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映画「怪盗クイーンはサーカスがお好き」感想【ネタバレあり】

最初に言わせてほしい。

「怪盗クイーン」はアニメ映えすると思っていた!

古参アピールをするようだが、子どものころからそう感じていた。だって、黒のボディースーツを着た怪盗が、月をバックに闇夜を駆け回る物語だ。ある時は華麗に変装し、ある時は息を呑むようなバトルをし、ときどきコミカルにそしてシリアスに、獲物と対峙していく。クイーンとジョーカー、RDのやり取りも軽妙でテンポよく、アニメにはぴったりだ。絶対に映像化するべきだと、長いこと思っていた。

なので劇場OVAアニメ化の話を聞いた時は、「ついにきたか!」と興奮した。関連ワードがTwitterのトレンドを軒並みかっさらったということは、同じことを考えていた人も多かったのではないか。「怪盗クイーン」の世界観に浸りながら育ってきた子どもたちは、大人になってもなお「赤い夢」を見続けているのだろう。

さて、前置きが長くなったが、ここでは劇場OVAアニメ『怪盗クイーンはサーカスがお好き』の感想を、原作ファンの視点から綴る。なお、この先はアニメのネタバレを含むので、未視聴の方は注意してほしい。

キャストがどハマり

「怪盗クイーン」がアニメ化すると最初に聞いた時、一番心配だったのは声だった。性別不詳のクイーン。男性の声でも女性の声でも違和感があるのではないか、そもそも三次元の人間が演じられるのか。せっかくの映像化なのに、声が気になって入り込めなかったらどうしよう、と。

しかし杞憂だった。性別をまったく感じさせないクイーンの声には、宝塚出身の大和悠河さんの声がドンピシャだ。
クイーンには多面性がある。普段はお茶目かつキュート、でも怪盗の仕事は優雅に決め、時折底知れない怖さを見せることも(2作目「優雅な休暇」の初楼戦など)。そのギャップが、宝塚で長年スターとして男役を演じてきた大和さんにハマっていた。現職の声優から選ぶこともできただろうに、あえてこんなにも絶妙すぎる声と表現力の持ち主がキャスティングされたこと、奇跡と言ってもいいだろう。

ジョーカーくん、RDの声も想像していたそのもので驚いた。二十年来の大好きな作品なのに、こんなに違和感がないものだろうか?
ジョーカーくんはその性格通り、クールな堅物っぽさがある低音ボイス。彼の「東洋の神秘ですね」のボイスを聞きたいと、ずっと前からどれほど願っていたことか。
RDはどこか機械的でありながら、ほのかな人間臭さとインテリジェンスを感じさせる。声優さんってすごいなあ、と感激しきりだ。

クイーン&ジョーカーがまさに生きている!

クイーンといえば赤い派手なジャケットのイメージだが、怪盗の仕事中に着る黒いボディースーツの印象も強い。そのボディースーツをまとったクイーンが、トルバドゥールからワイヤーで一直線に降りてくるシーンは鳥肌が立った。頭の中で思い描いてきたクイーンの姿が、目の前の大スクリーンに広がっている。「本当に映画化したんだ……!」と今更ながら感動を覚えたほどだ。

特にすごいと思ったのは、ジョーカーくんの邪眼のエフェクト。青い瞳が輝いてから画面全体が一瞬赤色に反転し、パッと元に戻る演出。原作で読んだときのイメージそのままで、ジョーカーくんをひと目で「圧倒的な強者」だと感じさせる、超人的な威圧感があった。すごいアイディアだ! 確かにこれはライオンもビビるはず。

挙げればキリがないが、ふたりの変装の巧みさ、達筆すぎる日本語の予告状、素手で斬られるワインボトルなど、「怪盗クイーン」シリーズではおなじみのシーンが映像で見られたのも嬉しかった。
次に盗み出す獲物を決めるシーンでは、次々と切り替わる写真を不敵に見つめるクイーンに心が高鳴った。たった一瞬の写真で情報を処理する人間離れした頭脳と、リンデンの薔薇の正体を瞬時に見抜く審美眼。これぞクイーンだ! と思わせてくれる。

スタッフの愛と遊び心を感じる「友情出演」

はやみね作品のメンツがちらりと登場した時は、興奮で思わず声が出かかった。同じ「怪盗クイーン」シリーズからは、コンビニでバイトしている花菱仙太郎、客のルイーゼ、そしてルイーゼに何かを怒鳴っているヴォルフが一瞬映る。
RDの生みの親、倉木博士も出ていた! 原作での倉木博士の登場は、『いつも心に好奇心(ミステリー)』に収録されていたクイーン初登場のエピソード。あの話からクイーンにハマった身としては、懐かしのキャラクターと再会できたようで嬉しい。
そして「夢水清志郎」シリーズからも、教授こと夢水清志郎と岩崎三姉妹が出ていたのには驚いた! 三姉妹はクイーンがサーカスに潜入するシーンでもしっかりと登場。クイーンファンのみならず、はやみねワールドのファンも喜ばせる演出がニクい。「赤い夢の住人」なら、心を掴まれた人も多かったのでは?

「クイーンが存在する世界」を感じた

原作では主にクイーンとジョーカー、警察関係者や探偵卿などメインの登場人物を通して物語が進む。なので「クイーンの存在する世界」で暮らす市井の人々の存在は感じにくい(というか、特に感じる必要もない)。
しかし今回のアニメは、ところどころで一般市民の姿が垣間見えたことで、彼らの目を通して「クイーンの存在する世界」を味わえた気がした。クイーンがTwitterとおぼしきSNSのトレンド1位になっていたり、クイーンのコスプレをした人や「クイーン様」「盗んで♡」と書いたうちわを持った人がいたり。つまり、クイーンが生きている世界にリアル感があった。確かに現実世界にあれほど華麗な怪盗がいたら人々はたちまち虜になるだろうし、コスプレするファンも、追っかけになるファンもいるはずだ。(そして目立ちたがり屋のクイーンは、自分が人気を誇りトレンドを賑わしていることをまんざらでもないと思っているのだろう。)
このようにアニメでは一般人の姿をときどき挿入することで、「クイーンの存在する世界」により客観的なリアルさを与えた。映像ならではの演出と言えるだろう。原作とはまた違った没入感が生まれ、観客は「クイーンの存在する世界」の住人になれたのではないか。

主題歌で世界観に浸れて、幸せな気持ちに

エンドロールでかかる主題歌は、リトルブラックドレスの「逆転のレジーナ」。この曲がまたクイーンの世界観にマッチしている! まずはトランペットが賑やかなイントロが高揚感を煽る。華やかな曲調は、「人生はC調と遊び心」をモットーとする怪盗クイーンにぴったりだ。そしてサビの「悲しみが〜♪」の部分は特に耳に残り、映画館を後にしてもずっと頭の中でリフレインしていた。歌詞もクイーンを彷彿とさせ、エンドロールの時間にこの曲を聴きながら、じんわりと幸せな気持ちに包まれた。

総括:愛を感じるアニメだった

シリーズの長年のファンから見ても、ケチのつけようがないほど完成度が高い出来だったと思う。あえてひとつ挙げるとするならば……1時間じゃ物足りない! 喋って動くクイーンを、ジョーカーくんをもっと観たい! 2作目の「優雅な休暇(バカンス)」も、3作目の「魔窟王の対決」も(そして欲を言えばそれ以降も)、それぞれ2時間くらいのボリュームでぜひアニメ化してほしい。

こんなにも満足いく出来だったのは、ひとえに監督はじめスタッフの皆が「怪盗クイーン」に愛を持って臨んでくれたからだろう。「アニメ!アニメ!」の記事(https://s.animeanime.jp/article/2022/06/17/70228.html)によると、クイーンアニメ化の企画を立ち上げたのは、子ども時代にシリーズを愛読していたスタッフだったそうだ。好きな作品を自分たちの手でアニメ化するには、必然愛がこもるだろう。そんなスタッフたちが、原作のよさを活かしながらとことん突き詰めて作ってくれるのだから、面白くもなるはずだ。
細かいことだが嬉しかったのは、サブタイトルがありがちな英語でなく、"Mirage QUEEN aime cirque"とフランス語なこと。フランスにルーツを持ち、普段はフランス語を話すクイーンにぴったりで、細部にまでこだわっていると感じた。

観賞後はパンフレットの購入もおすすめ。メイン3人のキャストインタビューや、はやみね先生と監督の対談なども収録されていて、読み応えたっぷりだった! 劇場でのワクワク感を自宅でもう一度楽しめるだろう。

パンフレット(税込1,000円)。お求めは劇場で!


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