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人間の出産プロセスからみる創造行為について。

「創造」をテーマに探求していると、改めて「人間の出産」のプロセスとは興味深いなと思う。

第一に、母親は子どもを生むまで、子どもの顔も声も性格も知らないということ。母親が生んでいるはずなのに、何を生むかを知らないのだ。知っているのは、よくお腹を蹴るやんちゃな子かと、男の子か女の子か(これも間違えたりする)位ではないだろうか。

創造行為も同じで、漠然とイメージしていたとしても、作曲家は曲ができるまでどんな曲ができるかわからないし、小説家も物語が出来上がるまで何ができるか分からない。「創造している」はずなのに、「創造する内容を本人も知らない。」という不思議な構造がそこには存在している。

第二に、母親は子どもを作ろうとしないけれども、子どもは育っていくこと。母親はお腹の中で、手を生やそうとして生やすことは出来ない。心臓動け、と念じて心臓を動かすことは出来ない。生まれた瞬間に、肺呼吸になって、泣いて呼吸して、ママのおっぱいを見つけてチュパチュパ吸ってと言わなくてもそうなる。

1のポイントと重複するけれども、母親が育み生んでいるはずなのに、勝手に育つのだ。健康に育ってね、という願いは誰しも持っていると思うが、具体的な部分は、育ってしまう。そのように僕たち人間は出来ているらしい。

第三に、トツキトオカという期間があること。なぜか知らないが、多くの場合、この前後1週間程度しかずれずに子どもは生まれてくる。トツキトオカというだいぶ長い期間にも関わらず、1週間どころか数日程度のズレで生まれてくるとは驚異としかいいようがない。

ポイントは、早くしようとして早く育ち生まれるものではないし、時間をかけたから丈夫に育つわけでもないということ。だから創作行為にも、育む期間が必要であるし、同時に世に出る適切な瞬間というものがあるのかもしれない。

第四に、トツキトオカという期間中は、子宮に守られ育つこと。始めから外界にさらされているわけではなく、母親のお腹の中、子宮の中という守られた場所で、一定程度まで成長する。

どんな創造行為も、壊れやすい初期のタイミングというのは何者かの器の中で守られて育っているのかもしれない。その後、ある瞬間にへその緒を来られるように、夜に出ることとなる。

第五に、産みの苦しみとして、文字通り肉体がぼろぼろになりながら生まれてくること。陣痛から出産までの流れとは壮絶なものだ。母親の肉体の形が変わりながら、生まれてくる。無痛分娩という出産方法も生まれているが、痛くないだけで肉体がぼろぼろになって生まれてくること、そこから数ヶ月は回復に必要なことは変わらない。

創造行為も終わった後は茫然自失となる。終わった、、、という達成感なのか、安堵感なのか、喜びなのか、無なのか、わからないが、すべての感情があわさったような状態になる。

第6に、へその緒が切られた瞬間、この世に独自の存在として生まれ、名付けがされ、世に出ること。へその緒が切られる瞬間までは、母親の一部であったものが、この世界に物理的に独自に存在することとなる。これを第一の誕生とすると、名前をつける。そうすると、誰から見ても、「赤ちゃん」という呼び名ではなく、「何々ちゃんね」、と個体を識別できる存在として生まれ出ることになる。これが第二の誕生だ。

創造行為も、ただ形になっただけではそれが何かわからない。それに作品名がついた瞬間、それは独自の作品となる。名付けとは重要な行為なのだ。

ここまで、6つの観点から、出産プロセスと創造行為について考察してきたが、最後にレイヤーの違う興味深い観点がある。それは、「出産」を通して、新しいアイデンティティが生まれることだ。

言葉にすると当たり前のことであるが、母親は、母親になるまで、子どもを生んだことはない。だから自分が本当に産めるのか、母親になれるのかわからない。不安にもなる。

しかし、いくつかの悲しい現実を除くと、大枠、母親に慣れてしまう。どうやって生んだらいいのかも知らないし、どんな子どもが生まれるのかも知らないけれど、子どもを産めてしまう。その瞬間、それまでいくら不安だろうと、自分なんかが母親になれるかと不安だろうと、「母親」になってしまう。

創造行為も同じで、天才にしか出来ない、自分なんてと思っているが、一度生まれてしまったら、「生まれてしまった」という事実は変わらない。作家になるのだ。「創造」を体験してしまうと、母親が母親になるように、作家は作家になってしまう。

これはものすごく不思議なことだと個人的には思うのだが、皆さんはどう思うだろうか。

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芸術のげの字も知らなかった素人が、芸術家として生きることを決めてから過ごす日々。詩を書いたり、創作プロセスについての気付きを書いたり、生々…

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