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マタタビの小説(9)

今回はどんな動きがあるでしょうかね。


オフ会のやりとり


 麗良はいつものように仕事を終え、着替えを済ますと勤務先の病院を後にした。いつものように買い物を済ませると、馴染みの駅に向かった。周りにはスマホを片手に同様に駅に向かっていたが、麗良は決して歩きスマホをしない。厳しい母に育てられたためもあるのだろうし、何かしらの危険性を意識していたのかもしれない。そのような人々を押しのけて、麗良はホームに向かった。
 今日の電車はいつもと比べて乗客が少なかった。おかげで悠々と座席に腰掛けることができた。周りは皆マスクを着用する異様な光景はいつもと同じであった。花粉症ならまだしも、いつまでも感染対策と称してマスクを着用する国民性に、麗良はうんざりしていた。決して長くない乗車を終えると、足早に車両を降りて自宅へと向かうのであった。
 家に着くと、荷物をダイニングテーブルに置いてソファに腰掛けた。相変わらずの多忙な労働を終えて、疲れはピークを迎えていた。
(誰か肩揉んでくれないかなあ。マッサージでも行かなきゃいけないか…この週末は。)
 部屋着に着替えてから再度ソファに深々と身を委ねて眠りそうになった時、スマホの通知音が鳴った。それは、真中からのダイレクトメッセージであった。

【こんにちは、れらりんさん。お仕事お疲れ様です。ストレスを溜め込んでおられないでしょうか? さて、先日お誘いしたオフ会の日程が正式に決定しました。今週末の日曜日の午後1時から、私の馴染みの喫茶店で開催したいと思います。今の感染症に疑問を抱いている医療関係者の集いです。女性の参加人数が多くなっていますので、気軽に楽しんでいただけると思いますよ。当然、会場はオーナーの意向でノーマスクで結構です。
 会場の住所は………………。最寄り駅にとても近いので、すぐに分かると思います。良ければ前日くらいまでに参加について連絡いただければと思いますが、席は多く準備していますので飛び込みも大歓迎です。お時間が合えば是非参加してください。】

 オフ会の詳細通知であった。Y助が男性であることにやや不安を感じていた麗良であるが、実際には参加者の多くが女性ということであれば、少し気軽な気持ちで参加できるかな、と少し興味を持った。ただ、ひとつだけ気がかりな点があったため、真中に返信した。

[Y助さん、ご連絡ありがとうございました。楽しそうな会になりそうですね。今のところ、特に予定はありませんので当日のお天気が良ければ足を運んでみようと思ったりもしています。
 ひとつだけ気になることがあるのですが……]

 返信はすぐに届いた。

【興味を持っていただいて、とても嬉しいです。その点は気にしないでください。大丈夫ですよ。お待ちしていますね。】

 麗良はマッサージに行くことは取りやめた。



志保の気遣い


 拓望は志保にメッセージを送っていた。

「こんにちは、志保さん。いや、しほさかさん。(笑)
 これでいいのかな。よく分かんないや。慣れないと難しいね。
 対面はしていますが、ここでは初めまして、ですね。なんか他人行儀な形ですが、これからもよろしくお願いします。」

 短く、伝えたいことだけ送るのが拓望の特徴である。いや、このようなやり取り自体が初めてだったため、照れくさかったのであろう。
 しばらくして、すぐに返信が届いた。

『もう、先生。突然でびっくりしましたよ。まさかこのスレッドに書き込むなんて。でもうれしかった、と言いたいところですが、この書き込みすぐに削除してください。ここ、皆が見ているところなのに、名前は良くないです。身バレしちゃいますから(笑)。お願いしますね。』
 
 拓望はやらかしてしまった。名前だけとはいえ、志保の実名を投稿してしまったのであった。拓望は慌てて自分の投稿を削除し、志保のメッセージに返信を続けた。

「今、削除しました。大変申し訳ない。今後気をつけるからね。」

『ありがとうございます。以後、気をつけてくださいね。』

 なぜか文面のやり取りに過ぎないことではあるが、拓望は大きな過ちを犯してしまったような気持ちになってしまった。スマホを机に置き、しばらくぼんやりしていた。その一瞬のスキをついたかのようにドアホンが大きな音で鳴り、拓望はハッとした。慌てて荷物を受け取りに出た。実家からの米と野菜の差し入れであった。拓望の両親は健在であり、家庭菜園を営んでいた。自給自足に近い形で年中いろいろな野菜を育てていた。今回は、拓望の好きなとうもろこしが添えられていた。小さな手紙も添えられていた。

{米と穫れたてのとうもろこしを送ります。美味しいうちに食べてください。きゅうりはまだ食べられませんか? いつでも送ります。}

 拓望はきゅうりが大の苦手であり、今でも食べられない。何が嫌いかと言われてもうまく説明できないが、独特の風味が苦手らしい。マヨネーズなどをつけて丸かぶりしているような人を見ると、鳥肌が立つこともあるくらいに敬遠していたのである。彼の子供らしい側面でもあった。

 荷物を取り出し、段ボールを丁寧に広げて片付けた。これでしばらく食べるものには事欠かない。
 再度スマホに目をやると、スレッドに返信が続いていた。

「あれ、なんか喧嘩してるのか、しほさか? つーか、誰だ?絡まれてんの?(笑)」

『いや、リアルの知人の人で、私が誘ったんです。ちょっとおイタしてたんで、お伝えしただけですよ💦』

「なんだ、痴話喧嘩か、なんてね。」

『もう、そんなんじゃないのに…… とても尊敬している人なの。』

「ならいいじゃん。わかったよ。👍」

【あれ、しほさかさん。お知り合いの方ですか。ドライブまみれ、さん?面白い名前ですね(笑)。】

 その発信者は麗良だった。志保のやり取りを見て、メッセージを送ってきたのだ。

『あ、れらりんさんだ。こんにちは。いつもありがとうございます。
 私の知り合いの方なんです。お誘いしたんですよ。昔お世話になったお医者さんなんですよ。』

【へえ、そうなんですね。どのような関係かは気になるところではありますが(笑)。しほさかさんの知り合いなら、きっと素敵な方なのでしょうね。ドライブまみれさん、よろしくです。☆彡】

『すごくいい人なんです。是非会ってもらいたいな。』

 拓望の知らないところで、志保が拓望のことを麗良に紹介していたのだ。
たった10分もたたないうちにここまでのやり取りが進んでいたのである。
拓望は挨拶の意味も含めて、慌てて返信した。

[どうも、ドライブまみれです。れらりんさん、どうも初めまして。まだSNSは初心者ですが、少しずつ慣れていければと思っています。これからどうぞよろしくお願いします。]

 すぐに麗良から返信が続いた。

【はい、よろしくです✨ しほさかさん一押しのドライブまみれさん。】


今回はここまでとします。


次回予告

・Y助と、れらりん

・麗良の災難

 お楽しみに。

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