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【大友克洋原作】石井聰亙「シャッフル」【傑作短篇】

石井聰亙が「狂い咲きサンダーロード」の翌年に制作した短篇「シャッフル」です。16ミリによるモノクロ映画ですが撮影が見事で、映画作りに自信を付けた頃の作品と言えます。33分という短い時間をフルに使って冒頭から最後まで刑事から逃げる犯人(主人公)の「走り」をひたすらに捉えた映像で構成されています。

映画は主人公が自分の髪を剃ってモヒカン刈りにする場面から始まります。そして銃に弾を込める。カットバックで愛人との痴話喧嘩が挿入され、愛人を殺し、そして街の路地で刑事に発見され、後は刑事からひたすら走って逃げる映画です。

33分のうち25分は主人公が走る場面で、これで映画が持つのかな、と思って見ていると、いきなり画面が露出過多の白飛びになり、動きもスローモーションになって、主人公が白日夢を見る画面になる。白飛びなので初めは気がつかないのですが、ここはカラーで撮られてます。

白日夢には、主人公が過去に出会った学校の旧友や、好きだった女の子が現れて、それらが彼と一緒に走るのです。

やがて並走するメンバーが増えていき、主人公も中学校の体操服姿になって、白日夢の中で、体育祭のマラソン大会のような場面になります。

そして終盤、彼はあるビルの一室に飛び込みますが、これがヤクザの事務所なのです。銃で脅して組長(?)を呼びますが、組長はちょうど警察で参考人招致を受けていて不在。そこに追ってきた刑事がやってきて、互いに銃を構えて睨み合いになる。しかし主人公の銃にはもう弾が入ってませんでした。

逮捕された主人公は警察署に連行されますが、そこで探していたヤクザの組長とバッタリ出くわす。怒りの発作に襲われた主人公は、手錠で繋がれた刑事の銃を奪って組長を殺そうとする。しかしその銃の弾も切れていました。

カットバックや白日夢による回想で、主人公がどんな生い立ちで、愛人とどんな諍いがあり、組長とは何かがあって恨んでいるのだろうと匂わせるくらいで、はっきりしたストーリーは分かりません。それは監督の狙いだと思います。この映画は、最初から最後まで何かから逃れるためにどこまでも走る、その「運動性」を描く目的の映画なのです。

刑事役で、後に映画監督となる森達也が熱演しています。愛人役に室井滋、組長役に荒戸源次郎、好きだったクラスの美少女にデビューしたての武田久美子が出ているという、何気に豪華な配役。

原作の大友克洋は当時「ニューウェーブの騎手」として話題になり始めた頃です。「AKIRA」以前の大友漫画の特徴は、ストーリーよりもある特定の場面を執拗に描写して作品を成り立たせることに特徴がありました。

手塚治虫以来のストーリー漫画は、何よりも「ストーリー」をキッチリと描くことが目的で、「絵」は、ストーリーを表現するための道具的な位置付けだったのですが、大友克洋をはじめとするニューウェーブ作家は、ストーリーよりも特定の場面、特定のシチュエーションを細密に描くことに目的を置いたのです。

石井聰亙の「シャッフル」も、まさにストーリーではなく主人公が追っ手から逃れるためにひたすら走る、その運動だけで構成した映画で、大友克洋の70年代の短篇に通じるものがあります。

ストーリーらしいストーリーもないのに、全編を「走る」アクションだけで構成し、それが白日夢とオーバーラップして主人公の人生、それを超えた「時代の焦燥感」までも描いた、傑作映画だと思います。

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