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「じらな仕事はできん」 生まれ変わる護松園蔵


通勤時、見上げることが毎日楽しみな風景

「そない、じらな仕事できんからなぁ」

6月の朝はこんなに暑かっただろうか。現在改修している護松園の蔵。ボロボロだった茶色の土壁は、日に日にきれいで平らな白壁になっている。
茶色の壁の上に薄いネットのような寒冷紗(かんれいしゃ)を貼り、そこにクリーム色のねっとりとした漆喰を塗る。薄く塗り重ねていく漆喰の壁。左官職人の汗の滴り方が、早朝から作業していることを感じさせる。
職人の石野さんに“じら”って、どういう意味か聞いてみると、「分からんよ。じらは、じらや」と返された。

いつ話しかけても優しく教えてくれる石野さん

昨年5月にオープンした GOSHOENの隣にある蔵。ここは、2022年の秋頃に1階は北前船・古河屋と若狭塗のミュージアム。2階は貸しギャラリーとしてオープンする予定。

そういえば、昔から建材として使用されている漆喰ってなんなんだろう。蔵の外壁にも3回以上塗り重ねるそうだ。
護松園の脇を歩いていると、煙に混ざってなんだか美味しそうな匂いが漂ってきた。匂いの方へ行ってみると、石野さんがオイル缶で何かを煮詰めていた。

昔と同じように、薪で炊く

「これを漆喰に混ぜるんだ。煮詰めているのは、布海苔(ふのり)という海藻を乾燥させたもの。国産の良い布海苔だから、乾いた壁の漆喰、真っ白だろ」

ぐつぐつ煮詰められる布海苔。飲んでも美味しそうな香りがする

漆喰の壁への付着力と保湿、塗るための粘度調整に必要な海藻糊。この糊と消石灰を混ぜたものが漆喰だそうだ。
「最近は、わざわざ薪で火を焚いて布海苔から海藻糊を作る人は少ない。焚き火しているだけで怒られることだってあるんだから。でも、本来の漆喰はこうしないとできない。そない、じらな仕事できんからなぁ」

冒頭の言葉は、ここで出てきた。護松園は福井県の有形文化財。修繕や改修についても、当時の材料や工法を可能な限り使う必要がある。漆喰壁もその一つ。

修繕前の蔵。側面のトタンを剥がすと、土壁はボロボロに崩れていた

「じらな仕事できん」という意味について小浜出身者に聞いてみると、「適当な仕事はできない」ということだそうだ。

海藻糊を使える職人も減っているらしい。作業をしながら、布海苔の煮詰め具合や漆喰の具合、天候について職人同士何度も話し合っていた。
工期優先の近代建築では、確かに敬遠される作業だと思う。作業前に毎回布海苔を煮詰めて、混ぜて、天候を見ながら施工。そして、薄く薄く重ねて塗る。本当に手間がかかる。しかし、左官職人は「大変やぞぉ」と言いながらも、自分たちにしかできない作業を楽しんでいるように見えた。

護松園の蔵は、少しづつ生まれ変わっている。きっと、完成したら太陽の光を反射してとても美しい白の蔵になるだろう。西側にある蔵だから、夕陽を反射した姿も楽しみだ。
お越しの際は、蔵の変化も是非お楽しみください。

美しく生まれ変わる護松園の蔵


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