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【Creator’s vol.2】思いを形に。体験設計からデザインに昇華する|株式会社KAMITOPEN

国内外の建築設計やインテリアデザインを手がける株式会社KAMITOPEN。前例のないビジネスにおけるデザイン設計をしたり、マテリアルの新たな使い方を提案したりと、臆することなくチャレンジを続ける同社では、その特性ゆえに「想定外のアクシデント」が発生することもあるのだそう。

 本稿では、アクシデントが発生した事例紹介を交えながら、吉田さんのデザインへの思いをお伺いしました。

KAMITOPEN 代表 吉田 昌弘

デザインの基礎を学び、憧れの人と働けた修業時代

──本日はよろしくお願いいたします。最初にご経歴をお教えいただけますか。

吉田:株式会社KAMITOPENの代表をしている吉田 昌弘と申します。

京都工芸繊維大学工芸学部を卒業したあと、美容室やクリニックなどの美と健康に特化した空間デザインを手がける会社に入社しました。そこで7年ほど勉強させていただいたあと、2007年に独立して起業したといった流れですね。

──現在はどのようなジャンルをメインにデザインされているのですか?

吉田:飲食店や学校など、あらゆる領域のお仕事をいただいています。ジャンルの幅が広いというのはKAMITOPENの特徴であり、弊社のメンバーに入社の決め手となった理由を聞くと「さまざまなジャンルのデザインができるから」と話してくれることも多いです。

──前職で「美と健康を専門とするデザインの会社」を選ばれた理由を教えてください。

吉田:憧れのデザイナーさんが、その会社に勤めていらっしゃったからです。店舗や空間のデザイン事例を紹介する専門誌でその方のデザインを拝見して、「この人と一緒に仕事をしたい」と強く思いました。

 会社のデザイナーが100人ほどいて、北は北海道から南は九州まで部署がある中で、奇跡的に配属先が一緒になった時は非常に嬉しかったですね。

──憧れの人と一緒に仕事をしてみて、いかがでしたか?

吉田:多くのことを教わりました。印象的なのは「デザインはかけた時間に比例する」という教えです。具体的にいうと、設計図を描くときに、建物や空間の角全ての図面を描くように言われていました。そうなると途方もない時間がかかりますし、必然的に寝る時間もなくなります。前職で働いていた7年間は、ほとんどの時間を仕事に費やしていましたね。働き方改革が叫ばれるようになった昨今では「よくない働き方」だと捉えられる可能性もありますが、そうした緻密な作業を通して、デザインの基礎を養うことができたと考えています。

 また、前職では建築に関する勉強もできましたし、何より憧れのデザイナーさんを含む多くの先輩方と一緒に働くことができたのがよかったですね。デザイナーが10人いれば、10通りのデザイン、10通りの仕事の進め方を見ることができますから。加えて、皆さん優しい方ばかりでしたし、恵まれた環境でした。

──恵まれた環境を手放して、独立された理由はなんだったのでしょう。

吉田:数字に大きな意味はありませんが、もともと​​30歳で独立しようと決めていたからです。会社員時代は「学べるものは短期間で学ぼう」という心意気で仕事に取り組んでいましたし、“やり切った感覚”と言いますか。走り抜けた7年間でしたね。

掛け算のデザインで、クライアントの思いを形にする

──前職では美容室やクリニックの空間デザインを専門としていて、現在はさまざまなジャンルを手がけていらっしゃいますよね。前職とは異なる領域をターゲットにされた理由はなんだったのでしょう?

吉田:特に理由はありません。起業した当初は1人でやっていて、会社の方向性について特に考えてはいませんでした。起業したばかりの頃は、前職でお付き合いがあった方からお仕事をいただくこともあり、美容室やクリニックの案件もやっていましたよ。異なる領域をターゲットにしたのではなく、気がついた時には軸足が変わっていたのです。

──仕事の流れに身を任せていたら、そうなっていたという。

吉田:ええ。きっかけになったものがあったとすると、私自身が外側の建築よりも内側であるインテリアへの関心が強かったことでしょうか。

 というのも、起業してしばらくしてから、大学の先輩が代表をしている会社からご依頼をいただくようになったのです。もともとは私の同級生に仕事を依頼しようとしていたそうなのですが、その方は建築デザインに注力していてインテリアへの関心はなかったようで、私に白羽の矢がたったと。その案件をきっかけに、空間デザインに関するさまざまな仕事をいただくようになりました。チャレンジングな案件が多く、クライアントと二人三脚で進めることが多いですね。

──チャレンジングな案件というと?

吉田:例えば、使用したことのないマテリアルを使うとか。会社員時代には、メラミン化粧板の裏側にあるバッカー材を美容室の受付カウンターの天板として使用したことがあります。メーカーの方に相談した際には「前例がないし、耐久性がどの程度あるかわからない」と言われたのですが、クライアントにもご納得いただいて実現することができました。

 そういったチャレンジを多くしているので、メーカーの方から商品化する前のマテリアルについて「これは何かに使えますか?」とご相談いただくことも少なくありません。

──それはすごいですね。そういったアイディアは、クライアントとの話し合いの中で思いつくものなのですか?

吉田:ええ。ただ、アイディアが浮かんでくるのではなく「クライアントの思いを引き出してそれを形にしている」が正しい表現だと思います。

 空間デザインは掛け算でできるものであり、クライアントの思いがゼロだと、何をしてもゼロにしかなりません。どれだけかっこいいものを作っても、魂がこもっていない“無の空間”ができあがってしまう。とはいえ、クライアントの思いの強さは、言葉の強さとは比例していません。不器用であったり表現が苦手だったりする方であっても、心の中には強い思いを持っています。そういったクライアントの思いを形にするのが、私たちの仕事です。

──クライアントの思いを大切にしていらっしゃるからこそ、前例のないマテリアルを使用するケースも出てくるのですね。人が変われば、必要な素材も変わってくるでしょうから。

吉田:おっしゃる通りです。「KAMITOPENは作風が統一されていない」と言われたことがあるのですが、クライアントが違うのだからそれは当たり前だろうと。デザインは、自分の思いではなくクライアントの思いを投影するものですから。

──「クライアントの思いを形にする」ということを徹底して意識されているのですね。そのほかに、クライアントとお話しする際に意識されていることはありますか?

吉田:言葉は平等であるけれど、一人ひとりの解釈は異なるものだと理解することでしょうか。例えばクライアントから「クールな空間にしたい」という希望があったとしても、クールの解釈はそれぞれに異なります。シンプルな空間をクールだと考えているのかもしれないし、もしくは暗いトーンでまとめることをクールだと捉えているのかもしれない。

 そのため、私はミーティングやそれ以外のちょっとした会話でも、好きな映画の話や趣味の話など雑談を多くするようにしています。特におすすめなのは「好きな映画の話」。そういった嗜好は、その人が求めている空間にも自然と反映されています。

 また、私たちは一つの依頼に対して全員で案を考えるようにしていて、提案段階でコンセプトが異なるデザインを複数パターン作っています。一定の傾向でまとまっている案を出すよりも、毛色の違うものを提出することで、クライアントからも多くの意見を得られますし、より洗練されたデザインにできるのです。

ビジネス戦略から携わり、体験設計からデザインへ

──これまでに担当されてきた空間デザインの中で、印象に残っている事例はありますか?

吉田:最近特に面白かったのは、pignic cafe 代々木公園店です。前例のないビジネスだったため、正解が何かもわからない中で、クライアントと何度も話し合いながら設計しました。

──具体的にはどのような案件だったのでしょう?

吉田:クライアントは、ミニブタよりもさらに小さなサイズのマイクロブタのブリーダーをしている方で、「マイクロブタを販売したい」というご相談をいただいていました。当初はペットショップのような形式にすることも考えたのですが、日本ではマイクロブタの存在自体があまり知られていませんし、知名度を高められるような空間が必要でした。マイクロブタの特徴である「人懐っこい性格」やその魅力を伝えるために考えたのが、猫カフェのようにお客さんとマイクロブタが触れ合える場所をつくることです。

──ビジネス戦略を立てるところから関わっていらっしゃったのですね。

吉田:ええ。生き物を扱うということで、マイクロブタがストレスを感じないように慎重にデザインを考えました。また、マテリアル選びも大変でしたね。マイクロブタが床を舐めるので、保育園などでも使用されているような亜麻仁油を主成分とするマーモリウムを使用したのですが、床材が食べられてしまったのです(笑)。

──想定外のアクシデントが起こったと。食べてしまったあと、床材はどうされたのですか?

吉田:床材の継ぎ目から食べ始めているようだったので、その部分をコーキングしました。食べると体に害があるものは匂いでわかるのか、その後からは食べなくなったのも新たな発見でした。pignic cafeでは目新しいマテリアルを使用したわけではありませんが、先述した「チャレンジングな案件」の一つだと言えます。チャレンジを続ける中では、こういった想定外のことが発生するのは避けられません。それが大変でもあり、面白くもありますね。

──一度作ってしまうと修正するのが難しい空間デザインで、そこまで挑戦できるのは貴重なことなのではないかと思いました。

吉田:KAMITOPENのクライアントには寛容な方が多く、だからこそ私たちは挑戦できるのです。ある程度の失敗も許容してくださっているといいますか。ブラッシュアップし続けることが前提で、長いお付き合いの方が多いのも私たちの特徴です。

──クライアントといい関係を築かれているのですね。そのほか、印象に残っているものはありますか?

吉田:サウナブームの影響で私たちもサウナ施設の案件をいただくことがあり、中でも「Re:」 PRIVATE SAUNAは印象に残っています。

 一人で楽しめるソロサウナで、クライアントは「静けさを体験してほしい」という思いを強く持っていらっしゃったため、コンセプトを「森閑」としました。「森閑」というのは、物音が一切なく静まり返っている様子を意味します。防音や遮音にするため、壁には木毛セメント板を使用しました。

音にこだわる内に、自然光を擬似体験できるようにしたいというアイディアが出てきて、時間と連動して向きや強さ、色温度が変わっていく照明を使用しているのもポイントですね。昼は明るいのに、少しずつ温かみのある色に変化していって、夜になると月明かりのような光になります。影も動いていくので、ビルの中にある施設だけれども、自然の中にいるかのように感じられるのです。

──お話をお伺いしていると、吉田さんは体験設計をした上で、デザインに落とし込んでいらっしゃるのだなと思いました。

吉田:そうですね。まずはクライアントの思いを引き出し、その後に引き出したものを体験として設計して、デザインで表現するといった流れです。見た目だけが良くても、中身がなければ意味がないですから。

海外の文化を取り入れ、一歩前に進んだデザインを目指す

──吉田さんは「Material Bank® Japan」をご利用いただいているそうですね。このサービスのいいところはなんだと思いますか?

吉田:便利なサービスですよね。何より、サンプルが最短で24時間以内に届くのは嬉しいです。

 また、これまでは、不要になったサンプルを定期的に2tトラックで回収してもらっていたのですが、お金がかかることですし、環境のことを考えるとゴミが増えるのも望ましくありません。Material Bank® Japanでは、サンプルが不要になったら返却できますし、エコの観点でもいいサービスだと思います。

──今後の希望として、欲しい機能はありますか?

吉田:Material Bank® Japanへの希望という話からは外れてしまうかもしれませんが、サンプルの在庫を押さえられるようにしてくれると嬉しいなと思います。コロナ禍の影響もあるのか、近年どのメーカーも在庫が少ないようで。メーカーの担当者にサンプルを問い合わせたら「在庫がある」と言われたのに、翌日に連絡したらなくなっていたなんてこともあります。これは我々の会社だけでなく、どの現場でも起きていることだと思いますし、なんとか改善して欲しいです。

──Material Bank® Japan上で、メーカーの営業担当者とすぐに連絡が取れるような機能も開発しています。実装できれば、そういった状況は少しずつ改善されるのではないかと思いますので、今しばらくお待ちください。

吉田:期待しています。

──ありがとうございます。最後に、今後の展開についてお話しいただけますか。

吉田:最近は海外の仕事も増えてきています。文化も好みも国によって異なるので、非常に勉強になりますし、さまざまな国の文化を吸収してデザイン力を鍛えていきたいですね。これからも積極的に挑戦を続けて、一歩でも前に進められるようにしたいと思っています。

──吉田さんの新たな挑戦を楽しみにしています。本日は貴重なお時間をいただき、ありがとうございました!

株式会社KAMITOPEN
クライアントの思いをかたちにする。そして伝える。
クライアントには、人々に伝えたい思いがある。それは、「ことば」にしないと伝わらない。「かたち」にしないと伝わらない。我々は「ことば」と「かたち」を作るデザイナーです。「思い」を「ことば」にして、「かたち」を生み出すことで、多くの人々に伝えることが出来る。それが、我々の目指す「デザイン」です。KAMITOPENホームページ
 
吉田 昌弘 /KAMITOPEN 代表

主な実績(KAMITOPENホームページより)
pignic cafe 代々木公園店
「Re:」 PRIVATE SAUNA

※ 本記事は、Material Bank® Japanのコーポレートページにも掲載しております。


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