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なぜ空集合はすべての集合の部分集合になるの?

 以前,生徒に次のような質問をされたことがあります。

「なぜ空集合はすべての集合の部分集合になるんですか?」

 確かに数学Ⅰの教科書(数研出版)には次のように書かれています。

「空集合は,どんな集合に対しても,その部分集合であると約束する。」

 これを見る限りだと答えは簡単です。

「そう決めた,つまり定義だからです!!」

 この答えを聞いてスッキリする人もいるかもしれませんが,おそらくよりモヤモヤする人の方が多いでしょう。(ちなみに私は以下で説明する対偶を用いた方法で説明しました。)
 
 それは,この疑問を持つ人が本当に知りたいことは,このように約束するする理由(妥当性)だからです。

 実は,上の性質は高校の教科書に書くには少し難しいだけで,空集合と部分集合の定義に従って導くことができます。

 そこで今回は空集合に関する上の性質を証明することで,上のように約束する妥当性を検証することにしましょう。

準備

 まずは証明すべきことを数学的に表現してみましょう。

 「空集合が,どんな集合に対しても,その部分集合である」とは,「任意の集合$${A}$$に対して,$${\varnothing \subset A}$$である」ということです。

 また,部分集合の定義から,「$${\varnothing \subset A}$$」とは「$${x \in \varnothing \ \Longrightarrow \ x \in A}$$」ということです。

 よって,以下ではこの命題を証明していきましょう。

対偶を利用した証明

 「$${x \in \varnothing \ \Longrightarrow \ x \in A}$$」を証明するために,この命題の対偶「$${x \notin A \ \Longrightarrow \ x \notin \varnothing }$$」について考えてみましょう。

 この命題は明らかに真です。なぜなら,空集合は要素(元)をもたない集合なので,$${x \notin \varnothing }$$となるからです。
 仮定$${x \notin A}$$を使っていないのが少し変な感じがしますが,真であることに変わりはありません。よって,もとの命題も真になります。

 この証明は「集合と論証」の単元を一通り学習すれば高校生でも理解できますが,数学Ⅰの教科書では対偶を学ぶ前に集合を学ぶことになっているので,空集合が出てきた段階でこれを言われても何のことかさっぱりわからないでしょう。

仮定が偽の命題に関する性質を用いた証明

 この証明は高校数学の範囲を少し逸脱しますが,対偶などの道具を使うことなく直接示すことができます。

 大学で数学を専攻するとまず初めに学習することですが,そもそも$${p \ \Longrightarrow \ q}$$の定義は$${\overline{p} \vee q}$$です。 
 つまり,命題$${p \ \Longrightarrow \ q}$$の仮定$${p}$$が偽である場合は,この命題は結論$${q}$$の真偽に関わらず,常に真であるということです。

 空集合は要素(元)をもたない集合なので,今回のケースでは,仮定$${x \in \varnothing}$$は偽です。よって,もとの命題が真であることがわかります。


 いかがだったでしょうか?
 どちらも私自身はスッキリするのですが,生徒にとってはこれでも納得できないかもしれません。

 もし,これ以外でわかりやすい証明(説明)があったら教えてください。


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