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[2024/01/24] ロンボクだより(107):聞いてもいいですか?(岡本みどり)

~『よりどりインドネシア』第158号(2024年1月24日発行)所収~

みなさん、こんにちは。

先日、市場で「もうすぐねぇ」と顔見知りのご婦人に話しかけられました。てっきり大統領選の話かと思い、「そうですね、あと1ヵ月もないですね」と答えたら、全く話が噛み合いません。

ご婦人は断食月の話をしていました。「あなた、今年も(夜の任意礼拝に)モスクに来なさいね」と肩をポンと叩かれ、単純な私はすっかり行く気になりました。

さて、今回は、イスラム教徒の生徒からの質問に答えた話です。

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勤務先の高校で、休み時間に生徒のM(仮名)が私に話しかけてきました。

Mはどの教科もとても優秀なのですが、日本文化が大好きで、とりわけ日本語の授業は熱心に聞いてくれています。

生徒は、『Monster』という日本の映画を知っているか、と尋ねてきました。

私の頭によぎったのは浦沢直樹氏の漫画『MONSTER』で、ついに映画化したのかと思いました。が、よくよく話を聞くと、是枝裕和監督の『怪物』のことでした。

「カンヌ国際映画祭で賞をとった映画だよね。タイトルは知っているけど、まだ観てないし内容もよく知らないなぁ」

そう言うとMはズイッと顔を私に近づけて、「今とっても人気なんですよ!私も週末に観ました。すっっっっごく良かったから先生も観たほうがいいよ!!!」と興奮ぎみにこの映画について語り始めました。

Mの熱に押されながら一通り話を聞き終わったところで、Mは、はたと私を見直しました。

「先生、聞いてもいいですか?」とやや声を落として、数センチ、私との間を詰めてきます。

「うん、どうしたの?」

「あのね、これは単に聞きたいだけで、特に他意はないんです・・・」

さっきまでの勢いはどこへやら、Mは下を向いていました。どうやら、ちょっと聞きにくい話のようです。

大丈夫だよと質問を促すと、Mは日本のジェンダー観について知りたいと言いました。たくさん聞きたいことがあるそうです。『Monster』には性的マイノリティの子どもが登場するので、聞いてみたくなったのかもしれません。

はじめの質問は、日本の映画や漫画には同性愛を描いたものは多いのか?

「そうだなぁ。私は、映画はあまり詳しくないけど、漫画は多いよ」と答えると、たちまち畳み掛けてきました。

「日本では同性愛は許されているんですか?」

うーん、なかなか難しい質問です。

同性の人と付き合うことはできるけど、結婚制度が整っていないから、法的に夫婦になることは、今はまだ許されていないんだよ。

そう答えましたが、Mには、付き合えること自体がかなり新鮮に写ったようでした。

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そういえば、別のクラスの生徒たちと、日本では家族で別々の宗教を信仰してもいいこと、多神教と一神教の信者同士が結婚してもいいこと、などを話したことがありました。

あのとき、生徒たちは「ええーーー!!」「いいなーーー!!」と拍手したんだっけ。

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