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合気道マニアック本解説「植芝翁先生の教え」談:早川宗甫 編:愚朗

合気道関連本は高いし内容もよくわからない事が多い。そんなわけで、自ら率先しておれが読んでレビューしてみる。

今回は2022年の4月に刊行されたてホヤホヤの『植芝翁先生の教え』をレビューしていく。

講談社エディトリアルという自費出版系の所から出ているのでお値段がなかなかお高い。仕方ないね。

早川宗甫とは?

植芝盛平について語る早川宗甫という人が何者なのか?

あまり知られていないけれど、合気道の開祖である植芝盛平の直弟子で、かなり変わった経歴の持ち主だ。

シンガポール生まれで9歳の時に師となる老人に出会い様々な中国武術を学ぶ、13歳くらいで長崎に戻り榊原健吉にも師事していたという祖母から小太刀を学び、沖縄にも赴いて沖縄空手を学ぶ。

当時のスパイ養成学校である陸軍中野学校で合気武道を指導していた植芝盛平からも教えを受け、マレー半島でハリマオと呼ばれた盗賊、谷豊に接触し、日本軍の協力者として仲介する。

※早川宗甫の半生は、彼をモデルにした小説『東南アジアの不死鳥』に詳しい、が、だいたい出回ってない。

戦後は植芝盛平が隠居していた岩間にて稽古をし、それまでの経歴を活かしてボルネオで合気道の普及を行ったらしい。

その後もインドでヨガ、フランスで合気拳法、心理学、日本で禅などを学ぶ。
そして金沢で合気道と同じ意味で和する道、和道こと「太祖神統傳心法和道」を開く。

彼については植芝盛平も『武産合気』でボルネオにマレーの虎と呼ばれた男が合気道の指導をしに行っている、みたいな感じで言及している。

本の内容

この本は編者の愚朗こと治療家、千葉東勇平氏が早川宗甫をマッサージした時などに聞いた話をまとめているらしい。

そのせいもあってか、内容が重複してることもままあるけれど、聞いた言葉のメモを忠実に公開したと捉える事もできる。

文字もかなり太字なので、ページ数のわりには内容は少なめ。ただ、早川宗甫の言葉なんて他に残されてないので貴重なことに変わりはない。

話の内容に関してはタイトルの通り、植芝盛平から学んだ事、その他の師との共通点などがベースに語られている。

面白ポイント

基本的に言ってることは植芝盛平と同じで平常の時こそが大切で、力を抜くこと、みたいな話をしている。植芝盛平の弟子らしくスピリチュアルな話も多いけど、植芝盛平よりかわかりやすい。

かなり前提知識がないと、あんまり面白く読めないかも知れないけれど、反対に知識があるとちょこちょこ興味深い部分がある。

たまにイニシャルトークで有名師範なんかについても言及されていて、植芝盛平のボヤキみたいなのもあって面白かった。

「あれはワシの悪いところばかり真似をして、ジイが六十過ぎてから悟ったことを教えてやるから習いに来いと言っても、また神がかりのことかと言って習いに来なかった」

早川宗甫、愚朗『植芝翁先生の教え』p194

こういうのはなんとなく誰のことなのか想像してみると面白い。まぁ、ホントに植芝盛平が言ったかどうかはわからないけどね。

まとめ

というわけで『植芝翁先生の教え』は貴重な資料であることは間違いないが、かなり読み手を選ぶ本でもある。

個人的にはそれなりに楽しく読めたものの、何の予備知識もない人にはあんまりオススメできない。

という感じだった。

参考文献
松田穣『東南アジアの不死鳥』


マツリの合気道はワシが育てたって言いたくない?