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バーベキュー

川原でバーベキューをやるのはとても楽しく気持ちのよいものである。
天気の良い日に河原で暑くなれば水の中に入って一寸体を冷やす。瀬音に耳を傾け目にしみるような緑を眺めながら、肉や野菜を焼きながら冷えたビールを飲むのは堪えられないほど美味しいものである。そんな経験のある人がきっと沢山居られることと思う。
ある夏のこと魚政の常連がいつもの通り馬鹿ッ話をしていると誰かが「俺たちもひとつバーベキューってやつをやらかそうじゃあねえか」と言い出した。
酔っ払った勢いと祐さんの破天荒なアイデアが合わさった結果豚の丸焼きをやろう
いうことになった。
 鉄工所で働いている新坊が休日に会社に行って回転式のグリルの枠を造ることになった。二週間もすると鉄の丸棒を溶接して立派な枠が出来上がったがかなり大きく重いものなので普通の車では運べない。そこはなんでもお祭りにしてしまう連中のことだからバスを一台チャーターして全員で繰り出すことに決まった。
 豚は近所の肉屋に特別に頼んで屠殺場から直接わけてもらうことで話がついた。
 もう当日は前の晩からの引き続いての大騒ぎでアルコールは勿論のこと刺身の盛り合わせ、野菜の煮物、焼き物用の魚、卵焼きに香のもの、お吸い物の材料、鍋釜、茶碗にいたるまで積み込んだからまるで魚政が全部引っ越すような騒ぎの中、バスは清流秋川渓谷に向かった。
 ところが何しろ呑ん兵衛連中のことだから道中大騒ぎで高速道路上でバスを無理矢理とめさせて道端で小便をするやつが続出、止めないと本当に車の中でやってしまいそうな奴ばかりだから止めない訳にはいかない。そのうえ運転席の横には恨めしそうな顔をした豚がゴロンと転がっているという状況のなかバスの運転手は半分気が狂いそうになりながらやっと目的地にバスを着けた。
 さて河原でグリル枠を立てて豚の丸焼きをやるといっても簡単にはできない。第一大きな豚を串刺しにすると言ってもどうやっていいか誰も知ってる奴はいない。ある程度は肉屋から聞いてきてはいるが、肉屋だって豚の丸焼きなんかやったことがないのだからいい加減なことしか教えてくれない。悪戦苦闘の末やっと豚がグリル枠の上で回り始めたがなかなか焼けるところまでは行かない。把手は熱くなって素手では持てないから手拭をを川で濡らしては皆で変わりばんこに回すのだが炎天下の河原で火を起こしているのだから熱くて熱くてたまらない。酒が入っているから余計で、全員グロッキーになったころやっと焼けてきて食べられそうになった時は全員日傘を頭にかざして寝てしまった。結局豚の丸焼きは周りで見物していた沢山の人達の胃袋に収まって、魚政の人達は豚の匂いを嗅いだだけでも気分が悪くなる有様だった。
 今でも魚政の人達は肉は食べないがなんで豚の丸焼きなんかやったのか誰もわからない。
 結局「祐さんのやることなんて誰にもわかりゃあしねえよ」ということなのである。

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