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I(アイ)メッセージで伝える・つながる

ある外来患者様の窓口応対。ご家族(奥様)からこんな悩みを聞き取った。
「食欲がすっかりなくなってしまった。体重もこれ以上落ちようがないくらいに落ちてしまっている。」

話はさらに続く
「食事がなかなか喉を通っていかないみたい。今ペースト食を食べているんだけど、見た目も悪いでしょ。食欲もあまり湧かないみたいで…。」

嚥下の問題、食べる意欲…何とか力になれることはないか。
モヤモヤが頭の中を渦巻く。

これで、患者様の食欲に影響の出そうな薬が処方されていれば話は一択である(あくまで私の中では)。
食べることは生きること。服用の中止が命に直結する薬でない限り中止もしくは代替薬の提案をすることでしょう。このケースであれば、命に直結するような薬であっても要相談案件だと思う。
はっきり言ってACP、人生会議発動案件である。

だがしかし、である。このじいちゃんが服用している薬は、便通を改善させるマグミットと、食欲を改善させる漢方薬(六君子湯)の2つである。食事が摂れていない分、量は少ないのだが、程よい硬さの便は出ている。

となると、薬剤師の専門性をもってアセスメントをしてもこの患者さんの食を改善は難しい…という結論に達してしまう。
薬剤師として、私がこの患者さんの食を助けることはできない。

話を聞けば、介護保険は利用しており、週2回デイケアに通ってリハビリも受けているようだ。
じゃあ、リハに任せておけば私の出番はないだろう。

それで本当に良いのだろうか?
自問自答した結果、私が行き着いた答えは至極単純だった

だめ。


その理由は至極至極簡単である。

私が、患者家族の困っていることを聞き取ったのだ。
私が、この患者さんの食を何とかできないかと考えたのだ。
私は、この患者さんに少しでも美味しく、楽しく食べてほしいのだ。

なら、「私が」ケアマネやリハ職に伝えるべきだろう。
「私、この患者さんの食支援、何とかしたいと思っているんです」。

私は、専門家としてのアセスメントはゼロの状態で担当ケアマネとデイケアの元を尋ねた。
が、意外にも訪問先で私を迎えたスタッフの態度は好意的なものだった。
「そんなふうに薬剤師さんが思って下さるなら心強いですよ」。
あっさりと、私はサービス担当者会議の仲間に加えてもらうことになった。

想いを同じくする「チーム」

私が尊敬する、ある看護師の言葉でこんなものがある
「困ったときに大切なのは、一緒に困ってくれる人の存在」。

この患者(利用者)さんを支えるサービス担当者は皆、悩み、困り、何とかしたいと思っている。想いを同じくする医療職・介護職が現れて、嫌な思いをする担当者はいないのではないか。

在宅医療・介護の現場では多職種連携、チームアプローチが声高に叫ばれている。チームで求められているものの第一は、無論、それぞれの専門性に基づくアセスメントである。だから薬剤師の私が他職種の方と話を持っていくときには、患者の心身に与える薬の影響をアセスメントしているのが普通だ。

だが、チームアプローチをするにあたってそれ以前、いわば“第ゼロ”として求められているものがある。今回の小さなアクションを通じて、私にはそう感じられた。
それが、この患者さんに良くなってもらいたい。この利用者さんに良い生活を送ってほしい。そのために、チームを組み、「一緒に困る」のだ。

「私は」この人を良くしたい。「私は」この人の困りごとを何とかしたい。
…その想いを外に向けて発信することが、チーム作りのスタートになるのではないか。
小さなアクションを通じて、私はそんなことを感じていた。

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