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『no plan in duty』─ ここにいて、たたずむ

「no plan in duty」は、2015年に初演された「非劇」を原作とした展示パフォーマンスである。2022年5月12日から23日まで開催された。作は齋藤恵汰、補綴は岸井大輔、構成・演出は篠田千明。3人のパフォーマー(荒木知佳、矢野昌幸、稲継美保)と3人の展示アーティスト(いしいこうた、うしお鶏、大和田俊)による。会場は補綴・岸井が主催するPARAであり、本公演は拠点クロージング前の最終公演であった。  PARAは、一軒の古い民家である。砂利が敷かれた庭があり、そこ

久坂葉子『愛撫』とパフォーマンスの皮肉

 久坂葉子は小説、詩、戯曲など数多くの作品を残した作家である。1931年神戸市生まれ。19歳の若さで芥川賞候補。そして21歳の大晦日、特急電車に飛び込み自らの命を絶った。  彼女が自殺する直前に書き上げた作品『幾度目かの最期』では、小説としてではなく、久坂の心情がありのままに描かれている。幾人かの男性の間で揺らぎつつ、相手の感情を取りこぼすまいと思案する姿。自分の愛をどこに所在させるか悩み、自らを「みにくい女」だともこぼしてしまう。  恋によって死を選ぶこと。  たったそ

【劇評】宮崎企画『忘れる滝の家』

 『忘れる滝の家』は、青年団演出部/ムニの宮崎玲奈が手がける新作長編作品である。  アトリエ春風舎のブラックボックス。太く編み上げられた白いビニールロープが、まず目に飛び込んでくる。舞台上に横たえられたそれは、川のようにも、蛇のようにも見える。周辺には白い椅子がいくつか並べられ、机のような台座も置かれている。その上に白いヘッドホン、マグカップ。鍾乳洞のように天井から吊るされた円錐状の白く薄い布、そして床に並べられた靴。コウはひとり、この空間で手を叩く。俳優たちは一列に並び歩い