ウメ子ちゃんの物語(事件) 親の財布からお金を盗む <1>


2020年10月の「たよりもりの」(遠藤さんのお店「もりの」の会報)に『ウメ子ちゃんの新しい仕事』という文章を載せてもらいました。

小学3年生のウメ子ちゃんには月額300円のおこづかいを与えているのですが、おこづかいの他にも家の中でお金を稼ぐ「仕事」をつくっていて、タケお父さんに珈琲を淹れてあげたり、自作の漫画を描いて親に買ってもらったりして、楽しそうにやっている、というお話でした。

そんな文章を書いてから、・・・タイトルにある通りの事件が起きました。

~~~

ごくごく最近のウメ子ちゃん(8才9ヶ月)は、タケお父さんの珈琲を淹れたりもせず、マツお母さんやタケお父さんが「漫画読みたいな~」と催促しても一向に描こうとしなくなっていました。

お友だちと買い食いしたりしているので、お金もなくなっているだろうに、どうしたのかなぁ?とは思っていました。

10月10日は、マツお母さんの誕生日でした。

ウメ子ちゃんは「ねぇ、ねぇ、お母さん!もし、ウメ子がお金を100円拾ったら、何が欲しい?何を買って欲しい?」と聞いてきました。

マツお母さん「え~、何かなぁ?何がいいかなぁ。球根は高いだろうし、種とかいいかなぁ。100円じゃ買えないかなぁ?」

ウメ子ちゃん「ふんふん、種とかね」

この日は土曜日でしたが、午前中は学校で授業がありました。

家でお昼ご飯を食べた後、お友だちのRちゃんと遊ぶ約束をしているとのことでした。

Rちゃんは最近になって遊ぶようになった、同じクラスの女の子です。

夜ごはんを鍋にしようと思っていたのですが、マツお母さんが「スープをとるための手羽先を買い忘れた~」と言っていたら、タケお父さんが「俺、買って来ようか?」と言いました。

でも、ウメ子ちゃんが「私、買ってくるよ」と言い出したので、ウメ子ちゃんにお願いすることにしました。

タケお父さんから千円受け取って、ウメ子ちゃんは雨の中を傘さしてでかけて行きました。

タケお父さんは、「財布からお金がなくなってる」と言っていましたが、マツお母さんはふ〜ん、そうなんだ・・くらいに受け流していました。

ウメ子ちゃんが一旦家に戻ってきて、買ってきた手羽先とお釣りをタケお父さんに渡し、またお友だちのところに行ってから、しばらくして帰ってきました。

ウメ子ちゃんに「何してきたの~?」と聞いても、「うん」といったきり、たいした返事がありませんでした。

マツお母さんはタケお父さんとふたりでいるときに、「あのね、ウメ子がね、お金拾ったら何買って欲しい?って何回も聞いてきたんだよ。だから、もしかしたらだけど、私の誕生日プレゼントを買いに行ったのかもしれない」と話していました。

でも、ウメ子ちゃんからプレゼントはありませんでした。

お風呂に入ったあと、タケお父さんが「ウメ子~。お母さん、本当は、ウメ子がプレゼント買ってくれるのかもしれないって期待してたんだよ」と言うと、ウメ子ちゃんは「え、そうなの?お金がなかったから買えなかった」と言いました。

マツお母さんは「そうだよね。いいよ、いいよ。別に何も買わなくてもいいからさ」と言いました。

その翌日。

10月11日(日)

ウメ子ちゃんがタンスの引き出しに何かを隠しているのを見かけました。

「何やってんの~?」とマツお母さんが聞いても、「いや、何でもない」とウメ子ちゃんは言いました。

それから、コソコソとスカートの中に何かを隠しているのを見かけました。

ウメ子ちゃん専用の棚の上の方に置いてあるトートバックの中に、何かを移したようでした。

その後、マツお母さんが庭に出て生ゴミを埋めていると、縁側の下にお菓子のゴミを見つけました。

マツお母さんは「ウメ子、お菓子のゴミが縁側の下に落ちてたよ。ちゃんとゴミ箱に捨ててきて」と言って、ウメ子ちゃんに渡しました。

ウメ子ちゃんは「え、私、知らない」と言いました。

この日は、夕方からお友だちが遊びに来たので、マツお母さんが掃除したり料理の準備をしている間、ウメ子ちゃんも家の片付けをしたり、部屋に飾る花をつみに行ったり、ツル美ちゃんを連れて遊びに行ってくれたりしてよく動いてくれました。

美味しいものを食べて、カードゲームをしたり、絵の具でお絵描きしたりして、楽しい1日を過ごしました。

夕飯の後、お客さんたちが帰ってから、タケお父さんが「やっぱりお金がない」と言い出しました。

マツお母さんは、「え~。ちゃんと計算してみるか」と、ノート持ってきて、ウメ子ちゃんの机上空間に座りました。マツお母さんはウメ子ちゃんに「ウメ子も、おこづかい帳をつけな」と言って、横に座らせました。

マツお母さん「え~と、9月28日にタケくんの財布の中に43,626円あったんだよ。で、今は・・・3,218円だね。ええと、飲みに2回行ったでしょ?」

タケお父さん「俺、現金ってほとんど使ってないんだよね。たいだいpaypayかSuicaで払ってるから」

タケお父さんが現金で支払ったものを書き出していきました。

マツお母さんが「2万7千円足りないわ」と言ったときに、ウメ子ちゃんが「えっ?!」と大きな声をあげました。

ウメ子ちゃん「びっくりだね!」

マツお母さんとタケお父さんは目を合わせました。

それから、タケお父さんとウメ子ちゃんとツル美ちゃんはお風呂に入りました。

その間に、マツお母さんは、ウメ子ちゃんの棚にあるトートバッグの中を開けてみてみました。

すると、その中に、お菓子のくずと折り畳まれた千円札が入っていました。

ウメ子ちゃんがお風呂から出てきたときに、マツお母さんは「ウメ子、これ、ウメ子のかばんの中に入っていたよ。ウメ子のお金じゃないよね?お友だちのでもないよね?お父さんのお金かな?」

ウメ子ちゃん「お父さんのお金だと思う」

マツお母さん「お父さんに返しておいて」

ウメ子ちゃん「うん、わかった」

マツお母さんがお風呂に入っている間に、ウメ子ちゃんはタケお父さんに千円札を渡したようでした。

でも「お母さんがなんか、勝手にバッグの中見たら、あったみたい」というように言ったようです。

タケお父さんが「え?これ、お父さんに関係あるお金なの?」と聞くと、ウメ子ちゃんはあまりはっきりしたことは言わなかったそうです。

寝る前に、マツお母さんは「そうだ!ウメ子、小さい小銭入れ持ってたじゃん!あれってどこにあるの?」と聞くと、ウメ子ちゃんは「わかんない。ないかもしれない」と言いました。

ウメ子ちゃんとツル美ちゃんが眠ってから、マツお母さんとタケお父さんはリビングで話しました。

タケお父さん「マツちゃん、ウメ子のこと疑ってたよね」

マツお母さん「だって、お金があったんだもん。最近のウメ子、おかしかったよ。そうだ、RちゃんとSちゃんとお菓子とかジュースとか買って食べたり飲んだりしてるんだけど、そんなお金ないはずだもん」

マツお母さんはノートに改めて数字を書いていきました。

タケお父さんと一緒にカレンダーやレシートなんかを見て、この日は何をした日で・・と、お金の動きを追いながら、計算して、いつ何円なくなったかということを推測していきました。

う~~ん・・・と考えているうちに、ウメ子ちゃん専用の引き出し(宝物ボックス)が目に入りました。

この日も、ウメ子ちゃんが「お母さん、絶対に開けないでね!」と言っていたのです。

マツお母さんが引き出しを開けてみると、100円玉が2枚見えました。

その横に、小さな小銭入れを見つけました。マツお母さんが探していた小銭入れです。

手に持つと、ずしっと重たい小銭入れ。

中を開けてみると、たくさんの小銭と一緒に、小さく折り畳まれたお札が入っていました。

開いてみると、1万円札が2枚と、千円札が2枚でした。

タケお父さんは「う~わっ・・・」と言いました。

マツお母さん「ウメ子だったね」

タケお父さんは「これは大事な局面だね」と言いました。

マツお母さんとタケお父さんは話し合いました。

お互いの小さい頃の悪事や思い出話なんかも出し合いました。

実は、マツお母さんもタケお父さんも子どもの頃に親のお金を盗んだ経験があります。

タケお父さん「根本はさ、300円じゃ足りない、ってことなんだよ。コーヒーもやめた。漫画もやめた。要は『手っ取り早く、とります』ってことでしょ」

マツお母さん「私はさ、小学生のときに万引きして、お父さんにビンタされたのすごく嫌だったんだよね。遠藤さんはさ、『万引きしたらビンタしてでもやめさせないと』って言ってたんだけど・・。でも、ビンタされちゃうと、自分が悪かったって思えないんだよ。なんで叩くの?って逆に怒りが湧いてきたんだよ」

タケお父さん「ダメだね。理屈でいかないと。てか、遠藤さんは暴力容認なの?!」

マツお母さん「う~ん、まぁ、そうかもね」

タケお父さん「ところで、300円っていうのはどこからきた数字なの?」

マツお母さん「『子育ち講座』で月々学年×100円って・・。あぁ、でも、現実的じゃないからってもっと金額あげてるって人もいるよ。たよりに載ってた」

タケお父さん「ウメ子も300円じゃ無理だったね。根本を変えないとダメだよ。ウメ子は社交が始まってるんだよ。値上げしたらいい」

マツお母さん「1日30円だったら、900円か。う~ん、金額はもうちょっと考えよう」

タケお父さん「早く言わないといけない。明日の朝まで待てない。このままじゃ、どういう気持ちでウメ子を応援して見たらいいのかわからない」

翌日は、運動会だったのです。

(つづく)



「子育ち」という育児方法をどんな親でも使える形で表現したいと思っています(^_^)