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婚活の言い訳

"私だってね、もっとハンサムな男の子好きになりたかったわよ。でも仕方ないでしょ、あなたのこと好きになっちゃったんだから"
『ノルウェイの森(下)』講談社文庫、1987年

村上春樹さんの「ノルウェイの森」は、同じ大学に通う主人公のワタナベと小林緑、そしてワタナベのかつての親友キズキの恋人・直子との三角関係を描いた、言わずと知れたベストセラー恋愛小説です。一度読んだことがある、という方もたくさんいらっしゃると思います。物語の後半、緑がワタナベにむかって胸をうちを告白する場面の台詞の一部が、引用のそれですね。

「仕方ないでしょ、あなたのこと好きになっちゃったんだから」のような台詞は、私なんかは一生のうち一度は言われたいけど、今回婚活をテーマにした話として注目したいのはむしろ「もっとハンサムな男の子好きになりたかったわよ」の部分のほうです。

婚活に言い訳はつきものです。
年収がイマイチだ、住んでる場所が田舎すぎる、体型は不細工だし顔も良くない等々、一般的にはその反対側が好まれるであろうことを理由に自分を慰めるわけですね。私自身ももちろん経験してきた道です。

とはいえ、ちょっと前に放送された所ジョージさんと林修さんが進行役のテレビ番組「ポツンと一軒家」で、人里離れた場所の一軒家に暮らす50代の独身男性が、番組スタッフから「ご結婚は?」と聞かれて「いいえ、まだなんです。こんな場所に嫁さんに来てくれるなんなかなかいませんから」と照れくさそうにその人は話していたのですが(そして偉そうなこと言って申し訳ありませんが)、この男性が結婚できていない理由は住んでいる場所が問題なのではなく、男性自身がちょっとした事実を受け入れる勇気がなく、ご自身が変わることを決断できていなかったことが問題なのだと、私なんかは思います。

私のまわりでも、なんでこの人が結婚しているのにあの人は結婚していないのだろう?というケースはたしかにあります。本当になんでなのでしょうね。素敵な人がつねに結婚できるとはかぎりませんし、その逆もしかりです。

そう考えると、いま結婚している人はそれなりの運とめぐり合わせとタイミングとが上手に重なり合って出来上がった偶然なのかもしれません。

でもですね、

あなた自身に結婚にたいする意思があるのに、自分は年収は高くないからとか、イケメンじゃないからとか、辺鄙な場所に暮らしているからとか、多少は不利な条件なのかもしれないけど、そうやって自分に言い訳してたってなかなか良いことは起きません。

「仕方ないでしょ、あなたのこと好きになっちゃったんだから」って相手に言わせてみましょうよ。

「私だってね、もっと年収高くてハンサムで都会に住んでる男の子好きになりたかったわよ」って相手に言わせてみましょうよ。

じゃあどうやって?

またまた「ノルウェイの森」からの引用になりますが、入院している父親の看病を姉とともにやっている緑が病院の食堂でワタナベにこう愚痴をこぼす場面があります。

"親戚の人が見舞いに来てくれて一緒にここでごはん食べるでしょ、するとみんなやはり半分くらい残すのよ、あなたと同じように。でね、私がペロッと食べちゃうと『ミドリちゃんは元気でいいわねえ。あたしなんかもう胸いっぱいでごはん食べられないわよ』って言うの。でもね、看病してるのはこの私なのよ。冗談じゃないわよ。他の人はたまに来て同情するだけじゃない。ウンコの世話したり痰をとったり体拭いてあげたりするのはこの私なのよ。同情するだけでウンコがかたづくんなら、私みんなの五十倍くらい同情しちゃうわよ"

私はこの小林緑という人物のキャラクターが大好きです。素直で正直で、おまけに可愛いげがあって。恥ずかしい話、ある時期本気で緑みたいな女性が実在しないかなって探していたくらいだから。

自分に都合のいいように言い訳したって良い仕事ができないように、都合のいいように言い訳したって良い婚活はできません。彼女の言う、同情するだけでウンコがかたづくんならって態度で婚活しててもおそらく婚活は上手くいきません。

個人的にすごく思うのですが、婚活が上手くいっていない多くの人たちが見誤っていることは、最終的にお相手が決めるところを自分自身が勝手に悲観的に解釈してあきらめちゃっているところじゃないかなあと思うんです。

こちらの年収が高いか低いかも、ハンサムか美人かどうかも、年齢が高いか若いかも、田舎が好きか都会が好きかも、ぜんぶこっちで先ばしって判断しないで一度お相手のことを信じてゆだねてみてもいいんじゃないかなって。

それで結果的に「年収が高くないみたいでフラれました」というなら、自分は年収の低さを補えるだけの人間的な魅力にちょっと欠けていました、といさぎよく認めることからまた新たに婚活をはじめればいいんじゃないかなと、残酷だけど私はそう思います。

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