おじいちゃんとカツ丼

カツ丼を食べると、いつも祖父を思い出す。

僕は子供の頃、とても食が細かった。身体測定ではいつも体重が少なすぎると言われて、親には食べることが苦痛だと訴えていた。
そんな僕に祖父は、いつもカツ丼を出前で取ってくれた。
もちろん一杯全ては食べられない。半分以上は残していた。しかし、祖父はそれをニコニコと眺めて一緒にカツ丼を頬張っていた。

祖父が仏壇の中でニコニコするようになってから随分経って、僕はカツ丼を一人で一杯完食できるようになった。
今ではもう祖父の顔も声も思い出せない。遺影を見ても、こんな人だっけ…と思うだけだ。

でも、カツ丼を食べると、当時感じた温かい気持ちがじんわりとお腹の中に広がっていく気がする。
あの時共有したカツ丼の味は確かに僕の中に今でも残っている。

もうカツ丼を出前してくれたお店も随分前に畳まれてしまった。

僕がいつかあの世に行ったら、真っ先にそこから出前を取って祖父と一緒にカツ丼を食べようと思う。
そして現世でどんな人生だったかをゆっくりと話すのだ。どんな人生でも、祖父はきっとニコニコして聞いてくれると思う。
その日が来るまで、祖父を想いながらカツ丼を食べることができればいいなと思う。

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