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2020年8月 引退の日

1年間で、必ず受け入れなければならない日がやってきた。

部活動、引退の日…

今年のバドミントン部3年生の代は、
みんな一生懸命で、本当に強かった。
新人戦では3回戦を男女ともに勝ち上がって、
過去最高の記録を出した。

4年前の引退試合…
本当に劇的な大逆転で負けた。
3回戦目、第三シングルスのファイナル、20-17からの逆転負けだ。
※バドミントンは、21点2セット先取で行われる。高校生は、ダブルス2本、シングルス3本のうち、3本先取で勝敗を決める。

2年前…
4年前の引退試合を見ていた当時1年生の彼らの引退試合、
3回戦目の第3シングルスで負けた。
そのとき、エースが、
『俺たちを超えろ、3回戦目を勝って1日でも長く部活を続けてくれ!!』
と話をしてくれた。

そして、2年が経ち、
当時の1年生が3年生になった。
この言葉を実行できるのは、
彼らしかいない、そう思っていた。

2020年3月

突然休校が言い渡されたあの日、
彼らは、
私にバレない様にと、
ラケットとシューズを持ち帰っていた。

その様子を見て、
みんなを集めて、
私は、
「なぜ、この様な状況になるか考えられるよね。」
と言った。

受け入れられないよなと思いつつ、
彼らは、
そのひとことに
きちんと
応えてくれた。

たった一言で、
済ませてしまっている…
本当に申し訳なかった。

でも、
私にはどうすることもできなかった。

2020年7月

私は、彼らのチャンスを奪った。

こんな状況だけど、
3年生に引退試合やらせてあげましょう!って、
他校の先生から誘いを受けていた。
もちろん、彼らは大喜びしてくれた。

最後の大会が近づいてきて、
いよいよ試合だ!!
となっていたが、
感染者が急激に増加してきた。

そして、大会に申し込んでいたのに、
棄権した。
大会は、開催されている。
けど、棄権した。

その事を伝えようとキャプテンを呼んだとき、

『良くない報告ですか?』

と言われた。

無言で膝から崩れ落ちる子、
下を向いて唇を噛み締めている子、
涙を堪えるために天井を見つめている子…

彼らは、悔しかったし、悲しかったと思う。
ただ、声を荒げる事なく、
『仕方ないですね。』
と、受け入れた様に振る舞ってくれた。

彼らが本当に引退する。

彼らにかける言葉があるのだろうか。
最後の最後にチャンスを奪った私が、
彼らに何を言えばいいのだろうか。

2020年8月   引退の日

本当に彼らが引退する。

その日は、校内試合を行った。
ほとんどの生徒が集まり、
最後のバドミントンを楽しんだ。

そして、最後に、
彼らのコメントを聞いた。
正直、私は彼らに何ができたのだろうか。そう思いながら、
彼らの正直な気持ちを、
一人ひとり、それぞれの言葉を聞くことができた。
部活動第一優先だった子、
部活動は大好きだけど勉強に力を入れた子、
途中で嫌になってしまった子…
彼らなりの表現で、一人ひとり聞くことができた。
本当に幸せな時間だった。

そして…私の番が来た。

声を出した瞬間に、涙が止まらなかった。私が話すまでの、彼ら一人ひとりのコメントが、彼らの成長そのものなのだ。それを痛感すると、何を話すべきなのか、もうわからない。

教員とか関係なく、
彼らと過ごした人として、
素直な気持ちを伝えよう。そう思えた。

最後の戦いを見るのが本当に楽しみでした。
最後の試合が無くなる悲しさは、
私には想像しても、
仕切れないと思う。
恨まれても仕方ないと思う。
許して欲しいとは思わないけど、
私自身、
大会を棄権と判断は間違っていなかったと思ってる。
みんなの試合を見るのが大好きだった。
みんななら、先輩たちを超えてくれるって信じていた。
チャンスを奪って本当にごめん。

今回の事で沢山のことを学んだと思う。
何かしらに活かせるトキがくるはずだ。
みんなならできるはずだ。
2年間本当に楽しい時間だった。一緒に過ごすことができて、本当に幸せだった。
ありがとう。

もはや何を伝えたのかよく覚えていない。
ただ分かった事は、

学びを止めるな

と言うが、
果たして、学力だけなのだろうか。

子どもたちはどこで、どう大きく成長するかはわからない。

部活動や行事だってその一つではないだろうか。

毎年、6月、7月は複雑な時期。
必ずくる、けじめの日のひとつ。

何事も正解、不正解はなく、
自分の選択を正解にしていかないといけないのかなとも思う。
だから、今回の選択は、私にとっては良い判断だったと思う。
少なくとも、私は、私の判断が正しいと胸を張って言える様にしておこう。

自分に言い聞かせているとき、
3年生の男子キャプテンが、

『僕は、7月に部活に参加した時間を後悔していません。』

と、言い切ってくれた。

彼らは、本当に凄い。そしてかっこいい。

その成長する姿を、この特等席で毎年見れる私はなんて幸せなんだろうと思う。

試合ごとには、必ず
勝つ人と負ける人がいる。

でも、あくまで試合の勝敗がついたと言うだけで、一人ひとりに大きなドラマがある。

大チャンスは、自分で掴み取っていくんだなって感じさせてくれる。

学びを止めるなって…私達教員が一番感じなくてはいけないのかもしれない。
彼らはいつだって学んでいるし、成長している。

私も一歩踏み出そうと思う。

次会うときは、お酒片手にこの事を笑って話せたらいいな。

私も、今日から一歩踏み出そうと思う。

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