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20230330 祭と野生生物

 最近論文も読まず,1行で終わることも続いてしまっていたこの祭心理学NOTEですが,ようやく久しぶりに論文を探すことができるようになりました!その栄えある最初にみつかった論文は以下のものです!
 
浦山佳恵・畑中健一郎 2016 長野県の伝統行事における野生生物の利用. 長野県環境保全研究所研究報告, 12, 35 – 43.

 祭の研究って,ある1つの具体的な祭について検討する際は関係ありませんが,さまざまな祭をあつめて共通点を探ったり,比較したりしようとすると途端に方法論的に難しくなると思っています。
例えば先日ChatGPTに「日本の祭で参加者数の多い順に20リストアップしてください。」とお願いしてみましたが,「参加者数」の定義や「どのような祭をどの範囲で抽出するか」の設定が難しく,まともな回答を得ることはできませんでした。
 そのため,最初この論文のタイトルを読んだ時は「長野県の伝統行事なんて無数にあるだろうし,そこで利用されている野生生物も無数の種類あるだろうし,どうやって抽出してどうやってまとめているのだろう?」という方法論的な関心が第一に来ました。そして実際に目を通してみると「すごく大変そうだけどこの方法は確かにありだな~。」と感心させられたのでまずはそこを引用させていただきます。

 長野県には,平成の大合併以前のほとんどの市町村で市町村誌が刊行されており,その大部分に民俗編があり,明治~昭和初期頃の年中行事や祭り・神事が記録されている.この市町村誌(発行年:1960~ 2014年)を基礎資料とし,長野県内の旧119市町村の伝統行事における野生生物の利用の有無とその用途について調査した.記載が少なかった地域については,市町村誌とは別に発行された民俗誌類を併用し,市町村誌と民俗誌類を合わせて計 114冊の文献を調査した.情報が得られなかったのは,和田村,大岡村,戸隠村,更埴市,上山田町,大桑村,松川町,高森町の 8旧市町村であった.
 調査項目は,旧市町村名,伝統行事の地方名と一般名,野生生物を用いる行事の構成要素,用いた野生生物の地方名と標準和名などとした.
 調査の対象年代は各地で多くの伝統行事が行われていた明治~昭和 30年(1868~ 1955年)とした.野生生物を用いる行事の構成要素には行事食もあったが,今後別研究において取り上げる予定で,今回は対象から除いた.
 記載された植物名は「長野県植物誌」,「日本植生便覧」,「日本植物方言集成」,動物名は図鑑類を参考に,標準和名・総称名・地方名の別を確認した.記載はあるが,標準和名や総称名が推定できなかったものは不明とした.

 分かりやすくあっさり書かれているのでその大変さに気づけずに読み飛ばしてしまいそうになりますが,これはものすごい労作だろうなあと思います。しかし,このような方法を取れば,著者が「(市町村誌に記載がないからといって)利用がないとはいえない問題があるが…」と指摘されていますが,おそらく査読などでサンプリングなどの問題を指摘される可能性はかなり低いように思われたため,類似した関心で研究を行う際には参考にさせていただきたいと思いました。
 
 そしてこのように明確にサンプリングというか全数調査された場合,変に多変量解析などでこねくり回さなくても数を数えるだけで結果がでるわけで,論文中にあげられている表はどれをみてもすぐにその内容が分かりかつ有意義なものだと思います。

 
 例えば上にあげた表は論文中の表3の上1/3ほどを切り取らせていただいたものになりますが,アカマツやタケやヤナギなどが多いという情報と共に,クザボケやクルマユリやクログワイなどの1つしか挙げられていないものも丁寧にカウントされているのが分かると思います。
 

 そして迎え盆に使われる野生生物が違うという事実自体に「ほぉ~」と関心させられると共に,それをこのように図示できるというのも面白くて,何かこう自分も祭の内容の地域差をこのように図示できるような研究をしてみたいなあとの意欲を新たにしました。

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