40歳でこんな恋をしたら辛い……!? 『マチネの終わりに』編集者と語る座談会
「マチネ読書会」をもっともっと盛り上げていきたいという思いから、実際に『マチネの終わりに』を編集したコルクの編集者、コルクの社員、コルクラボメンバーで、読書会っぽい座談会を開催しました。『マチネの終わりに』への愛とリスペクトがたっぷりと詰まった心地よいひととき!
読んだばかりの人も、読んだけど忘れてしまった人も楽しめるはず。まだ読んでいない人も、ネタバレは最小限にしていますので検討材料にどうぞ!
■座談会メンバー(左から。敬称略)
ユヒコ 『マチネの終わりに』編集者
まりえ 『マチネの終わりに』のCakes連載を担当
中塚 コルク社員
栃尾 コルクラボ メンバー
makicoo コルクラボ メンバー
■忘れてしまった人に! 『マチネの終わりに』主な登場人物
蒔野聡史 天才的ギタリスト。小峰洋子に惹かれる。
小峰洋子 天才映画監督を父に持つジャーナリスト。蒔野聡史に惹かれる。
三谷早苗 蒔野のマネージャー。蒔野のことが好き。
リチャード 小峰洋子のフィアンセ。アメリカ人の経済学者。
フィリップ 小峰洋子の上司。
「『あり得ない』って何度も思ったキャラクター」byユヒコ
――連載中から「売れる自信があった」そうですが、それはなぜですか?
【ユヒコ】私は毎日新聞の連載とnoteの連載も担当していたので10カ月かけて読んでいきました。序章の段階で、稚拙な表現になりますが「すごくいい」と思ったんです。加えて、連載の反響が大きくなるにつれ、各地で読者の座談会が自然発生していて。「早苗は絶対許せない」とか「早苗派vs洋子派」とか……。noteに「早苗を許さないで」や、逆に「幸せになって欲しい」というコメントがあり、平野さんもそれを読んでいました。だから、早苗のことを説明するために書かれたシーンもあります。
実は私も、早苗は絶対に無理。連載中に原稿をもらうたびに「まじ、あり得ないんですけど」って、めっちゃ怒ってました(笑)。リチャードも好きじゃなくて、完全に「洋子派」です。ただ、早苗の気持ちがわかる、って人もいるんですよね。
【中塚】私は、早苗の気持ちが少しわかる。恋愛じゃなくて友だち同士とかでも、ああいう悪いこと絶対しない? って言われたら「そういうつもりじゃなかったけど、やっちゃった……」はあると思う。
【ユヒコ】確かに、そういう声は多かった。一番読者に近いのは早苗だと思うので。
【makicoo】だけど私も、早苗は嫌い。私は洋子と違って、徹底的にやり合うと思う。
(※このあと、早苗に対する「あの行動はあり得ない」という怒りが噴出しましたが、ネタバレなので省略します……。ホンネは実際の読書会で語り合いましょう♪)
「蒔野にもう少し子供っぽさを加えたら理想の男性」by makicoo
――好きなキャラクターはいますか?
【makicoo】以前、イケメンのミュージシャンを好きだったことがあって、その人と蒔野を重ねて読んでいました。実は、蒔野+αが憧れ。芸術家なのはすごくいいんだけど、もうちょっと子どもっぽい人が好きなので、洋子と会えなくて泣いちゃう、みたいな人だったら最高です。
【ユヒコ】蒔野はそうじゃないですもんね。私は、やっぱり洋子です。実際にこういう女性ってなかなかいないと思う。洋子は(著者の)平野さんだから書けたんじゃないかな。女性への尊敬の念がある。もちろん作品にもよるんですけど、普通は女性って都合よく扱われたり、消費されるような存在であることが多い気がします。
洋子は、今の日本でこれからもっと増えていく働く女性を肯定しているような存在だから、(その洋子が美しく描かれることで)救いがある。あとは、きれいな女性が好きなので。
【栃尾】私は、洋子の上司のフィリップが好き。ああいう人って女性に辛いことがあったときに必要なんだと思います。本命の恋がちょっとうまくいっていないとか、仕事で自信をなくしたときに、ちょっと思わせぶりなことを言ってくれる。それだけで少し自信が付くことってある。そんなにたくさんのシーンがあるわけではないですが、洋子にとっては、救いだったんじゃないかと思います。
【ユヒコ】色気ありますよね。
【栃尾】そうそう。もしかしたらこの2人がくっつくこともあったかもしれない、という主旨の描写もあって……。
【まりえ】私は「誰が好き」とか考えて読んでいなかったですね。客観的に読んでいました。
【中塚】私もそうかも。早苗の行動を見て「ああ、やっちまったな」とかは思うけど(笑)。
「この人だけがわかってくれる、という感覚はたまらない」by栃尾
――好きなシーンはありますか?
【栃尾】蒔野が同い年くらいの日本人アーティストに、嫉妬をカミングアウトされるシーンがありましたよね(※第八章 P.349)。でも、「不意打ちのような告白を(略)何度となく経験していた」という描写があって。「天才あるある」なんだろうなって。
【ユヒコ】あれ、いいシーンですよね。
【栃尾】ですよね! ああいう気持を想像したことなかったので。
【ユヒコ】蒔野が外国人ギタリストの演奏を聴いて、「もしこの新しい才能が自分の影響を受けていなかったら寂しい」というようなことも書かれていた(※第五章 P.120)。きっと、天才や一流の人たちはみんなそう感じるんじゃないかと思いました。
『マチネの終わりに』は恋愛がテーマなんだけど、天才の孤独とか、芸術の深みなどもふんだんに書かれていて、それが奥深さになっているのだと思います。
それから、ジャリーラと洋子と蒔野の3人で過ごした一夜(※第五章 P.139)。蒔野がギターを弾いて、ジャリーラが踊り出してしまうんだけど、何度読んでも美しくて……。CD(※1)を聞きながら読むこともあります。まだ2人が幸せだった頃の、とても好きなシーンです。
【栃尾】洋子が、おばあちゃんと石のエピソードを話しましたよね(※第一章 P.27)。あのシーンはとても好き。微妙な心情を周りの人はわからないんだけど、蒔野だけはわかってくれる。そんな場面があったらたまらないだろうなって思います。
【ユヒコ】あれは好きになっちゃいますよね。
【栃尾】ですよね。逆に、すごく好きになった人がわかってくれなかったらショックかもしれない。
【makicoo】私は、最後のシーンが好きですね(※第九章 P.400)。幸せなとき。
【ユヒコ】誘い方がしゃれてますよね。
「静寂と喧噪を対比させた音楽の表現に感動」byユヒコ
――『マチネの終わりに』は表現が美しいと思いますが、好きな表現ってありますか?
【ユヒコ】フィリップとのやりとりで洋子の「教養のない男は、誰もベッドを共にしてくれないわよ」っていうの、好きですね(※第三章 P.61)。
【栃尾】私はそのすぐ後の「フィアンセにはしない方がいいな、その話は。惚れてるのがバレるから」っていうのも好きです。
【ユヒコ】後は……、音楽の定義も好きですね。「音楽は、静寂の美に対し、それへの対決から生まれるのであって、音楽の創造とは、静寂の美に対して、音を素材とする新たな美を目指すことの中にある。」(※第二章 P.39)静寂と、喧噪を対比させて書いていて。現代で静寂がなくなっている中で、静寂を再定義しています。コンサートホールがレアな場所で、そこで音楽を奏でるということ。平野さんは音楽家じゃないのに、そんな風に考えているということに感動しました。現代の喧噪にうんざりしている中で、静寂の大切さを投げかけていると思ったんです。
【makicoo】そこは私も好きです。美しいですよね。
【栃尾】他には……「(蒔野は)彼女の、もうあまり燃えやすい部分は残っていなかったはずの心の中で、唐突に燃え立ち始め、勢いを増してゆく火だった」も好きですね(※第四章 P.92)。
【ユヒコ】あー、私も好き。
【栃尾】「寂しい時に恋をする」ってありがちですが、そうじゃなくて、洋子は幸せだったのにいきなり燃えちゃうって説得力ある。
【ユヒコ】そうですね、本物の恋ですね。すごいなー、大変だなー。いろいろ幸せだったはずなのに。
「恋によって謙虚になるのは、天才の蒔野だからこそ?」byまりえ
――以前開催した読書会では「恋の効能は、人を謙虚にさせることだった」(※第四章 P.74)という表現が話題になったことがありましたが、いかがですか。
【栃尾】実は、謙虚っていう言葉があっているのか疑問でした。誰かを好きになると、「相手は本当に自分のことを好きなの?」「自分ばかりが一方的に好きなんじゃないの?」って不安になる。そういう「自分本位な不安」であって、私の場合は「謙虚」みたいな美しい言葉で表すのはちょっと違うなって思ったんです。
【ユヒコ】その一文って、蒔野の思いとして書かれていましたよね? 早苗が言ったなら「謙虚」とは言えないかもしれないけど、蒔野はきっと他のことに対してそういう気持になった経験がなくて、洋子を好きになって初めてそう感じたんじゃないかな?
【まりえ】天才だけに、今までは何でも思い通りになって……みたいなことだよね?
【ユヒコ】「僕はこの女性に見合うんだろうか?」みたいな感情を、今まで持ったことがなかったんじゃないでしょうか。洋子に出会うまでの蒔野って、ちょっとチャラそうじゃないですか?
【中塚】そうそう。私のイメージでは蒔野はロン毛だったんです。noteでの連載時に蒔野のイラストを見たとき「あ、短髪なんだ」って思って軌道修正しました(笑)。
「40歳になったら、恋人とこんなレベルの高い会話するの?」by中塚
【まりえ】洋子ってなんだか、スーパーウーマンみたいな感じですよね。
【中塚】40代の恋愛ものって初めて読んだのですが、2人の会話を読んで「え、こんなにハードル高いの? 私、間に合うかな?」って思いました(笑)。
【ユヒコ】毎回のご飯でこんな高いレベルの会話をしなくちゃいけないの? って思うよね。
【まりえ】英語もフランス語も話せるしね。
【makicoo】蒔野というキャラクターは、平野さんが投影されていると思いますか?
【ユヒコ】それは感じますね、ユニークなところとか! ユーモアがあって、人を笑わせてくれます。新幹線で、隣に座った人が知り合いだと思った、というエピソードがありましたが、ああいう感じで会話で楽しませてくれます
「40歳でこんな恋をしてしまったら大変」byユヒコ
――読者からの感想などはどうですか?
【ユヒコ】大学生の男の子に感想を聞いたとき、「僕は本当の恋を知らなかった」っていっていました。こういう恋愛を、40歳でしてしまったら大変だろうなって思います。
【栃尾】独身同士だったらいいけどね。
【makicoo】結婚すると大変ですよね-。私、ダブル不倫の人に話を聞いたことがあるんですけど、それまでのパートナーと別れて一緒になるにしても、合わせるのが大変で。相手をすごく信頼しないといけないですよね。片方が別れたのに、もう片方が別れられない、なんてこともあるし。
【栃尾】自分が別れるときに、相手は別れられないかもしれないって覚悟しなくちゃいけないんでしょうね。
――『マチネの終わりに』を読んで、恋愛観に変化はありましたか?
【ユヒコ】恋愛観はなかなか変わらないですが、「過去は変えられる」という言葉の意味がわかりました。その一文だけ読んでもわからないと思うけど、小説を読めばわかる。
【まりえ】私も、恋愛観が変わったというより、自分の中にあった気持を文字にしてくれた、という思いがありました。誰かを好きになるのって得体が知れないし、理由もわからない。それを平野さんが定義して落とし込んでくれた。「好き」ってこういう感情なんだ、とかあのときの気持はこういうことだったのか、って。
「いつかこんな恋愛をしてみたい」by中塚
【栃尾】読みながら昔の恋愛を思い出しますか?
【ユヒコ】思い出しますね。相手はこんな感情だったんだな、と思いました。
【栃尾】私は、メールのやりとりでどんどん好きになっていくのって、あるなって思いました。
【まりえ】メールって不思議ですよね。
【makicoo】私は、過去に遭遇した「早苗的」な人が走馬灯のようによみがえりましたよ(笑)。大人になってからは接触しないようにしていたので、久しぶりに見た。
【ユヒコ】昔の人に重ねてしまいますよね。LA VIDA(※2)でも「あなたに忘れられない人はいますか?」というスレッドがすごく盛り上がりました。
あと、帯に「結婚した相手は、人生最愛の人ですか?」っていうコピーが採用されましたが、みんなそういう思いがあるのかな、って。他に、読者の方の感想もいろいろ載せていて。
【中塚】(オビを読んで)「いつかこんな恋愛をしてみたい」って、すごいわかる!
【ユヒコ】これ、あなたが書いた感想だよ……(笑)
【中塚】えっ!? そういえば、会社で感想を集めたときに私のが載ったよ、っていわれたような気がしたけど、見てなかった。えっ!? 私??
(一同爆笑)
座談会はほがらかに、楽しく、深く、盛り上がりました。『マチネの終わりに』を追体験するような素敵な時間。読書会も、こんな雰囲気でやっています。ぜひ、noteやTwitterをフォローしてください。『マチネの終わりに』関連の記事や、読書会のお知らせを投稿していきます。
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※1 【CD】CDアルバム「マチネの終わりに」(福田進一)
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