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夜中に前髪を切ってしまう時は

なぜか夜中になると、前髪を切ってしまう。
皆さんは、そんな時はないだろうか。

夜中に髪が切りたくてたまらなくなり、美容院は当然閉まっているしこどもは眠っているから外に出るわけにもいかないし。
結局自分で切れる範囲の前髪を切ってしまう。

我が家は道具が揃っているわけでもない。私が使うのは文房具バサミとすきバサミ。バサッと行きたい時は文房具を使い、うねりを誤魔化したい時はすきバサミを使う。

私は天然パーマである。「その髪の毛は天然?」と今まで何度聞かれたことだろう。長女ねね5歳も天然パーマでクルクルフワフワの髪なのだが、3歳の頃くせががとても強くて、「これは天然パーマ?」と道ゆく人にめっちゃ聞かれた。笑顔で「そうなんです」と答えていたが、心の中では「こんな小さい子にパーマ当てる親がどこにおるんやオラ」と少々イラついていた。かわいいかわいい我が子だが、髪の毛の件は親はかわいいと思っていてもいつか悩むことになるのかと思うと心の底から申し訳ないと思っていたから、触れないで欲しい、ほっといてくれと思っていた。

私は、学生時代それはそれは自分の髪の毛を恨み、縮毛矯正やパーマを当ててどうにかなりたい髪型にしようと試みた。でも、髪が傷んで広がってしまったりお金もかかったりして、悩んだ結果カットが上手い美容師さんを探し、髪質やうねりに合わせて似合う髪型をやっと見つけてもらった。今では髪のダメージもほぼ治ったからかツヤもだいぶ出てきて、梅雨の時期はうねりがでるものの、クセを抑えるショートカットにしてもらうことで、やっと自分の髪が好きになってきた。
自分の髪の毛を受け入れて好きになるまでに、30年くらいはかかっている。

髪の毛にコンプレックスがあったから、セルフカットは昔からよくしていた。少し伸びて髪型が決まらない時はもちろん、少しでも自分にカツを入れたいときや気分転換の際は、当時から夜中に前髪を切っていた。前髪はオンマユ短い派なので多少やり過ぎても気にしない。むしろ、オンマユはなにも隠せないからこそ気合が入ったり、真正面からぶつかっていったろかいなとパワーをつけたい時はもってこいの髪型だと思っている。

だが、セルフカットでいい髪型になったと思うことはかぞえるほどしかない。それでも髪を切りたい気持ちは止められないので切ってみる。少し切るだけで、気持ちが整ったり強くなったりする。カットはとても奥が深い。外見も気持ちも1発で整えてくれる美容師さんはさすがだな、と思う。

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我が家には、夏前から適応障害で休職中の旦那くんがいる。転勤でこの地にきてから仕事で悩むことが増え、コロナ禍で2人目ぴよを里帰りせず出産することを決めたため、彼は育休をとり産後みんなの生活を支えてくれた。育休明けも2人育児で心身ともにボロついている私をサポートしてくれた旦那くんは、7月に限界よろしくでぶっ倒れてしまったのだった。

旦那くんが休職してから、私の1人の時間はほぼなくなった。家にはずっと旦那くんがいるし、5歳長女ねねちゃんはずっとママにべったりだし、0歳の次女はみんなが認める『床においたら寝ないオンナ』だったので常に抱っこ紐で私にひっついていた。当時は先行き不安や息抜きできない日々に発狂しそうなときもあったが、だんだんその生活にも慣れてきて、私も少しだけ自分の時間を作れるようになってきた。

一昨日、そんな旦那くんから今後の仕事の話があった。少しチャレンジしてみたい分野があるようで、違う部署の試験を受けてみたいとのことだった。
その試験が受かればまた引っ越しになる。3年過ごしたこの地と離れなければならない。

もちろん覚悟はできている。時が来たら離れねばならないのは、転勤族の宿命である。

数年ごとに移動を繰り返す転勤族は、人間関係をイチから形成していくのは大変なのでは?と思われがちだと思う。
そんなことはない。表面上のお付き合いだけ、しておけばいいのだ。相手が聞いて欲しい話を聞き、相槌や返しで盛り上げ、関西人の私にとってはそれは難しい問題ではなかった。初めからたった数年のお付き合いだ、あまり踏み込まなくてもやっていける。胸の内を曝け出す必要がないと思えば、その場だけ楽しくフラフラ〜と合わせておけば楽なもんだった。新しい土地では新しい自分に変われることもできるし、いろんなところにいけて私は転勤が好きだった。

でも、3年子育てで同じ場所にいると、その上部だけの関わりができなくなってくる。
助けてもらわねばならないことも増えるし、人との関わりも増える。人に頼るということは、胸の内を見せないと寄りかかれないところがある。自分の弱いところを吐き出す時も、相手を信頼しないと吐き出せない。
この土地では、今までとは違う、表面だけでなく相手を信頼して懐に飛び込む関係性を作る必要があった。

2人目を妊娠し、コロナの中出産して、ママ友たちには本当にたくさん助けてもらった。放課後ねねちゃんを預かってもらったり、公園に一緒にいってもらったり、時にはお茶して盛り上がったり。ママ友はもはや私の戦友となっている。旦那くんの話も聞いてもらったりもして、支え合い慰めあいパワーに変えながら、いつしかこのコミュニティは私にとってなくてはならないものとなっていた。

今回、もし旦那くんの試験が受ければ引っ越すことになる。
私は、大きく動揺した。

だが。この地で辛い思いをした彼にとって、違う場所でまたやりたいことが見つかりそうならば、チャレンジしてもらいたいと思う。挑戦するエネルギーが持てたのは、私にとっても嬉しいことだ。チャレンジさせてあげたい。

ここは、旦那くんの挑戦を応援しようと決めた。

この日の夜、久しぶりに前髪を切った。よく考えたら2ヶ月くらい美容院に行っていない。ショートカットの私にとって2ヶ月行かないのはとても長い。この2ヶ月、髪のことに気を取られずによく走りきったのだなと我ながら思う。
鏡を置いて、文具バサミでバサッといき、すきバサミで整える。まだだ、まだ短くしたい。今夜はなんかそんな気分だ。

少し整えてはなおし、整えてはなおしして、気がつけば30分くらい切っていた。

鏡に映った私はオンマユの前髪で顔丸出し。でも不安そうな表情ではなかった。気持ちも少し、整ったのかもしれない。

もちろんうまくはないけれど、これでいい。自分のやりたいことをやりたいときにやりきれると、スッキリするのだ。

次の日の朝は、しっかりチークを入れてみた。赤リップもしてみた。マスクで隠れて外では意味がないこのメイクだが、前髪とよく合っていると思った。

よし、もう大丈夫だ。

夜中の前髪セルフカットは、モヤモヤした私を少し生まれ変わらせてくれた。

今回、私は自分で決めて動くことがしたかったのだと思う。

人の背中を押したものの、私も自分の背中を押してあげたかった。

大丈夫、私はまた明日もやっていける。
もし新しい土地にいっても、またなんとかやっていける。

夜中に前髪を切ってしまった。あんまりうまくは切れなかった。でも、やりたいことに時間がとれて、やり切ることができて、気持ちが整った。自分で決めて、自分で動くことが大事なのだ。

また明日も頑張れそうだ。


日々の中で、家族の笑顔を守るための何かに使わせていただきます。本当にありがとうございます。