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「仕事のテーマ曲」

「ここは仕事っぽい曲でお願いします」
「はい、仕事っぽいやつですねー、わかりましたー」

…打ち合わせを終えていざ曲を選ぼうとしたとき、あまりにも簡単に終わらせてしまったことに気付いた。
さっぱり曲の方向性が分からなかったのだ。

…「仕事っぽい音楽」って、なんなの…?


「○○っぽい音楽」

私は、映像に音楽をつける仕事をしている。
それは、「〇〇っぽさ」という曖昧なイメージを音楽で表す仕事でもある。

スポーツっぽい曲」と言われれば、
その種目の展開するスピードに合わせてテンポがある曲で、かつギターやシンセを鳴らしてその選手の動作や技をカッコよく見せたいし、
料理してるっぽい曲」と言われれば、
一定のテンポを保ちつつバイオリンや木琴がソロでメロディーを奏でる、でも決してスケールが大きくなり過ぎずお洒落にもなり過ぎない日常感のある曲を選びたいし、
恋愛っぽい曲」と言われれば、
テンポなんてどうでもいいから、生楽器でメロディアスに愛を語り、あたかも見ている人が恋をしているかのようにうっとりさせたいし、
失恋っぽい曲」と言われたら、
ただ悲しいだけじゃない、幸せな時間があったからこその胸の痛さを表現しなければと思う。

…4年以上この仕事をやってきて、大抵の「○○っぽい音楽」には遭遇しきった感じがしている。

もちろんそれらは、番組のジャンルによって、または映像の内容によって、それらの要素をどれだけ拾うかは変わるから、その度合いをチューニングする必要はある。
だけど、ディレクターや他の音響効果の方々との間には、「〇〇っぽい」と言えばだいたいこんな感じよね、という共通するイメージがある。

大き過ぎた「仕事」という言葉

「お仕事っぽい曲」を脳内で検索したとき、
「スポーツっぽい曲」「料理っぽい曲」「恋愛っぽい曲」のフォルダは見つかっても、「お仕事っぽい曲」のフォルダは見当たらなかった。

「仕事っぽい曲」では、なんとなくモヤがかかっている気がする。
漠然として何もつかめない。
あまりにも無機質で、情報が少なくて、そしてそこから得られるはずの音のイメージもなくて、、、

そして、気付いた。
音楽に結びつくキーワードを探そうとした時に、「仕事」という言葉は大きすぎた。
「仕事」という言葉に存在し得る、職種や状況や動作や気持ちが、あまりにもたくさんありすぎるからだった。

「お仕事」では、解像度が荒すぎたのだ。
「仕事」では到底、それらの音楽に結びつくヒントが得られない。

有名な「仕事のテーマ曲」(松尾選)

以下、おそらく有名であろうお仕事に関連する音楽、名付けて「仕事のテーマ曲」を挙げてみたいと思う。

有名なものだと「情熱大陸/葉加瀬太郎」。
これは言わずもがな、仕事に圧倒的熱量をかけている人にとっての「仕事の曲」に違いない。

また、最近話題だという「半沢直樹」のメインテーマ。
低弦の刻みや半音を多用した不穏な旋律が、不正が渦巻く大きな組織で主人公の格闘を盛り上げているようだ。

また、その職業独特の性格を表す音楽もある。
例えば「ドクターX」のメインテーマ。
「半沢直樹」と同じく、ストーリー的には「個人 vs 大組織の闘い」という要素はありながらも、
医師としての使命感、社会的な権威の大きさ、命を扱う職業というスケールの大きさなどが旋律に現れているようだ。

栄養ドリンクや缶コーヒーのCM曲には、お仕事の曲がたくさんある。
"24時間、戦えますか〜"のフレーズで有名な「ゆうきのしるし~リゲインのテーマ~」は、バブル時代の働く人を鼓舞するようなマーチ調、
"さあ、がんばろうぜ〜"と熱く励まし疲れた気持ちを奮い立たせてくれる「俺たちの明日 /エレファントカシマシ」、
”世界を変えられたらなあ”と物憂げに歌う「Change the World /エリッククラプトン」、
歌詞は恋愛ものだけど、虚しい気持ちに寄り添うような曲調は、仕事で疲れた心に「お疲れさま」を言ってくれているようだ。

逆に、
「スキマ時間で楽しくお仕事!」というキャッチフレーズに付けるなら、全く違った曲になるんだろうな。バイトのCM曲にありそうだ。
また、ドラマのサントラの中には、「充実した毎日!今日もお仕事頑張る!」という曲調の前向きで軽快な曲もある。
これは、あくまでも「主人公の日常の一つとして、お仕事の場面を切り取りました」という雰囲気で、お仕事自体が主役ではなさそうだ。


仕事の内容もそれに対するスタンスも、人それぞれだ。
そしてその数だけ、「仕事のテーマ曲」が存在しているのだろうし、
これから時代とともに働き方が変われば、その時代を生きる人々の仕事のテーマ曲もまた変わっていくのだろう。

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自分にとっての「仕事のテーマ曲」は、どんな音楽なのだろう。
そう考えると、自分の働く姿が鮮明に、目の前に立ち現れてくるようだ。