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木下惠介「楢山節考」('58松竹)

木下惠介「楢山節考」(1958)です。オープニングは歌舞伎風に「東西東西、このところご覧に入れまするは」という口上が。そして定引幕を黒子が引いて映画が始まります。

幕が引かれると、全編オールセットで、背景の山もあえて書き割り風。場面転換では振り落とし(背景が描かれている書き割の幕を瞬時に床に落として次の場面の背景が現れる)が使われています。最初から最後まで歌舞伎を意識した、ユニークな映画です。

原作は深沢七郎が姥捨伝説をモチーフに書いた小説で、これがデビュー作になります。作品は中央公論新人賞に応募されて、三島由紀夫・伊藤整・武田泰淳・正宗白鳥らに激賞されました。

深沢はもとギタリストで、日劇ミュージックホールでギターを弾いていました。なので、原作小説の最後に深沢が作曲した「楢山節考のテーマ」が楽譜入りで書かれるなど、小説としては珍しい、ユニークな作品になっています。

木下惠介はこの破天荒な原作を映画化するにあたり、あえて歌舞伎風の様式で作品を統一することを考えたのだと思います。確かに一度観たら忘れない印象的な映画になっています。

奥深い山の村(原作者によると山梨県東八代郡大黒坂)で、年老いて生きている老人は、子供が親を背板に乗せて山奥まで連れて行って捨ててくるという、姥捨ての掟が生きる因習的な世界を描いた作品。

主演の田中絹代は歳をとっても丈夫な歯を持つ老婆を演じ、作中に「この歯が丈夫なのが悪いんじゃ」と石臼に歯をぶつけて前歯を折るシーンでは、本当に歯医者で前歯を全部抜いて演じたそうです。その甲斐あって演技は絶賛され、キネマ旬報社のベストテンで女優賞を獲得しました。木下惠介は同賞で監督賞を獲ったほか、ヴェネツィア映画祭では稲垣浩の「無法松の一生」と首位争いを演じて軍配は惜しくも「無法松」に上がりましたが、フランソワ・トリュフォーが絶賛したそうです。

「楢山節考」は1983年にも今村昌平が再映画化し、こちらはカンヌ映画祭でグランプリを獲得しています。木下の作品とは違って全編自然主義のリアリズムに徹した映画で、趣が全く異なりますが、主演の坂本スミ子は田中絹代に習って前歯を抜いて演じました。どちらも傑作ですが、私は木下惠介の様式美に徹した映画化の方が好きです。

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↑プライム・ビデオ「楢山節考」


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