海時代、精度の高い時計に多額の懸賞金
振り子の等時性だけでは、単なるサイエンス上の発見だったかもしれませんが、時代背景がこの流れを後押しします。この時、大航海時代にあり、現在の場所をいかに正確に知れるかが非常に重要なテーマでした。現在の場所がわからないと、目的地に到達できないからです。
そしてこの時代、正確な場所を知るための方法として、船の出発時間と現在の時間を正確に把握することが必要不可欠でした。そこで、王族や貴族が精度の高い時計を発明した人に多額の懸賞金を支払うという流れになり、時計の発明スピードが一気に加速します。
これまでは、人間は、日々接していた自然の時と同期する形で、時計の時を感じていました。しかし、振り子の等時性の発見で、太陽なんかみなくても、月なんか見なくても、目の前の振り子の物理現象だけで、正しい時計の時を知ることができるようになり、自然の時とは切り離されて、時計の時が、独立して存在するようになります。
STEP3:時間がひとつしかない世界
一方、いくら、振り子時計などが発明されたとはいえ、日常的には、太陽の動き、季節の動き、月の動きで生活が営まれていたはずです。しかし、これを根底から覆す社会的な変化がおきます。
3-1. タイムカードと時給の誕生
産業革命時代、投資家が労働者の行動を管理するために、タイムカードが発明されました。おそらくここで人類史上はじめて、人間は、時間を活用する側から、時間に管理される側になったようです。当時の労働者からは大反対運動もあったようですが、効率的な工場生産をするために、時給という概念は社会に浸透していきます。
「Time is money」という概念は、この頃に生まれています。
3-2. 時刻表の発明
現代において、都会に住んでいる人が、時間を強く意識することの1つは、電車だと思います。19世紀、鉄道が走り始めたタイミングで、時刻表が発明されました。時間に、人間があわせるという行動習慣がより定着していきます。
これらを、僕は、社会の時と名付けました。人が人を管理するために、人が人に合わせて動くために生まれた時です。朝の出勤時間に合わせて起きて、電車に乗って移動している。こういった現代に続く時間にまつわる行動習慣が生まれたのか、この時代になります。
しかし、いくら時間にあわせるといっても、当時懐中時計などは非常に高価なもので、一般市民が持ち合わせているようなものではありませんでした。
3-3. 携帯型時計の一般化
第一次世界大戦時、正しい時間をその瞬間に分からないと、戦略・戦術を正しく実行できないということで、腕時計が開発されます。コンピューターやインターネットがそうであるように、時計も戦争が契機で発展したようです。
3-4. 社会スピードの加速化
ドッグイヤーという言葉がありました。今の社会はそれだけ変化が早いと。コンピューター、インターネット、SNS、AIと現在も続く情報革命で、情報量とコミュニケーション量が爆発的に増え、結果的に社会のスピードが早くなったように感じる人が増えています。
この頃になると、身体の時、自然の時と関係なく、電車の時間、仕事の時間など、時計の時を使った、社会の時にすべての時が吸収されていきます。
STEP4:自分の時を起点にした、時間の捉え直し
僕たちホモ・サピエンスは、この身体になって以来数十万年間、体の大きさは殆ど変わっていないですし、呼吸のリズムも、脈拍のリズムも、細胞が生まれ変わるリズムもほぼ変化がありません。つまり、時間が存在しない時代から、身体の時はほぼ変わっていないのです。
一方で、時計の時が生まれ、社会の時が技術の発展に伴い、爆発的に変化していく。現代は、精神的にストレスを感じる人が多かったり、うつ病の人が出たりと、自然の時・身体の時と、社会の時の間に、大きなギャップを感じる人が増えているのではないでしょうか。
ヨガ、マインドフルネス、農業、ランニング、トレールラン、サウナーなど、すべてこの文脈で説明できるます。時計の時、社会の時と切り離して、自然の時、身体の時を本能的に取り戻したがっているのだと思います。
この観点で、世の中を見てみると、この時同士の関係性をハックするサービスが出始めていることに気が付きます。
4-1. 身体の時がセンサリング技術で可視化
例えば、睡眠をトラックして、睡眠が浅くなったタイミングで、自動で目を覚ましてくれるサービス。これは、社会の時(出勤、電車の時間)にあわせて6時に目覚まし時計を鳴らすという、時計の時に身体のときが支配されていた状態から、身体の時を基軸に自分の生活を変えようとしているサービスということもできます。
これは、脈拍、心拍数、脳波など、今まで可視化されていなかった身体の時が可視化されたことに本質があります。そして、僕はこれからの時代に必要な時間の捉え直しとは、まさにこういったことだと思います。
僕が仲間たちと創った鼓コドウ時計(コドウのリズムを刻む時計)も、この文脈で説明することができます。
つまり、センサリング技術をベースに、身体の時を基軸に、自然の時・時計の時・社会の時との狭間にある、「時間」を捉え直す。結果的に、様々なものがリデザインされていく。
だから今、仲間たちと、新しい時計を具体的にプロダクトとして検討しつつ、更に時間学という時間をフィルターに世の中を見る学びを作れないか、そんなことを考えています。
こういったことを議論したい方は、ぜひぜひお声がけ下さい。