見出し画像

夕張支線の廃線から感じたこと

はじめに

元号が「平成」から「令和」に変わる前に書き残しておきたい、と思ったのが北海道夕張市についてのことです。

夕張に興味を持ったきっかけ

北海道へ来る前に知っていた道内の地名はごくわずかでした。

知名度の高い札幌や旭川、函館をはじめ、地理や歴史の授業で出てきた釧路や日高といった地名は知っていましたが、本当に代表的なものだけ。夕張はメロンの産地として頭にインプットされていました。

夕張=メロンというイメージを変えたのが「幸福の黄色いハンカチ」という映画でした。この作品で描かれているのは、メロン産地ではなく炭鉱の街としての夕張。

平成生まれの人間にとっては、石炭よりも石油の方が馴染みがあります。だから炭鉱と言われても、正直パッとイメージが湧かなかったのですが、この映画をきっかけに興味を持つことができました。

映画のラストシーンでは、黄色いハンカチが澄んだ青空に向かってたなびきます。あのまさに「幸福(しあわせ)」な光景=私の中での北海道のイメージとなりました。

同時にこの映画で主演の高倉健さんの格好良さにすっかりハマってしまいました。すかさず「鉄道員(ぽっぽや)」等、健さんの出ている北海道を舞台にした映画を借りてきては、むさぼるように鑑賞したものです。

こんな経緯で、北海道へ移住してからも、夕張に何度も足を運んでは、故郷ではないものの、どこか懐かしい感じを憶えているのです。

かつての炭鉱の賑わいが嘘のように、現在の夕張の通りのお店はほとんどシャッターが閉まっています。日中も人が歩いているのを見ることは少ないです(これは北海道の他の町でも同じようなことが言えるのですが)。

それでも数少ない、扉の開いたお店に入り、店員さんとお話しすると、上述の財政上の理由で市民サービスが手薄になっても、夕張を愛し、一生懸命生き続ける人の姿に接することができます。

なんとなく気に入ってしまったため、北海道内で住んだ場所を除けば、訪れた回数は夕張がナンバーワンです。

「炭鉱から観光」への転換に失敗

日本のエネルギー政策は、昭和30年代に、石炭から石油へと大きく転換していきました。

夕張は元々山間に炭鉱開発で開かれた地で、農業には向かない土地が多かったことから、市は「観光の街」への転換を急激に推し進めていきます。

しかし、テーマパークやスキー場の開設、大型イベントの開催などでも集客は振るわず、徐々に建設費用などの累積赤字が膨らんでいきます。

そしてついに、自治体では珍しい財政再建団体に転落してしまいます。

全盛期には11万人を超える人口を誇りましたが、現在ではその10分の1以下まで減少しています。

夕張支線の廃線前に夕張へ行ってみた

JR北海道、石勝線(せきしょうせん)の新夕張駅ー夕張駅間は、夕張の石炭を運ぶために1892年に敷設された「夕張線」を起源とし、「夕張支線」と言われていました。

その夕張支線が今年の3月31日を以って廃線となり、バスへと転換されることが決まりました。

私は夕張支線が廃線になる前に、もう一度現地を訪れようと思いました。今年の3月はじめのことでした。

有志で結成された「ありがとう夕張支線実行委員会」が中心となって、市民の皆さんは、訪れた人を温かくおもてなししようと努力されていました。

そもそも利用客が少なく、維持が困難となり廃線となったので、このような「廃線フィーバー」で一時的に沸いても、しばらくしたら忘れ去られてしまい、また寂しい光景が広がるのでは、そんな悲観的な思いがありました。

しかし100年以上の長い歴史を持つ夕張支線、これまで数え切れないほどの石炭と人を運んできた路線の有終の美を飾ろうという地元の有志団体の方々の頑張りを間近に見て、私は大きく心を打たれました。

このときは実行委員会の方から誘われて、一緒に黄色いハンカチを振って列車を見送ることができました。地元民でない自分がそこに参加できたこと、一生忘れられない体験となりました。感謝しかありません。

本当の廃線前にもう一度夕張へ行ってみた

そんなことから、3月の終わり、廃線になる本当の直前に、もう一度、ある種の使命感に駆られ、夕張を訪れました。

新夕張駅から夕張駅へと向かう坂道、道路には多くの自動車が走っており、線路脇には無数の「撮り鉄」とそれを各スポットで監視する警備員、決して短くはない距離をカメラ片手に歩き続ける人、それは私が初めて見た「活気ある」夕張の姿でした。

往年はもっと活気があったのでしょうが、町の空気には高揚感が満ち満ちていて、嬉しい気持ちになりました。

これからの夕張

夕張支線の廃線前も後も、夕張の置かれている状況が厳しいことには変わりありません。

でもこの街には不思議と惹きつけられるものがあり、私はこれからも何度も訪れたいと思います。

幸い、今住んでいる十勝からは日帰りでも行ける距離にあります。

そして同時に、今回の廃線を機に夕張に関心を持った皆さん、そしてかつてこの地を訪れた人たちに、ぜひともまた足を運んでほしいと願うばかりなのです。

夕張に行くと毎回買ってしまう「たんどら」を食べながら。(絶品です!)

令話の時代が平穏無事な時代になるよう祈念して。

サポートいただきありがとうございます。地域活性化活動、特に次世代の子どもたちの探究学習の支援に使わせて頂きます。