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特撮ヴィラン語り ~その429 泥怪人ツチケラ~

日本独自の文化とも言える「怪談」。海外だとオカルトって悪魔や怪物がメインで、怪談のように悲しい背景を秘めた怖い話ってあんまりないのかなって思うんですよね。
そしてそんな日本で生まれた特撮ヒーロー作品にも、怪談のエッセンスを取り入れた話が多くあります。

ウルトラマンガイア」に登場したこの泥怪人ツチケラ。その名の通り泥の塊のような姿をしたコイツは、近づく者を底なし沼に引きずり込む妖怪として噂されておりました。
しかしなんとその正体は、遥か昔に日本軍が開発していた細菌兵器の実験に巻き込まれた科学者だったのです

太平洋戦争の最中、日本軍は劣勢を覆すために敵国に細菌兵器をばらまくという計画を立案しました。
ですがそれは、戦いに参加していない一般の人々を虐殺するという非人道的にもほどがある行為。兵器開発を行っていた科学者の1人である近藤はその計画に反対します。
が、軍の上層部は計画を強行。口封じも兼ねてその近藤を細菌兵器の実験台にしてしまったのです。その結果、彼は怪物に変貌。計画に参加していた関係者全員に襲いかかり、ただ1人生き残った友人の平野にかくまわれ山奥でひっそりと暮らすことになりました。
そして決して罪のない人々を傷つけることがないよう、平野はツチケラの怪談をでっち上げ、人々を遠ざけようとしたのです。

これが怪談なんですよ
裏には必ず人間の業がある
水木しげる先生も納得の怪談です(え)

近藤が細菌兵器の開発計画に反対した理由。それは彼の娘が空襲により亡くなったことにありました。
自分たちが戦うことで、何の関係もない一般市民が巻き込まれて死んでしまう。軍人たちの家族まで死なせる必要はないと、戦争のおろかさを思い知ったからです。
ツチケラの姿になってもそんな最低限の理性を残し、ギリギリまで自我を残してきた近藤。しかし彼は遂に限界を迎え、巨大化したツチケラは本能のままに破壊行為に動いてしまいます……

ウルトラマンシリーズって、こういう社会派な難しい話も結構ガッツリやるんですよね……戦争、差別、環境問題、なかなか解決とはいかない重苦しいテーマを積極的に物語に落とし込んで来るというか。
妖怪伝承と絡めながら最後は戦争反対というテーマに帰結した悲しい怪物、ツチケラ。グロテスクな容姿からトラウマエピソードとしても語られましたが、単に怖いだけでは終わらない深いメッセージを込めたキャラクターとして、今後も語られ続けて欲しいものです。

matthew

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