教師

ふと、高校時代の担任を思い出した。
彼は、氷河期世代に当たるのだろうか。とても優秀な教師で、何人も教え子を東大に合格させていた。
公立の高校だったが、採用難により何年も臨時教員をして正式な採用をされたのは僕が高校に入学するほんの数年前だった。

性格は正直に言って傲慢とも言えた。受験戦争というものを体言したような人で、ユーモアはあったが目は笑っていなかった。
僕はそんな彼に進路指導で随分と苦しめられたものだ。

卒業して数年経って、仲のいい同期と飲み会をした時に彼の話が出た。
実は指導している部活の女子を車で毎日家に送り、抱きしめてから別れていたと。
それ以上の関係があったかは定かではない。僕は学校内のゴシップには疎く、誰と誰が付き合っていたなんかは全く知らなかった。
そんな過去の人間関係の答え合わせの一環として、彼の話題が出て飲み会は盛り上がった。

その時までは、僕は彼を恨んでいた。憎んでいたと言ってもいい。国公立大学の合格者数が教師の評価の基準となる高校だったので、行きたくもない学部の大学の受験を強制されたからだ。(田舎にはそういう文化がある)

その時からはなぜか彼を憎むことができなくなった。むしろ男として共感する部分があるように思った。
職員室の彼の机にはいつも男の子の写真が飾ってあった。
奥さんと離婚して親権はあちらに行き、年に数回しか合わせてもらえないのだと聞いた。

彼が女子生徒を抱きしめていたのは、性欲が由来だったのだろうか。それもあろうが、寂しかったのではないかと勝手にシンパシーを抱いている。

近年「バブみ」という言葉をネットでよく見かける。年下の女の子に甘えたい感情…とでも言えばいいのか。彼はそれを感じてしまったのではないかと思っている。

夜、独りでいると、温もりが欲しくて気が狂いそうになる時がある。柔らかくて、温かいものに抱きしめて欲しくなる時がある。
彼もそう思っていたのだろうか。

結局、彼は退職した。女子生徒との関係のせいかはわからない。
ただ、虚しかったのではないかと推測している。
いくら教師としての評価が高まってもそれを喜んでいる家族がいない。僕だったら多分耐えられない。

いつか、全ての男に温もりが与えられる世になればいいなと思う。僕が生きている間は無理だろうが。それでも、いつか。

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