企業の戦略的なパパ育休活用への道:閑散期の人件費の削減と人材育成に繋げる
前回の記事で、「企業がパパ育休を戦略的に活用する道はないのか」について書きました。
全国規模で展開する学習塾の抱える現状
先日、全国規模で学習塾を運営している企業の方と議論をしました。その会社の状況をまとめるとこんな感じです。
・全国規模で学習塾を運営している企業。社員は数百人規模、会員(塾生は数万人)。
・育休経験者はほぼいない(1ヶ月以上の長期は1名)。
・基本的に4月〜3月の1年間が教室運営のリズム。
・超現場主義の会社で、社員のほとんどが現場の教室を持っている。
・教育というビジネスモデル上、業務がひとにつきやすく、引き継ぎも難しい。
・常に優秀な教員の採用と育成が最重要課題。
戦略的なパパ育休活用の道はあるのか
会社の経営状況をヒアリングしつつ、どんなストーリーだと社内の関係者から「パパ育休それならいいね!」「どんどんやったらいいじゃん!」になるのか、様々な検討をしました。
だめだなと思ったことにも学びがあるので、まずはそこから。
Q1. 優秀な人材採用に繋がるか → A. 繋がらない
この会社は新卒での採用がほとんどなのですが、優秀な人材ほど20代前半の時はバリバリ働きたいと思っていて、福利厚生なんて気にしない。むしろ、そういう事ばかり気にする人を採用したくない。採用したい人を採用するためには、チャレンジできる環境があるか、尊敬できる人達に囲まれるか、本当に本質的に重要だと感じれる事業ができるか、が肝になる。
Q2. 離職率の低下に繋がるか → A. 繋がらない
30歳前後で会社を退職する人が多いそうですが、退職理由は、その後のキャリアパスがイメージできないから。これも、パパ育休とかあまり関係ない。
Q3. 優秀な人材育成に繋がるか → A. 繋がらない
優秀な教員の確保と育成がポイント。ただ、普通に考えて、パパ育休を取得するよりも、優秀な先輩の下で難しい現場に放り込み、OJTで育てるほうがよっぽど育つ。
正確に言うと、Q1〜3 も「繋がっている」んです。でも、施策のインパクトと費用対効果を考えたときに、あえてパパ育休を推進する積極的理由にはならない、ということです。
議論を続けていて、一時はやっぱり無理じゃん…となったのですが、最終的にひとつの納得解にたどり着きました。
結局、答えるべき問いは何か
「企業の経営課題の解決にどう男性育休を位置づけるか?」という議論を続けた結果、この企業の場合にはそれは難しい…、という結論に一旦なり、問いを変えました。
パパ育休を取得したいと思った人が、気持ちよく、「育休を取りたいです」と会社に言えるようになるための、パパ育休プログラムとは?
逆に言うと、今はパパ育休を取りたいと思った人が、「育休を取りたいです」といいにくいということです。それは、「忙しいのに自分が休んだら同僚に迷惑をかけてしまう」「パパ育休を取ることで会社に居場所がなくなったら嫌だ」といった想いがその背景にあるからだと思います。
そこで、「むしろパパ育休取るなんていいじゃん!」と会社からいってもらえるようにするためのパパ育休プログラムという形式はないのか?という問いです。
仮説:閑散期の人件費削減と若手の人材育成を両立するパパ育休
では、最終的な仮説を紹介します。
【概要】
1. 閑散期に育休取得を推奨し、後任の若手に教室運営を任せることで、人件費削減に繋げる。
閑散期(9月〜1月)にあわせて、男性が育休を取ることを推奨することで、その期間の人件費削減に繋げる。この企業の繁忙期は、2〜3月(教室開講準備)、4〜5月(教室開講)、7〜8月(夏休み講座)。9月〜1月は業務が落ち着いている。
2. 20代に教室運営を担ってもらうことで、成長する機会を提供する。
4〜8月の繁忙期に教室補佐を務めた優秀な若手に、講師が育休で不在のタイミングに教室を担ってもらう。責任を持って教室を運営する経験を持つことで成長機会を提供する。また、このタイミングに、育休取得者が 1 on 1 のメンターとして関わり、悩みの相談にのる。
3. 後任者のメンターとして業務に薄く関わることで、育休後も職場に戻りやすい環境を提供する。
育休取得前に、1 on 1 の研修を受けコーチングスキルを学び、その実践をこの期間に行う。物理的に仕事をできないため、部下を持つためのトレーニングにもなる。結果、育休から戻ったとしても、仕事から離れきらずに業務に戻ることが可能になる。
4. 育休取得後、親の悩みに共感でき、話の背景を想像できるようになることで、親との信頼関係構築をよりできるようにする。
現状忙しすぎて、目の前の生徒としか接する時間がない。育休期間中に、自分自身が親として、児童館にいったり、他のパパ・ママとつなげることで、彼らの生活実態、悩み、教育について求めていること、を知る。結果、生徒の親の話にも共感をしながら、親身に話を聞くことができるようになる。
以上です。
これの本質は、会社の具体的な年間スケジュールを見ながら、繁忙期と閑散期のギャップを狙い、「会社の実務の実態」と「コスト削減」と結びつけることで会社の具体的な「利」と結びつけたことです。
つまり、育休を取りたい個人にとって、「僕だけ、私だけ休んでいいのか、みんなに迷惑をかけて」という育休を取ることへの罪悪感を拭い去り、「会社にとっても利益のあることだからしっかりやりましょう」といえる状況を作れることに価値があると思います。
繁忙期と閑散期が明確な会社におけるパパ育休
上記案は、リゾート施設・観光地・飲食店などの、繁忙期と閑散期が明確な会社に対しては、経営陣のコストを削減したいという思惑と重なる施策になるのではと思っています。
上記はひとつのパターンに過ぎませんが、これからも、このように、「パパの育休」が、個人にとっても、家族にとっても、企業にとっても、メリットのある具体的な形を、ひとつひとつ模索していければと思っています。
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