#019 シリコンバレーでの2020年のスタートアップのサバイバルとVC投資の状況(その1)

コロナウイルスの影響が全世界に広がったことで、米国株式市場はかなり不安定になっています。また、このコロナウイルスは米国だけでなく世界中で景気を下振れさせるリスクを増大させるというレポートをコンサルティング会社のMckinsey & Company が発表していました。

ただ、2019年から続く米中貿易摩擦の影響や今回のコロナウイルスの影響を考慮しないとしても、シリコンバレーではテック関連投資とスタートアップにとっては2020年は厳しい年になるだろうと昨年から言われていました。今回は、2020年のシリコンバレーにおけるテック関連スタートアップの全体感を描いておこうと思います。

外的環境の変化

投資環境が厳しくなっている一番の理由は、スタートアップのValuation(評価金額)があがりすぎてしまったということです。好景気が長く続いた結果としてVCに入るお金も増えたということもあり、誰もが高いと思いながらも簡単には降りることができなくなった状態にあるようにみえます。
誰もが「自分に影響がないのであれば、投資環境が落ち着いてほしい」と思っていますが、残念ながらそんなラッキーは怒るわけがなく、投資環境が落ちる時には全員に影響がくるものです。

ちなみに、シリコンバレー全体で見るとSoftbank Vision Fund(SVF)は、そもそもVCとは若干異なる戦い方をしていると捉えられており、SVFによって投資環境が大きく変わったとはみなされていません。

次の理由としては、大きな波となるようなテクノロジーのネタがなくなってしまったということです。後述するようにテクノロジーそれぞれで理由は異なりますが、業界全体が盛り上がるような大きなテクノロジートピックがないため、全体として調達額が大きく増えるような業界はなかなか見当たりません。

そして、最後の理由が2020年は大統領戦があるということです。これが何で投資熱を冷ますことになるのか、肌感覚としては今ひとつ分からないのですが「予見できない不確実性が存在する」ということが意思決定に影響するのかもしれません。
シリコンバレーがあるカリフォルニアは民主党の鉄板地盤なので、トランプの話を好意的にする人はあまりいないのですが、もしかしたら後4年間はトランプになりそうというのがやる気を削いでいるのかも・・・?(そんなわけないでしょうが)

AI(Artificial Intelligence)

ここ数年、投資をリードするトピックの一つであったAI(Artificail Inteligence)ですが、そろそろホットトピックとして取り上げられる時期は終了したという感覚があります。少なくともAIを使っているという理由で投資が集まる時期は終了しました。

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いくつかの理由が挙げられますが、もっとも大きな理由としては「単に優秀なAI技術者やデータサイエンティストがいただけでは、よいビジネスは生まれるわけではない」という理解が普及したことが挙げられます。

ここ数年続いているAIブームにより、以前よりもAIを利用してプロダクトやソリューションを構築することが可能な人材は大幅に増えました。ただ、一部のトップ人材を除けば、彼らができることは指示を受けて「AIを活用すること」であり、市場に受け入られるプロダクトを自分で開発できる人間は多くありません。

シリコンバレーでは結局のところ、「マネーは技術ではなくプロダクトから産み出される」と考えている投資家が圧倒的に多いですが、現状では「AIを使いこなせるプロダクト・マネージャー」が不足しているというのが共通認識です。結局のところ、いいプロダクトが生み出せないスタートアップは退場するしかありませんし、今年から来年にかけてはそういった退場劇が増えていくのではないかと予想されています。


ちなみにこの状態は「AIは役に立たない」とみなされているわけではない、というのは注意がいるところです。むしろ、AIの活用は最早当たり前になりすぎて、わざわざそれだけでは投資テーマにならなくなってしまっているというのが、現在の状況です。

5GとIoT

5Gの商用サービスが始まって、いよいよIoTの本領が発揮されるのでは・・・と一部では期待されていますが、いまのところ5Gを活用したIoTは「高価な大人のおもちゃ」以上の存在にはなりえていません。

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今のところIoTや5Gを前面に押し出したメジャープレイヤー(今後企業価値が大きくなると期待されるスタートアップ含めて)はまだ存在していません。なぜメジャープレーヤーが生まれていないかというと、まだ明確なユースケースを描ききれていないからというのが大きいようです。


5Gはその技術的な特性を考えると、提供されるサービスはB2CというよりもB2(B2C)のような形にならざるをえないと思います。言い換えるとB2Cのようにアプリを開発して、一気にマスを取りに行く・・といったこれまでのスタートアップの勝ちパターンを適用がしづらいのです。

B2B2Cのような形でたちあげをするということは、スタートアップが既存の大企業に採用される必要があります(B2B2Cの最初のBがスタートアップで、真ん中のBが既存の大企業)。ただ、共同開発やコンセプト開発はともかくとして、商用ベースで採用がされるためには明確にユースケースが定義されている必要があります。
そして、矛盾するようですがユースケースを明確に定義するためには、最初のお客様との協働実験やβ版での利用が始まり、考慮すべき外的要件を明確に仕切る必要があるのです。

つまり「使えるようになるためには、"何に"”どうやって”使えるのかを明確にしなければならない」一方で、「"何に"”どうやって”使えるのかを明確にするためには、まずは使ってもらわないといけない」ということです。


このジレンマに陥らないようにするには、多少ユースケースが甘くても・・言い換えればMVP(Minimum Viable Prodcut)の状態でも利用してくる一般ユーザー(C)に向かうしかないのですが、5G特性が活かせるようなネットワークが整備されておらず、デバイスも少ない2020年の状況では、こちらの方法も難しいです。2010年代(スマホアプリの時代)の勝ちパターンであった、一気にスケールさせてビジネスを確立するという方法論が使えないのです。


・・・・ということで、米国のスタートアップ業界でも5Gはまだメインストリームにはなっていない状況です。おそらくこの領域ではまずB2Bのユースケースを明確にしやすい領域(スタジアムやライブ体験など・・)で有力なスタートアップが出てくるのではないかと想像しています。

長くなってきたので、他の領域(Robotics, 量子コンピューティング, AR/VR)は次の記事に回したいと思います。



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