読書雑感1

数年前に関西地方でビルの屋上から飛び降りた人が下にいた通行人とぶつかり、双方亡くなってしまった事故があったと記憶しています。
大変痛ましい出来事です。「人はいつ死ぬか分からぬ」という手垢まみれの擦り切れた表現を当方に強く想起させた出来事でもあります。

いつ死ぬか分からない…

この本を読んで今の時代、日本という国に生活していることの幸福を強く感じます。
ティモシー・スナイダー 布施由紀子訳『ブラッドランド上 ヒトラーとスターリン 大虐殺の真実』(ちくま学芸文庫、2022年)

概略を言うとスターリン、ヒトラーが各々支配するソビエト連邦(ソ連)及びナチスドイツが東欧諸国の人々をいかに虐げ、殺していったのかを資料に基づき延々と記述しておられます。1920年代後半〜1945年が記述内容の主な時間軸だと思われます(思われます、という曖昧な表現なのは下巻を未読だから)。

タイトルのブラッドランドとは流血地帯の意で、二つの大国の犠牲となった国々(東欧、バルト三国、ウクライナ、ベラルーシ等)のことを主に指します。愉快な内容ではないことは明々白々ですが、想像以上の血みどろの内容に思い余って上巻を読んだだけでこの記事を書いている次第です。大虐殺といえばユダヤ人のそれ、いわゆるホロコーストを思い起こすのが一般的ですが、1930年代のソ連も目的・手法は違えど同種のことを国家レベルで実行しており、同国の負の歴史と言わざるとえないでしょう。ソ連の歴史は多少の本を読んだとはいえ、歴史を概略的に眺めたに過ぎず(集団化政策の結果、農民が飢えに苦しみました。以上。)、あまり突っ込んだ読書をしていませんでした。これほどの犠牲とは。もちろんソ連だけでは無くホロコーストも本書の内容に含まれます。
国の指導者や政策がいかに悲惨な状況を生み出しうるかの示唆、知見を我々に提供してくれる良書です。

冒頭の事故では、亡くなったのはお二人のはずです。上述の本では数頁ごとに「何々村で何百人が殺害された」「この時期数万人が収容所で銃殺された」類の文章が羅列されており、人数の感覚が麻痺していきます。数人であれば亡くなった方に思いを馳せることは可能でしょう。「通行人は当日どんなことをしようとしていたのか」「飛び降りるまで絶望させたものはなんだったのか」等々…
でも数万人、数十万人という数は少なくとも当方の想像力をはるかに超えています。もちろん歴史上の出来事と現代日本のそれとは単純には比較できません。しかし想像力を働かせても全く追いつかないことが当時の世界では起こっていたことを知る必要はありますよね。そして知ったなら想像する努力はできるはずです。同じようなことがこれからも起きるかもしれないということを。まさしく今起きているかもしれないということを。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?