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アメリカで働きたい時のビザの話

 最近は、日本から有名な海外大に進学される学生さんが積極的にご自身の体験をSNSなどで情報発信されています。海外大に合格し、その上進学できるなんて本当にすごいといつも感心しますが、それ以上に難易度が高い(自分の努力や才能だけではどうしようもない)のがアメリカで働くために必要になるビザの取得および永住権の獲得であると徐々に気がつき始めました。

 外国人が米国で就労する場合、アメリカ人の雇用機会を奪う存在になる可能性があるため厳しい規定が設けられています。世界情勢によってもビザ取得の難易度が変わり、2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ事件を境に、アメリカのビザや永住権の取得が難しくなり、トランプ政権以降、更に困難になっているとの話も聞きます。今後もロシアとウクライナの状況によっては、より困難になるかもしれませんね。
 そして、例え世界トップクラスの大学に進学したとしても、ビザや永住権を取得した状態で就活をしないと、アメリカでの就職はなかなか困難だという話も耳にします。今回はそんなアメリカのビザについて考え、アメリカ本土にある企業への就職の可能性について探りたいと思います。

米国で働きたいと思った時に関係のある主なビザの種類

 アメリカのビザって調べてみると色々種類があるんですね。ここではまず、日本国籍を持つ人が長期間(1年以上)アメリカで働く場合を想定して関係のあるビザの種類を述べていきます。

・F-1ビザ(学生ビザ)

 大学院までの学生および米国内の認定大学、私立高等学校、認可された英語プログラム(語学学校)などで学ぶ方。ビザの有効期限は最大5年 (滞在期間は学業終了までの期間)。学生ビザ(F)での就労は不可ですが、学位を得られる学生に対しては卒業前後にトレーニングを前提とするプラクティカル・トレーニング、通称OPT(=Optional Practical Training)で1年間(STEM専攻は3年間)の就労が認められています。

・H-1Bビザ(特殊技能職ビザ)

 米国企業で専門的な職業に携わる方および職務が求める特定分野での学士号またはそれ以上の学位をお持ちの方 。
 上記に該当しない場合は完全に職種と合致し、その分野で6年以上の職歴が必要(学歴経験評価査定が必要になります)。ビザ有効期限は3年で、延長が可能ですが最長は6年です。年に一度、4月にしか応募できず、抽選(発給枠は65,000件、米国の大学院を卒業した方は別枠で20,000件)があります。ちなみに2022年度は倍率5倍以上だったようです。米国雇用主が対象者を雇用したい時に申請するビザですので、個人で申請することはできません。

・L-1ビザ(駐在員ビザ)

 米国内の親会社、支社、系列会社、子会社等関連企業へ一時的に転勤する多国籍企業の従業員で、管理職または役員である、もしくは専門知識を持つ者。ビザを申請する直前の3年以内に最低1年以上、米国外で経営管理者・管理職または特殊技能職として勤務した経験が必要。ビザの有効期限は1年ないし3年で、延長する場合は5〜7年(役職によって異なる)まで。管理職の場合はグリーンカードへの取り替えが容易。

・Oビザ(卓越能力者ビザ)

 科学、芸術、教育、ビジネス、スポーツの分野で卓越した能力を持っている方。論文を数多く出している研究者などで、このビザの要件を満たしていれば、日本から直接雇用される可能性はかなり上がるそうです。

・E-2ビザ(投資家ビザ)

 管理職または役員あるいはその会社に必要不可欠な知識を持つ方。業種により異なりますが、事業相当額の投資を行った株の過半数が日本国籍者に所有されている米国法人が必要です。有効期限は最長5年間で、事業が存続する限り再申請が可能です。

(参考HP:イデア・パートナーズ法律事務所 ビザの種類と解説
この他にも、米国市民の婚約者や配偶者としてのKビザや交流訪問としてのJビザ等ありますが、Kビザは運や相手次第になり、Jビザは期間が短く他のビザへの切り替えも難しいので今回は省かせていただきました。

現実的にどうすればビザが取得できるのか

 最近、アメリカにあるGAFAMやシリコンバレーにある企業に就職し活躍されている方の本やブログを拝見させていただいておりますが、ほとんどの方が、一旦日本企業に就職し、駐在員としてアメリカに渡る方法が一番簡単あるいは一番現実的だとおっしゃっています。駐在員の場合は企業がビザ(H-1B、L-1、E-2)を用意してくれるようです。こちらも運といえば運ですが、一番可能性が高いのはこの方法であるようです。あるいは、米国で起業する方法が考えられますが、その場合はUS$20万ドル以上の投資がないと厳しいようです。資金面が潤沢な方は、この方法をとるのが一番確実かもしれませんね。
 あとは、米国の医師免許を持っているとか米国公認会計士+MBAなど高度専門職としての資格をお持ちならばH1-Bビザは比較的とりやすいのかなと思いますが、実際どうなのかはわかりません。

ビザも社会人経験も持たない学生がアメリカ本土の企業に直接就職するのは難しそう

 先に述べたように、H1-Bビザは抽選があり、抽選に漏れる可能性があるので、米国大に進学しインターンを受けたとしても企業側から「ビザを用意するのでうちに来てほしい」と言われるのは、余程優秀でない限りあまりないようです。「外国人がアメリカの企業を受けると、最初の電話インタビューでほぼ確実にビザのステータスについて聞かれます。ここでビザが無いと分かれば、高い確率で不採用となってしまうのです。」と述べておられる方もいらっしゃいましたので、企業側がH1-Bビザを発行する手伝いをしてくれるだろうという期待は持たない方がいいようです。
 同様の理由から、F-1ビザのOPTを利用してもアメリカ本土にある企業への就職は困難であると言えます。事実、日本から既に沢山の優秀な方々がハーバード大学やマサチューセッツ工科大学、スタンフォード大学等々卒業されていますが、日本に一旦帰国されておられる方も多く感じましたので、アメリカのビザの問題というのが大きく立ちはだかっているのかなと拝察しています。
 逆にビザやグリーンカードなど永住権を既に持っており、アメリカの大学院を出ていればGAFAM等の超有名企業に就職するのはそこまで困難ではないのかなと思います。なので、社会人等を経ていない学生がアメリカでの就職をスムーズにしようと思ったら、アメリカ留学と同時にアメリカで起業し、US$20万ドル以上の価値のある企業に成長させE-2ビザを取得する、あるいはUS$80万ドル以上の投資を行なってEB-5特別投資プログラムに参加すると、その後アメリカでの就労に有利なのではないかなと思います。あまり現実的な方法とは言えませんが、海外大に進学できるポテンシャルを持つ方々なら難しいことではないのかな、とも思います。

アメリカ永住権の取得

 ここでは、移民の米国就職における最強カードとも言えるグリーンカードあるいは永住権の取得について3つ紹介したいと思います。

1.抽選によるグリーンカードの取得

 毎年、グリーンカードの抽選が行われています。当選確率は1~2%だと言われていますが、当たれば米国で生活する時に米国市民と同様の恩恵をうけられますので、もし米国の留学及び就職を希望しているなら、毎年応募されるのが良いと思います。

2.米国市民との結婚によるグリーンカードの取得

 留学先で互いに好意を持った相手が米国市民であれば、ありえなくはないですよね。

3.米国で出生したことによるアメリカ国籍の取得

 アメリカが定める国籍法は出生地主義です。つまり、アメリカで生まれた子どもは両親の国籍に関係なく、全員にアメリカ国籍が与えられます。幼い時の数年だけアメリカにいて、日本に帰国された場合は、自分がアメリカ国籍を持っていると気がつかないまま大人になる人も中にはいらっしゃるのではないかと思います。
 そういえば、アメリカで出産をされる方もいらっしゃいますね。日本は二重国籍は認めていませんが、アメリカでは認められています。日本の国籍を保持したい場合は、その二重国籍になった時が20歳未満であれば22歳までに,20歳以降であればその時から2年以内に,日本の国籍を選択しなければなりません(国籍法14条1項)。選択しない場合は,日本の国籍を失うことになるようです。

まとめ

 以上、米国ビザと永住権について調べましたが、すごく努力すれば確実に取得できるというものではなく、運も必要だと思いました。米国大学に進学してもアメリカ本土の大企業に直接就職できる保証はないといっても過言ではないでしょう。一番ビザ取得の可能性が高いのは一旦日本企業に就職し、駐在員としてアメリカに渡る方法であるようですまた、現在H1-Bビザ取得者の約7割がエンジニアであることから、そうした分野を専攻した方なら、なお有利なようです。
 一番ありがたいのは、生まれながらにして米国籍を持つことですが、最近米政府では、外国人による出産を目的とする渡航に難色を示しており、規制を強化しているようです

 今回紹介させていただいたビザの制度は世界情勢によって取得可能な条件が変化しており、どちらかというと年々厳しくなってきているようです。

参考文献 竜盛博:エンジニアとして世界の最前線で働く選択肢,技術評論社
     酒井潤:シリコンバレー発複業の思考法,PHP研究所




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