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[2024/02/23] ラサ・サヤン(50)~インドネシアの伝統菓子~(石川礼子)

~『よりどりインドネシア』第160号(2024年2月23日発行)所収~


パサール

私はほぼ毎朝、主人と近所のパサール(伝統市場)に買い出しに出掛けます。現在、家にいるのは私と主人、そしてメイド1人、の3人だけなのですが、毎朝、Jeruk Peras(オレンジジュース)をグラスに1杯、そして、毎夕、野菜ジュースとトマトジュースをマグカップに1杯ずつ飲むので、新鮮なインドネシア産のオレンジと野菜、トマトの買い出しは欠かせません。

また、主人は良い食材を見つけると、北ジャカルタに住む義母と、西ジャカルタに住む義兄の家族のために料理を届けるので、家に帰ってからおもむろに、しかも大量に作り始めます。コロナ禍の時期には、(もう亡くなってしまいましたが)義母の高齢の従姉や、恵まれない親戚にも手料理を配りに周っていました。

近所のパサールは二軒あり、一軒はいわゆるPasar Becek(非常に簡素な作りの建物で、外部と隔離されておらず、道も舗装されていないため、雨が降ると泥地になるような伝統市場)と、もう一軒はPasar Modern(近代的な建物で、外部と隔離されており、野菜、肉、魚介類の売り場が区分されて販売されている伝統市場)です。Pasar Becekのほうが、不衛生な点は多々あるのですが、価格が1~2割安いこともあり、そちらに先に行って、生鮮食材のほとんどを買います。買い足りないものがあれば、そこからPasar Modernにハシゴします。

Pasar Becekでは手に入らないものもPasar Modernであれば、大抵手に入ります。たとえば生花、食器類、調理用品、その場で焙煎してくれるコーヒー、砂糖ぬきの豆乳、冷凍食品、割と質の良い衣類、タオル、ベッドシーツ、サンダル、薬類、ティッシュ、洗剤など様々な日用品が揃っています。Toko Mas(宝石店)やネイルショップ、服やカバンのお直し・仕立屋さんまであるので、デパートやショッピングモールに行かなくても完結するほどの充実さです。ただ、敷地が広すぎて疲れてしまうのと、常に混んでいて駐車が大変なのが難といったところです。私が通うPasar Modernの様子がYoutubeに投稿されていたので、興味のある方はご覧ください(https://www.youtube.com/watch?v=59q90l18X-Y)。

通常、Pasar Modernというと、スーパーマーケットやハイパーマーケットを差すことがありますが、今では伝統市場も進化してきているので、ここでは上述のPasar BecekとPasar Modernを「伝統市場」と総称し、スーパーマーケットやハイパーマーケットを「近代市場」と呼称させていただきます。

「伝統市場」は、2021年の時点でインドネシア全土に1万4,182軒あり、中央政府、地方政府、民間部門、国営企業(BUMN)および地方公営企業(BUMD)によって管理されています。それに対し、民間が運営する「近代市場」は1,131軒あります。コロナ禍前とは多少、状況が変わったと思いますが、インドネシアでは依然として「伝統市場」が88.52%と主要市場となっています。一方、生鮮食品が主流ではない「ミニマーケット」と呼ばれる、売り場面積が400平米未満の小売店の成長は激しく、その代表であるAlfamartとIndomaretの店舗数は、2022年の時点で、全国で計3万7,390店舗となり、前年比4~8%も増えています。

伝統菓子

今回は、「伝統市場」で私が良く買い求めるKue Pasar(インドネシアの伝統菓子)についてご紹介します。伝統菓子と一言でいっても、かなりの種類があり、各地方に特産の菓子も多く存在するため、名前を覚えきれません。買い求めるときに、売り子に名前を教えてもらうのですが、すぐに忘れてしまいます。そんな自分のためにも、この機会に伝統菓子の種類と名前を一致させたいと思います。

(出所)https://www.cnnindonesia.com/edukasi/20230731134218-569-979958/25-jajanan-tradisional-indonesia-dari-berbagai-daerah

Kue Pasarは、主にKue Basah(生菓子)とKue Kering(乾菓子/干菓子)に分かれます。今回ご紹介するのは、Kue Basah(生菓子)です。個別の菓子を紹介する前に、先ず「生菓子」作りに欠かせないインドネシアならではの材料を挙げてみます。

1) Gula Merah
Gula Jawaとも呼ばれますが、サトウヤシの花序液を煮詰めて固めた砂糖です。サトウキビから糖の汁を絞って作られる日本の「黒砂糖」や、アレンの木の樹液から作られるGula Arenとは異なります。英語だと「パームシュガー」ですが、ここでは『グラ・メラ』と記載します。

グラ・メラ。(出所)https://islandsunindonesia.com/id/kenali-perbedaan-brown-sugar-palm-sugar/

2) Daun Pandang
アジア・アフリカの熱帯地方、そして沖縄や小笠原諸島でも繁殖している「ニオイタコノキ」という植物です。「天然着色料」や「香りつけ」として使われ、鮮やかな緑色、甘いバニラのような香りが特徴です。そのため、菓子作りやジャム、紅茶などにも使われます。また、抗酸化作用、抗菌作用、消臭効果に優れ、スキンケア商品にも使われるという万能植物です。ここでは『パンダンの葉』と記載します。

パンダンの葉。(出所)https://www.liputan6.com/citizen6/read/5493105/berbagai-manfaat-daun-pandan-bagi-kesehatan-salah-satunya-menangkal-darah-tinggi

3) Santan
生のヤシの実を粉砕機で削って、水を加えて絞ったものです。英語では『ココナッツミルク』といいます。スーパーマーケットでは、紙パックに入ったものも売っています。ここでは『サンタン』と記載します。

サンタン。(出所)https://www.kompas.com/food/read/2020/11/19/101600075/cara-bikin-santan-cair-bisa-untuk-rendang-dan-aneka-masakan

4) Beras Ketan
もち米のことで、白もち米と黒もち米があります。黒もち米はBubur Ketan Hitamなどのデザートにも使われます。もち米を粉状にしたものも良く使われます。ここでは『もち米(粉)』と記載します。

5) Tepung Sagu
サゴヤシの樹幹からでん粉を抽出し、粉状にしたものです。ここでは『サゴでん粉』と記載します。

6) Tepung Tapioka
キャッサバの根茎からでん粉を抽出し、粉状にしたものです。ここでは『タピオカ粉』と記載します。

以上の6点が「生菓子」を作るのに欠かせない主な材料となります。

Kue Pasar

それでは、私の独断と偏見で、10種類のKue Pasarを簡単な製法も含めてご紹介します。但し、私自身はこれらの菓子を自分で作ったことはありません。ひたすら、パサールで買い求めるのみです。

1. Klepon(クレポン)

(出所)https://www.gramedia.com/best-seller/kue-tradisional/

私が一番好きなお菓子で、インドネシアで初めて食べた伝統菓子でもあります。クレポンは、パンダンの葉で色付けしたもち米粉を小さく丸め、中にグラ・メラを詰めて、日本の白玉のように茹でます。それに、ココナッツフレークと砂糖を混ぜたものをまぶします。90年代に勤めていたオフィスビルに毎日、生菓子や揚げものを売りに来る行商のおばさんがいました。当時は、食べものを売る行商人があちこちのオフィスビルに簡単に出入りしていました。最初はその色の派手さから手が出ませんでしたが(天然着色料とは知らず)、インドネシア人の同僚に誘われて食べてみたら、白玉かお餅を食べているようで、口に含むと中からグラ・メラの優しい甘さが口に広がりました。以降、この菓子を食べるたびに日本を思い出したものでした。

2. Lemper(レンパール)

(出所)https://sajiansedap.grid.id/read/103415838/bisa-tahan-berhari-hari-begini-cara-membuat-kue-lemper-agar-tidak-mudah-basi-1-hal-ini-kuncinya

サンタンとパンダンの葉を入れて炊いたもち米の間に、塩、砂糖、月桂樹の葉、ライムの葉、サンタンで炒めた細切り鶏肉を詰めます。バナナの葉に包んであるので、葉の香りがもち米にほんのり付いて、また手に持って食べ易く、日本人にも好まれる上品な味です。中部ジャワでは、結婚式の披露宴の軽食としても良く使われる菓子です。重い料理を食べる前の箸休めとしての役割もあります。こちらでは、会議等で箱に入ったスナック数種が提供されることがありますが、会議中に手を汚したくない私は中でもレンパールを食べます。

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