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世界線が交わる時

 刀剣を絵として描く事を割と日常的にしていると忘れがちな事がいくつかありますが、偶にその事を思い出させてくれる事や、それによって気付かされる事も色々あったりします。
 先日の展示の話とそれ以前にあったとある出来事から思った事など。


刀が在るのが普通の世界線とそうでない世界線

 先日の展示会で感じた一番大きな身の回りの世界と自分の精神の乖離点、それは「刀剣は普通に存在する」と思っている人の世界線は私を含めてかなり特異な世界線で、その他一般の方々が行きている世界線にはそれがどうもない、という事に気付かされた事でした。
 あちこちで「今現在、日本に日本刀というものが形を残して現存しているという事を知らない人は結構居る」という話は聞いてきたのですが、自分が作品と共に「か↓た↑な↓!?」と何度も確認されると「嗚呼……本当に刀剣というのが現存しない世界ってあるんだな……」としみじみと感じてしまいました。
 いや、ありますよ、刀。何ならウチにもありますよ、脇差ですけど。あ、ハイ、切れますね、一応真剣なんで。いや斬らないですけど、見るだけですけど。あとお手入れはしますね、ハイ。
 という感じ。
 まぁ、アレです、少なくとも「刀剣専門の雑誌が存在する」という事を世の中の一般的な人々はまず知らない、という事です。……割と悲しいので少しずつ広めていきたいです。

 ……何だか随分遠い世界に住んでるんだなぁと思ってしまうのも事実ですが、刀剣を絵にする事を仕事にしていると、意外な所でその世界が交わる事があるのです。

刀は冷たい?怖い?危ない?……それとも温かい?

 私が現時点で一番多くさせて頂いている絵の仕事というと『御守刀姿写(おまもりがたなすがたうつし)』という作品づくりです。主に新しくお生まれになったお子様が居られるご家庭に宛てて、私の母からの注文で描いている由緒ある短刀とその拵のセット作品なのですが、去年末から今年の頭にかけてだいぶな労力を注ぎ込んで描いた七枚の作品(当然7人分という事。それぞれ別ですがごきょうだい方に向けて描いたものです)でした。
 その内四枚が贈られたご家庭のお母様から母経由で感想を頂きました。

『これまで「刀」と言ったら、怖くて、危なくて、冷たいものという印象しか持ってこなかったのだけど、「御守」として我が子に贈られた絵としての姿を見た時、初めて温かくて、綺麗で、良いものなんだと思いました』

 あ、世界線が交わった。

 その時ふとそう思って、「通じた!」という感じを持ちました。
 そして同時に、そうだよ、私は刀を良いものだと思ってるし綺麗なもの、美しいものだとも思ってるし、神聖な力を持つものだとも思ってる、だから目の前の刀(多くはモデルの写真ですが)をそういう風に描かないと伝わらないし、逆に言えばそう描けば伝わるんだ、とも思いました。
 要は思っている通り、感じている通りに描け、という事なんですけど、基本目の前の図像の姿を写すような姿勢で描いていたので、姿はどうか、反りは良い感じか、刃文は見えているか、肌は見えているか、鋒の表情は出ているか……そっちの方に気を取られている事の方が多かったんですね。
 正しく描かないと、という気持ちと言えばそうなるでしょうか。
 多分、無意識のレベルで既に綺麗だとか美しいという思いがあったので自然とそれらが入っていたのかもしれませんが、無意識の次元なので意識してやっているつもりはなかったのです。
 それでも伝わるものは伝わった。通じた。
 それを感じたのは展示会より結構前だったのですが、展示会でとりあえず「へぇ~」と言いながら作品を覗き込む方々から「何処がええのん?」「何が好きなん?」と言われる度に、自分は反りと小鎬フェチなのでその辺を見ちゃうんですけど、姿も地鉄も刃文も大体全部好きです、と答えていた時に、『嗚呼きっと、今喋ってるこういうのが描いてて出るんだなぁ』と思いながら話していました。
 そして、それらをそう思っている通りに描けば伝わる所には伝わるんだ、という事もひしひしと感じていました。

伝わるなら、そう描こう

 その展示会からほんの少し経ち、また新たに手元で刀の画像を計測しながら描こうとしていた時、自分の中に明確な志向が生まれたのを感じました。
 私は刀を美しいもの、綺麗なもの、色々な技術が詰まった総合的な工芸美術だと思って接しているし、それを身近なものとして感じて生活している。だから、同じ描くならそう描こう。美しいもの、良いもの、総合的な工芸美術として、或いは時には正直に武器としての機能美の姿として、そう感じているままに描こう、という事です。
 他でもない水彩というツールで描く事になったのも何かの縁かもしれないと思い、その良さがそのツールの力で届くように描いていこう、と思いました。

 同じ刀を何度描いても、その時々で満足のいく場所は変わり、中々「これでヨシ、もうこれで最終形態!」と思いきれる事は中々ありません。何度リベンジしても満足に至らない事ばかりです。
 それでもその度によりブラッシュアップして、より良い工芸美術であり武器の機能美であるその姿を伝えるように描いていこうと思っています。


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 ではまた次回!


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