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朱色の墨への憧れ【し】

6のつく歳から始める事は良い、という母が信じていたなんだろう、迷信?によって、6才からお習字の教室に通い出した。
幼なじみと一緒に月4回、毎週土曜日。
わたしは長く続けたことを途中で辞めることができなくて、習い事はほとんど高校卒業まで続けたけど、
なかでもお習字は大学で書道を専攻して進学するほど続けることになるとは、6才の時は全く思ってもいなかった。まあ親も字が綺麗で損する事はないくらいにしか思ってなかったと思うしね。

習字教室の先生は60代のおばあちゃん先生だったけど、背筋がピンとしていてガハハと豪快に笑う明るい人で、ピアノは何度も休みたいと思ってたけど、その人柄からか、習字教室だけは一度もずる休みをしたことがない。
小学生の時はバレー部にも所属していて、バレー終わりにそのまま習字に行くと、レシーブを受けたせいか筆を持つ手がプルプル震える。
それでも行きたくないと思った事は一度もなくて、未だに、どうしよう、習字教室閉まっちゃう、遅刻しちゃう!って焦る夢を見る。笑

長く続ければ、必然的に級はどんどん上がって、中学に上がる頃には段になっていった。ただ、その教室が所属する会での大会やコンクールでは、大きな賞をとったことは一度もなく、一緒に始めた幼なじみばかり賞をとっていたため、自分はあんまり上手てはないんだと思っていた。

高校に上がった時に、その幼なじみと書道部に入部させられた。笑
習字教室の先生と学校の書道部の先生が知り合いで、おたくの教室からうちの高校に入学した生徒の中でいい生徒はおらんか、と尋ねたところ、私達ふたりの名前を上げたそうで、入学してから翌月の5月には合宿コンクールに参加することになった。
わたしたちはそんな経緯を知る由もないし、やる気満々、というより、授業サボれるじゃんラッキー!くらいにしか思ってなかったんだけど、これがとても楽しかったし、充実した時間になった。
自分と向き合う時間と、どこに向けたらいいかわからないエネルギーの放出先が見つかったことに対する喜びと安堵、みたいなのがあったかも。他校の生徒の作品と触れ合うのも刺激になった。

翌年の高文連に出すコンクールで、わたしか幼なじみの作品どちらかが県の代表作品に選ばれれば、二人とも青森で行われる全国大会に連れてってやる、という約束のもと、わたしたちは朝早く学校に行き、放課後も授業が終わってから毎日みっちり、書きまくった。
そのやる気の源は、行きか帰りのどちらか、東京に一泊しないと行けない、帰れない、という女子高生の下心。育ったところがとても田舎だから、青森に直接行ける交通手段がないのだ。絶対東京行きたい。
ただ本当にそれだけだった気がせんでもない。
そして、選ばれたのはわたしだった。県でたったの2枠の一つを勝ち取った。
その知らせを受けたのは、朝学校に行こうと自転車で向かっていたら、なぜだか踏切が開かなくて(電車は、というか汽車は1時間に2本しか通らないのに)遅刻して朝の会に間に合わなかった日。なんかよく覚えてるんだけど、わたしが居ないところで発表されたらしく、学校着いたらみんなにすごいじゃん!と言われ、ポカン?だった。改めて先生から聞かされた時は、やった、東京行ける!

夏の青森は想像以上に涼しくて、ご飯が美味しかった。東京は109に行ってご満悦。ただ、全国大会出場が決まった作品と、全国大会に出す作品は違う。正直、出場が決まった後はどうでも良かった。いい賞を取りたいとかそう意欲もなく惰性で書いた作品を提出した。

大会は、スポーツの大会などと違い、既に賞が決まっていて、何人かのグループに分かれて芋版を掘ったり名刺を交換したりと、交流会と受賞した作品の論評を聞く。全国のレベルの高さと、作品の多様さに圧倒されると同時に、恥ずかしくて仕方なかった。どうして全力で取り組んだ作品を提出しなかったんだろう。そして私は書道のほんの側面しか知らないんだと思い知った。結果としてその気持ちが、進路が決まっていなかった私を大学へ進学させるきっかけとなった。でも私はのちに、卒業論文で同じことをやってしまう。卒業制作の制作で力尽き、適当な論文を提出してしまった。後になってわかるけど、そんな論文何の役にも立たないかもだけど、その時自分の納得いくものをつくらないと、卒業して何年も経つのに、後悔して恥じることになる。誰も責めちゃいないけど、心の中に小さな棘となっていつまでもチクチク居座る。何にも代えがたい経験のために、その棘を取る方法はほとんどないに等しい。そういうのを子供に押し付けてしまわないように気を付けたい。

会社でメニューを書いたりする際、添削時に使用する朱墨を使うことがある。私もいつかあれ使いたいなって、小学生の頃思っていた。

あの頃思っていた大人、将来の自分とは程遠い気がするけど、今を後悔しないように一日一日を生きていきたい。

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