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特撮ヴィラン語り ~その188 アルマジロオルフェノク/森下義正~

平成仮面ライダーシリーズの中で私matthewは「仮面ライダー555(ファイズ)」が一番大好きなんですが、その大きな理由って「善悪の曖昧さ」なんですよね。
誰が悪人かというストレートな話じゃなくて、善人だってきっかけがあれば悪に転じもするし、悪役側にも同情できる背景があるし、何が正義なのかとにかく考えさせられる描写が多いんです。

その軸となったのが、怪人:オルフェノク側の主人公である木場勇治/ホースオルフェノク。
交通事故に遭い一度命を落としたはずの木場は、偶然にもオルフェノクの素質に目覚めて奇跡的に蘇生。しかしその時には彼の家族の財産は従兄弟に奪われ、結婚を約束していた恋人:森下千恵も従兄弟に奪われ文字通り全てを失ってしまいました。
その絶望から、木場はホースオルフェノクに変身して従兄弟を殺害。蘇生した木場を邪魔者扱いした千恵もその凶刃で手にかけてしまいます。

冷静に考えたら重いよね日曜の朝から話が

まぁ木場の絶望は仕方ないことだと、同情の余地はあるんですよ。そりゃ人殺しは絶対ダメだけど。
ともあれその罪の意識を感じながらも、木場は同じような境遇でオルフェノクになった仲間たちと共に、人類との共存を模索します。

しかし、全くのおとがめなしってわけがないんですよね。
とある日、木場は街で一人の青年に出会います。彼の名は森下義正ーー木場が自ら手にかけた千恵の兄でした。

地獄のサスペンスじゃねえか日曜の朝から

千恵の遺体は、オルフェノクの能力で殺害されたことで灰になってしまっています。なので遺体がなければ証拠もないから警察が動けるはずはない。しかし義正は彼女が殺されたと考え、仇を討とうと一人で行動していたのです。
そして木場も、もちろん自分がやりましたなんて言えるはずもなく。まさかの遭遇から罪悪感が一気に押し寄せてメンタルぐちゃぐちゃな状態のまま、犯人探しに奔走する義正に同行します。

ところがなんと、その義正が他のオルフェノクに襲われて命を落としてしまーーわず、なんと木場の目の前でオルフェノクの素質に目覚めて蘇生。悲劇はさらに加速します。

やめてもう木場のメンタルのライフはゼロよ!!

犯人探しのために千恵の通っていた大学を訪れた義正は、彼女の同級生から聞き込みを開始。
ところが実は意外と千恵ってクソ女だったらしく、聞こえてくるのは男をとっかえひっかえするなどといった悪評ばかり。「怨まれても自業自得だ」とまで言われる始末。
そんな妹の素顔を知らない義正は、妹を侮辱された激情に駆られアルマジロオルフェノクに変身。なんとその同級生を殺害してしまいます。
自らに目覚めた力を自覚した義正はーー「復讐のために神が力を授けてくれたんだ!」とオルフェノクの姿を受け入れた挙げ句、力に呑まれて暴走。もはや仇討ちどころでは済まされず、妹を悪く言う人間全てを標的にキャンパス内で大虐殺を敢行してしまうことに。

木場、もはや生き地獄です

衝動的に犯してしまったかつての罪が、何倍もの大きさになって返ってくるというこの皮肉さ。
相手は自分と同じオルフェノクで、自らが思い描いていた人類との共存のビジョンを木っ端微塵にぶち壊すような暴走状態。しかし元を正せば自らが蒔いた種で、義正を殺すことは自分のかつての罪の上塗りにしかならない。まさしく因果応報。

木場はただただ状況を嘆くことしか出来ず、動けない。
オルフェノクがみな悪人ばかりでないと悟り戦いに悩んでいた乾巧/仮面ライダーファイズは、互いに正体を知らないまま友人となった木場のそんな苦悩を察し、遂に覚悟を決めます。
平成ライダーシリーズでも屈指の名セリフはこうして生まれました。

「迷ってるうちに人が死ぬなら、戦うことが罪ならーー俺が背負ってやる」

これこそまさに「555」なんですよね。
正しいと思って起こした行動がかえって悪影響になるかもしれない。
でも正義か悪かの線引きを明確にすることは簡単ではない、だから悩む。
しかし悩んでもそれだけでは何も解決しない。だから「やるしかない」。理不尽な状況にただただ抗うために、それぞれが自分の思いに従って戦う。その結果誰かが傷つくことになっても、「やるしかない」。
今もう一度思い返しても、こんなに人間の苦悩を鮮明に描くストーリーってなかなかないと思いますね。

ただ、重すぎて日曜の始まりがしんどい点には目をつぶりましょう

matthew

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