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高校生×モンティ・ホール問題

 モンティ・ホール問題と言えば確率論では有名な問題です。もともと,アメリカのゲームショー「Let's make a deal」の中のゲームをモチーフにした問題で,その司会者のモンティ・ホールの名をとって「モンティ・ホール問題」という名がついています。問題の意味は中学生でも分かりますが,その解答の意味は大人にとっても難しい。そんな難問に対して,高校生が立ち向かうとどうなるのかというお話をしましょう。
 
 まずは,問題についてテレビショー風に説明します。高校生の健が,うっかりアメリカのゲームショーに出演してしまった感じでご覧ください。ルールを知っている人は読み飛ばしてくださいね。
 
Monty「Ken, welcome to this show. There are three doors here. You can choose one door from these doors. Then … 」
Ken「…… Japanese please.」
モ「オー,ソーリー,健。ようこそいらっしゃいました。さっそくですが,ゲームの内容を説明しまショー。」

モ「ここに3つのドアがあります。3つのうちの1つだけ,ドアの向こうに高級車キャデラックがあります。そのドアを見事当てたらキャデラックはあなたのものでーす。どーですか? 簡単なゲームですね。」
健「確かに。選ぶだけなら簡単です。」
モ「では,さっそく選んでくださーい。どのドアにしますか?」
健「じゃあ,Aのドアでお願いします。」
モ「オーケー。ではここで,正解のドアがどれかを知っている私が,あなたにヒントを差し上げます。残った2つのドアのうち,少なくとも1つははずれですので,はずれのドアをあなたに1つお見せしましょう。では,Bのドアを開けまーす。」

ヤギの絵の出典:フリーイラスト素材集 ジャパクリップ

健「何かがいますね。」
モ「Oh,ごめんなさい。言い忘れてましたが,はずれのドアの向こうにはヤギがいます。」
健「ヤギ?」
モ「もし,はずれのドアを選んだときは,ヤギを差し上げます。あなたの家の庭の草を食べてくれまーす。」
健「うち,マンションなんで……」
モ「では,本題に戻りまショー。あなたはAのドアを選びましたね。正解を知っている私は残りのドアから1つ選んで,はずれのドアのBを開けてお見せしました。そこであなたに提案があります。先ほどあなたはAのドアを選びましたが,1枚残っているCのドアに変えてみませんか? ひょっとしたら,Cのドアの向こうがキャデラックかもしれませんよ。どーですか? 変えるチャンスはこの一度きりです。」
健「うーーーーーーん」


 ここで問題です。健になったつもりでお答えください。
ア Cのドアに変えるべきだ。
イ Aのドアのままでいくべきだ。


 この,「変えるべきか,変えないべきか」がモンティ・ホール問題の最大のポイントです。あなたはどうしますか。そしてそれはなぜですか。
 
 この問題を高校生に問いかけると,9割の子どもは「Aのドアのまま」と答えます。なぜかを聞くと
・どうせ当たる確率は$${\dfrac{1}{3}}$$だから、変えても変えなくても一緒 
・変えるとモンティの罠にはまるから
とか答えてくれます。モンティは,単にはずれのドアを見せてるだけで,罠にはめるつもりなんてないんですけどね(実は,むしろ親切ですけど)。
 
 1割程度いる「Cのドアに変えるべきだ」を主張する子どもの見解を聞くと,「はずれのドアが1枚見えているので,Cのドアに変えると当たる確率は$${\dfrac{1}{2}}$$に上がる」と言います。もっともと感じる意見で,この発言を境にクラスの雰囲気が少し変わり,「Aのドアのまま」と言ってた人たちが動揺し始めます。しばらく話し合いをしてもらうと,そのうち「Cのドアに変えても変えなくても当たる確率は$${\dfrac{1}{2}}$$だろう」という意見が出てきて,「変えても変えなくても当たる確率が同じならば,最初に選んだAのままでいく」という意見が多数派になって落ち着きます。

 さて,ここまでの議論をうけて,あなたならどうしますか? Aのドアのままでいきますか? それとも,Cのドアに変えますか? 理由もあわせて考えてみましょう。


~ 考え中 ~


 それでは正解発表です。正解は「Cのドアに変えたほうが当たりやすく,変えることで当たる確率は$${\dfrac{2}{3}}$$になる」です。直感と事実が一致しない解答に驚く人も多いことでしょう。それは高校生も同じです。この正解をいきなり教室で述べても,ほとんどの子どもは信じてくれませんし,理由を丁寧に説明しても納得してくれません。

 子どもたちに納得してもらうには,正解を言う前に実験が必要です。子どもたちに2人ペアになってもらい,A,B,Cと書かれた紙コップを各ペアに配り,当たりのキャデラックの代わりに消しゴムを使ってもらい,みんなで実験タイムです。互いにゲームをやりながら,モンティの誘いに乗ってドアを変えたときに正解する回数と,ドアを変えないときの正解する回数をデータに取っていき,結果を大数の法則に委ねます。一人10回ゲームを行うと,クラス全体で400回程度のゲーム結果のデータが取れます。その結果を黒板で共有すると,「どうせ$${\dfrac{1}{2}}$$の確率だろう」と思っていた子どもたちの予想と反する結果が現れて,子どもたちは「なんで,なんで?!」とざわめきます。
 
 正解を改めて述べると「Cのドアに変えたほうが当たりやすく,変えることで当たる確率は$${\dfrac{2}{3}}$$になる」です。ということで,以下解説を行うことにしましょう。

 わかりやすくするために,常にAにキャデラックが入っているものとし,健は常にモンティの誘いに乗ってドアを変えるものとします。この条件のもとで,健が最初にどのドアを選ぶかによってその後の展開を考えます。
 
①最初にAを選んだとき(その時点では当たりですが)
 モンティがはずれのBとCのどちらかを開けてくれます。いずれにしても健はドアを変えるので,残念ながらはずれになります。

②最初にBを選んだとき(その時点でははずれですが)
 モンティがはずれのCを開けてくれます。健がドアをAに変えるので,見事キャデラック獲得です。

③最初にCを選んだとき(その時点でははずれですが)
 モンティがはずれのBを開けてくれます。健がドアをAに変えるので,見事キャデラック獲得です。

 結局,ドアをいつも変えると心に決めた人は,①のときはずれ,②③のときあたりになるので,ドアを変えると$${\dfrac{2}{3}}$$の確率であたりになることがわかります。逆に,ドアを変えないと心に決めた人は,①のときだけがあたりになるので,$${\dfrac{1}{3}}$$の確率であたりになります。
 
 ここまでやると,子どもたちの大部分は納得してくれます。ただ,残念ながら全員が納得してくれるわけではありません。それほど難問なのでしょう。

 確率を計算した結果,自身の直感と違う結果になることは少なからずあります。その辺が学問の面白いところでして,「そんなバカな」と一瞬思ったとしても,もう一度計算しなおして自身の感覚を修正していく過程が楽しいところですね。




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