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もう一つの「ワールドカップ」と日本代表の覚醒

※この記事は7月6日に別のサイトで掲載した記事を移行したものです。 

 サッカー日本代表が下馬評を覆し、大きなインパクトを残したワールドカップ。連日盛り上がりをみせるサッカー界を横目に7月2日、バスケットボール日本代表も「ワールドカップ」アジア一次予選を突破し、二次予選へと歩みを進めた。が、このことを知っている人がバスケット関係者やファン以外でどれほどいるだろうか。

 周知の事実だがサッカーワールドカップはスポーツ界最大のビッグイベントであり、日本においても期間中、毎日あらゆるメディアが大体的に情報を発信している。従い、元々日本ではメディアの注目を集めにくいバスケットボールへの注目がさらに霞んでしまうのもわかる。それは理解しているのだが、筆者は声を大にして言いたい。6月29日の日本対オーストラリアの一戦は日本のバスケット史ではもちろん、スポーツ界でもまれにみるアップセットだったと。

写真:FIBA公式ページより http://www.fiba.basketball/basketballworldcup/2019/asianqualifiers/game/2906/Japan-Australia

<FIBAバスケットボール・ワールドカップ>

 そもそも99%の人々の頭の中にはワールドカップ=「サッカーワールドカップ」というイメージがあると思うが、実はバスケットにも「ワールドカップ」なるものが存在する。知らないのも無理はない。なぜならバスケットにおいて「ワールドカップ」という呼称が使われだしたのは2010年以降、ごく最近のことなのだ。それまでは「世界選手権」と呼ばれていた。次回の「ワールドカップ」は2019年に北京で開催予定であり、現在はその出場枠をかけて世界各地で予選が行われている状況だ。余談になるが、「FIBA」とは国際バスケットボール連盟であり、その加盟国(地域)は213ヶ国と、サッカーのFIFA(211ヶ国)を上回っており、バスケットボールというスポーツがいかに世界の隅々まで普及しているかを物語っている。

<バスケットにおけるアップセット>

 さて、その「ワールドカップ」の一次予選を終え、日本代表は全6試合を2勝4敗の成績で一次予選の通過を決めた。この2勝4敗という結果だけをみれば負け越しており、決して誇れるものではない。初戦から第4戦までは4連敗を喫しており、二次予選への出場は危機的と言わざるを得ない状況にあった。しかし、残り2試合で日本代表は全く別のチームとなった。これまでアジア無敗、圧倒的格上であるオーストラリアを撃破し、さらに続く7月2日、前回ホームで敗北を喫したチャイニーズ・タイペイを40点差で下したのだ。
ここでそれぞれのFIBAランキングを確認しておくと、日本は48位、オーストラリアは圧倒的格上の10位、またチャイニーズ・タイペイは若干下の55位となっている。ランキング上で38も上に位置し、前回も大敗したオーストラリアに対して勝利を収めるなど、筆者も含め、バスケ関係者やファンでも予想できた人はかなり少なかったと思われる。

 この話を聞くと「いやいや、サッカーはFIFAランキング61位なのにワールドカップでは16位のコロンビアに勝ったし、3位のベルギーともいい勝負をしたのだから、あり得るでしょ」と思う人もいるかもしれない。筆者は今回のサッカー日本代表の活躍は非常にリスペクトしており、そこに異論を挟むつもりはない。しかし、大前提として押さえておきたいのは、サッカーという競技は比較的アップセットが起きやすく(それもサッカーの魅力ともいえるのだろうが)、バスケットボールという競技は元来、それが起きにくいスポーツだということだ。

 この点についてもう少し考えてみたい。まず、サッカーは攻撃が直接得点につながる回数が極端に少なく、点数が積み上がりにくいスポーツだ。強豪チームが何度も攻めて圧倒しても0点という試合もさほど珍しくはないし、逆に限られた攻撃回数でも1点さえ取れば、弱小チームが逃げ切って勝つというパターンもよくみる。また、足をメインに使うスポーツであるためミスが起きやすく、一回のミスが勝敗を決定的に分ける失点となることが多々ある。さらには11人という人数の多さ、天候なども含め、勝敗に係る変数は相当多いといえるだろう。そのため実力が常にそのまま結果に反映されるとは限らず、これらがアップセットを起こりやすくしているものと考えられる。今回のワールドカップにおける日本代表の活躍もアップセットと言えるだろうし、予選でFIFAランキング57位の韓国が1位のドイツを破ったことなどは直近の最たる例ではないだろうか。

写真:FIFA公式ページより  https://www.fifa.com/worldcup/matches/match/300331550/#match-photos

 一方バスケットの場合、世界ランク50番台のチームがランキング一桁に勝つどころか、10番台のチームに勝つこということもほとんど起こらない。得点も高確率で入り、100点を超える数字がしばしば記録されるため、偶然がアップセットに直結することが少なく、地力がほぼそのまま試合結果に反映されやすい競技といえる。バスケット界で最も有名なアップセットと言われている2006年の世界選手権準決勝では、ギリシャ代表がNBA選手で固めたアメリカ代表を下したが、そのギリシャにしても、もともと相当な強豪国であり、過去に何度もオリンピックや世界選手権で入賞をしている国である。

 そのような事実もふまえて考えると、今回48位の日本が10位のオーストラリアを破ったということは、まさにアップセットと呼ぶにふさわしい素晴らしい快挙だったということだ。そのことをもう少し世の皆様にわかって頂きたいという想いを抱いているのは、筆者だけではなく世の中の多くのバスケファンもそうだろう。

<アップセットの原動力>

 今回、日本のアップセットの原動力は明らかである。今年4月に日本に帰化し、Bリーグで無双の活躍を続けるニック・ファジーカス(210cm)とNCAAのディビジョン1の強豪・ゴンザガ大学に所属し、NBA入りが有望視されている八村塁(203cm)を代表に召集したのだ。結果、このチーム編成は大成功した。内容の詳細は各メディアでも語られているので割愛するが、最大の弱点であった高さを克服し、得点力・リバウンド力が飛躍的に改善したことが大きい。オーストラリア戦においては全79点中49点を2人で稼ぎ出し、チームリバウンドの数も前回のオーストラリアとの第一戦の21本から44本と倍以上に改善した。また、二人に触発された他のメンバーも奮起し、これまでとは見違えるような積極性とハッスルプレーをみせた。まさに日本代表は覚醒した。

写真:FIBA公式ページより http://www.fiba.basketball/basketballworldcup/2019/asianqualifiers/game/2906/Japan-Australia

 オーストラリアはベストメンバーではないとはいえ、オフシーズンということもあって、NBA選手であるデラベドーバとソン・メイカーという2人を招集しており、それだけでも、普通に考えれば余裕をもって全勝の予選突破が狙えるチームだった。日本に負けるなどとは微塵も思っていなかっただろう。日本代表は続く7月2日のチャイニーズ・タイペイ戦も勢いそのままに快勝し、二次予選への出場を決めた。

<今後の日本代表に対する期待>

 二次予選は9月に開催されるのだが、それを突破して「ワールドカップ」に出場するためには所属するFグループ6チームの中の3位以内、もしくはE、F合わせた12チーム中の7位に入る必要があり、まだ本戦への道のりは険しい。そして2019年の「ワールドカップ」の結果次第で東京五輪への参加が決まるとされている。是非とも自力で参加を勝ち獲ってもらいたいと願うばかりだ。

 2020年の東京五輪ではファジーカスもまだ現役だろうし、その時にはNBA選手になっていると予想される八村、現在NBAのサマーリーグに挑戦中で、先にNBA入りが期待されている渡邊雄太を中心に、今年IMGアカデミーに入学した田中力など、若手も次々と台頭してきている。彼らが中心となってさらに躍動し、黄金時代に突入する日本代表の姿を妄想せずにはいられない。向こう数年、しばらく日本バスケは非常に楽しみな要素が満載なので、ぜひともこれを機にバスケファン以外の方々も注目し、応援して頂きたいと思う。以上、長文・駄文お詫び申し上げたい。

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