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今、猫も杓子も「哲学」とか「アート」って言う理由


美術の授業、好きでしたか?

中学一年生の時、夏休みに山の絵を描くという宿題を美術の先生から言い渡されました。私は絵を描くことが大好きだったので、家の窓から見える山の絵を昼間から描きはじめ、いつの間にか夜になっていました。

夜になると当然あたりは暗くなり、次第に山の色も濃く、黒に近い色になっていきます。私はその光の無い山を書き続けた結果、出来上がった作品は真っ黒な何か、うっすらその間に何かもこもこしたものが感じ取れるものの、「山」なのかどうかは定かでないものが出来上がりました。

その絵を見た美実の阿部雅子先生は、「お前、これは素晴らしい!」と言いました。私はこの方のおかげで、今でも美術を愛し続けています。

「アート的思考」とかいう抽象的なやつ

とはいえ貧乏人かつ中卒の親を持った私に美術の道を志すためのサポートは残念ながらありませんでした。手探りでやっとたどり着いた先は金融機関。わかりやすく金のにおいがしますよね。

ただ私が金融機関に勤めていた時代は、「収益」が命。そこに存在する社員は、収益を生まない限り代替可能な労働力としか見なされていませんでした。少なくとも私にはそう感じられました。だから私は自分を殺し、稼げる先輩の真似をしようと必死でした。稼がなければ、安全すら買うことができない世の中です。暴走族が行き交う音を夜中にうっすら聞きながら、「お金って神様みたいだよね。なんにでも姿を変えることができるから」と言った知り合いのアーティストの言葉をよく思い出したものです。

月日は流れ、資本主義の構造に慣れ親しんで久しくなったころ「13歳からのアート思考」という書籍が流行りました。ビジネスにもアート的な思考が必要だ、とのこと。アート的思考とは何か?この著者は以下のように述べています。

①「自分だけのものの見方」で世界を見つめ
②「自分なりの答え」を生み出し
③それによって「新たな問い」を生み出す

「自分」ばかりじゃないか。私が資本主義の中でとっくに捨て去ってしまった、あいつ。制服を着た幼い私がひたすらキャンバスの中にうつしこもうとした、あいつです。こいつがどうやら、不確実性の高い「VUCA」と形容される現在に必要になってきたようなのです。

VUCAって?

VUCAとは、「Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)」の頭文字を取った言葉で、社会やビジネスにおける未来の予測が難しくなる状況のことを指します。つまり色々不透明な世の中であり、未来を予想して動きにくい状況であるということです。終身雇用が確固たる地位を築いていたころと比べ、将来設計を立てにくいのは想像できるでしょう。VUCAな世の中においては、突然起こった事象に十何人対応したり、曖昧なところから真実を見極めたりする能力が必要になります。

哲学も出てくる

アート同様、ちょっと漠然としたよくわからないカテゴリに入れられがちな哲学。それもそのはず、大昔はすべて哲学だったものから、数学や物理学など有用なものが枝分かれてしていって、最後に残ったよくわからない概念が「哲学」として残っているのだから。

哲学には、価値観が違う人同士がお互いを許容しあうためのヒントがあるようです。なぜなら哲学には「人間の欲望の本質は自由である」(ヘーゲル)という考え方があり、価値観を押し付け合わずに互いに許容しあうことでこそ、人は本当に自由になれると考えることができるからです。だれかの価値観をないがしろにして全体の安定や幸せを実現しようとしても、裏側では負のパワーが蓄積されていきます。中東の状況を見ていれば一目瞭然です。

未来が予測しにくい、幸せが見えにくい現代において、アートや哲学的な思考は圧倒的な自分の拠り所となり、SNSなどから発せられる負のパワーにも負けない魂を養ってくれそうです。

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