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あの待合室

 二年前に考えていた事と、一年前に考えていた事が合わさって、今も同じだと思いつく。それは、ついてきた嘘の分だけ、気がつく事が少なくなっているからかもしれない。
 淡い期待に頼れるから、避けていた場所に行った。それなのに、感傷的になれなくて、執着が不自由だと結論づける。

 駅が淋しい場所だと思わなかった。

 何本も電車を見送って、交わした言葉のひとひらも覚えていない。
 あれは無かった事だ。
 誰もいなくなった後に待合室のベンチに腰掛けて、僕は座っていなかったような気がした。
 だからといって、対面に座り直すような真似を僕はしなかった。
 電車を見送る事もせず、今度は遅れてやってきたそれに乗る。ドアが閉じる瞬間に、手を振る人を思い描く事は愚行。ただ、
 ただ、流れていくように、遠くなる駅が窓に映って、あの頃と同じだと思った。それは、ついてきた嘘の分だけ気がつく事が少なくなっているからかもしれない。
 思わず携帯電話をポケットから僕は取り出すが、着信はおろか、何もメッセージは届いていない。それなのにアプリを開けて検索する。
 車内アナウンスは心に留まらず、灯りが線を描いて窓の外を流れていた。何も見えないような、明るい車内が孤独を強調して、たった二駅の帰り道は終わりを迎える。
 無かった事を胸に描いて、文字を刻みたがる衝動にかられた。
 誰の為かわからないのに、僕は笑ってみせる。
 もう、夜になっていた。

 
 

一日延ばしは時の盗人、明日は明日…… あっ、ありがとうございます!