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「恍惚の人」

有吉佐和子の同名のベストセラーを名匠・豊田四郎監督が森繁久彌にボケ老人を演じさせた認知症アドベンチャー。芸苑社が制作、東宝が公開しました。

森繁久彌は撮影当時60歳。認知症が進行する84歳の老人を演じ、役に入り込み過ぎた森繁が簡単な演技をする時も「お爺ちゃんいいですか? あそこまで歩くんですよ」と指示してもらわなければならないほどだったとか。

1973年の映画にも関わらず画面はモノクロで撮影されていますが、おそらくこれは作中で森繁が自分の糞尿を壁や障子に手でなすりつける場面があるからではないかと思われます。カラーだと汚くて見られたものではありません。

森繁を介護する息子の嫁を高峰秀子が演じています。幼児退行して風呂でも溺れて死にかけ、危なくて目を離すことができない森繁をフルタイム介護する演技はまさに格闘で、「奇跡の人」のサリバン先生並み。老人介護は家族にとっての戦争であって、嫁は最前線で戦う兵士。原作小説とこの映画がきっかけで老人介護が社会問題になりました。

原作小説は194万部の大ベストセラーで、版元の新潮社はビルを新築し「恍惚ビル」と呼ばれました。映画も話題になり大ヒット。高齢化社会の訪れを暗示する作品です。

痴呆が進行して自分が誰なのかも分からなくなった森繁が、雨の中、恍惚の表情で野の花を見つめる美しいシーンが印象的。

資料として購入し数回再生しています。パッケージを撮ったらまるで汚れているかのように写ってますが、これは桜の花びらがモノクロで薄く印刷されているんですね。汚れではありません。

「恍惚の人('73芸苑社)」
森繁久彌 / 高峰秀子 / 豊田四郎


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