3.建築士がマイホームを建てる場合の選択肢
一般の方(建築に携わる仕事をされていない方)が自宅を購入しようと思ったときに、まず誰にあるいはどこに相談に行くのでしょうか。一戸建てにするか分譲マンションにするか。一戸建てであれば新築するのか中古物件を購入するのか。新築するのであれば工務店か、ハウスメーカーか、建築家か…分岐点はいくつかあります。今回は建築士の場合、というより私の場合の選択肢と取捨選択の過程をご紹介します。
※ここから先の文章は常体で記しております
住宅の購入を考えた理由…
現在住んでいる賃貸マンションを出ていこうと思った最大の理由は、家賃を払うよりも資産にしたいということである。マンションの間取りは1DKで、家賃+共益費+駐車場代で8万円弱であったため、熊本市内にしては決して安いとは言えない金額であった。
家賃というのは、言わば掛け捨ての保険である。親から熊本市内の空き家をもらうことになっていたので、土地を探す必要がなく、現在の家賃と同等の支払いで一戸建てを新築できるなら、早いに越したことはないという考え方であった。
その他の理由としては、今のマンションでは少し狭く感じてきたことがあげられる。収納は現状でピッタリ納まっているような状態で、新たに洋服を買ったら古い洋服を捨てるようにしている。正直もう少し余裕があるといいなと思うし、実は実家に置いている荷物もあったりする。
他には、いつも夫婦二人でキッチンに立って調理しているが大きなキッチンの方がやりやすいし、在宅ワークをしているのでワークスペースをもう少し充実させたい、もっと自由にインテリアコーディネートしたい…などという思いもある。
ということで、急いでいるわけではないが確実にマイホームへの道を進み始めた。
建築士がマイホームを建てる場合…
建築士と一言で言っても、ゼネコン/ハウスメーカー/アトリエ…どこで働いているのか、公共建築/商業施設/住宅…何を専門としているのか、今後どうしていきたいのかなど、状況は人それぞれ。今回は私自身を例にあげて説明していく。
まず、私の状況から説明していこう。私はアトリエ設計事務所で3年間勤務したのち、1年間はフリーランスの建築士として働いていた。現在はアトリエ設計事務所に勤務しながら、フリーランスの建築士も継続している状況である。専門としているわけではないが、主に住宅の設計に携わることが多い。そして将来は自身の建築士事務所を設立したいと考えている。
この状況を踏まえて以下の3つの選択肢が生まれた。
①自分自身で自宅を設計する
②建築家に設計を依頼する
③ハウスメーカーや工務店に設計を依頼する
そしてこの3つの選択肢について、詳細に検討していくことにした。
①自分自身で自宅を設計する…
いずれ建築士事務所を設立したいことを思うと、自然と思いついた選択肢である。さらに、周りの人も建築士=自分で設計すると考えている人が多かった。
メリットとしては、自分で自由なデザインができること、いずれ建築士事務所をする際の作品にできること、設計料を他社に払わなくて済むという点では節約になること(自分の時間は使うことになるので、費用が掛からないとは言えない)等があげられる。
デメリットとしては、各種手続きや業者の手配等の全てを自分で行わなくてはならないこと、家庭や仕事との両立を考えるとかなり時間がかかること、自分の名義で家を建てるならすぐに設計可能だが、主人名義なら建築士事務所設立後でないと設計できないこと等があげられる。
自分で自由なデザインができることは、良くも悪くも、出来上がるまでに時間がかかることは覚悟しておかないといけないのかもしれない。
②建築家に設計を依頼する…
建築へのこだわりが強い分、建築家に依頼することで、ディテールまでこだわった住宅を建てたいという思いがあり、この選択肢を思いついた。
メリットとしては、唯一無二の住宅を建てることができること、好きな建築家の作品が手に入ること、デザインに関しては全て任せられること等があげられる。
デメリットとしては、①よりは短くなるとはいえ設計期間が長くなること、建築家の作品として完成させるために金額が上がる可能性があること、自分の意見が通りづらいこと、土地探しやローンの手続きは自分でやらなければならない場合があること等があげられる。
もし好きな建築家に依頼するなら、極力デザイン面はお任せした方が、作品として完成すると考えているため、自分の意見を通しにくいという状況も生まれやすいのかもしれない。
③ハウスメーカーや工務店に設計を依頼する…
自分が建築士であり、ましてや住宅を設計する身として、中々踏み出すのに勇気がいる選択肢である。
メリットとしては、住宅に関わることをワンストップで依頼できること、メーカーの場合は性能に関するメーカー保証があること、工務店の場合は地元で建て慣れていて勝手が分かることや価格帯が比較的低いこと、短期間で入居可能なこと等があげられる。
デメリットとしては、デザインが画一化しやすいこと、間取りやインテリア等で建て主が考える部分(選択する場面)が多いこと、モデルルームや展示場で施工例が見れる分、実際に建ったものとの違いを感じること等があげられる。
ワンストップで依頼することになる分、担当営業者・設計者との相性といったものが重要になってくるのかもしれない。
私が選んだのは…
実際①→②→③の順で悩み、③の選択肢の、特にハウスメーカーで家を建てるという結論に至った。
私が将来やりたいことは、空き家を減らすことである。そのために、家を建てようとする人に、自分の家に愛着を持って永く住んでもらうことが重要と考えている。愛着を持つためには、自分で考えた家であることが重要と考えた。
自分で建築士事務所を設立したいのは、自分の作品を作りたいというよりも、建て主の家づくりを各方面からサポートすることで、家づくりでの失敗や不安を取り除きたいという思いからである。
であれば、自然と①と②の選択肢を選ぶ理由が無くなった。また、時間がかかるという点においても、その間家賃が嵩んでいくことを考えると、負担に感じたという点もある。もちろん、建築家に依頼することの魅力は計り知れないことは理解している。実際②の選択肢を諦めることにかなり葛藤があった。
そして③の選択肢の中でもハウスメーカーを選んだのは、性能に関する保証が大きい理由である。前述のように、家に永く住んでもらうためには、愛着と合わせて快適性・省エネ性といった面で持続可能な社会と結びつけることが重要だと考えている。
国交省でも最近、省エネ住宅に関する説明義務が創設されるなど、益々省エネ住宅が求められる傾向がある。こういった流れに対応しやすいのがハウスメーカーであり、今後、ハウスメーカーで建てようと考える人が増えるのではないかと考えた。将来的には、ハウスメーカーの選定や打合せに、私が第三者の建築士として同席するような仕事を想定している。
こういったことを踏まえると、ハウスメーカーの家づくりの流れを知ることができること、建築士でありながら建て主(客)の立場を経験することができること、私自身もメーカー保証付きの省エネ住宅が手に入ることなどが決定の理由となった。そして、建て主が考える部分が多いというのを逆手に取り、ハウスメーカーの規制の中で、自分の建築士としてのスキルを十分に活用し、自分らしい住宅を作りたいと決意した。
最後に…
今回お話したのは、あくまで私の考えであり、一般に通用するような体験談というわけではありません。ただ、自分が建築士だから自分で設計しなきゃ、自分は良い建築を知っているから良い建築家に設計依頼しなきゃ、といった考えが全てではなく、自分が本当にやりたいことって何だったっけ…というところから見つめなおしてみるというのも1つの手かもしれません。
一生に何度も経験することもない自分の家づくりの機会を、有効に活用してみるのはいかがでしょうか。
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