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Torn チョベリバ5

前の話
 俺は時間を戻したいとか、このまま高校生からの人生を過ごしたいとか、何も望んでいなかった。思い返せば、いつだって行き当たりばったりだったかもしれない。仕事も結婚もそうだった。熱望して手に入れたものは何一つない。いつの間にか、俺は色々なモノを手に入れて、疑うことなくそれを受けとっていた。
「本はあるが、それが時間が戻った事と、何か関係しているのか?」
 どういう作業をしているのかわからないが、いかにも工事中という音が聞こえた。リョウジや、リョウジの親父は、あの中にいて仕事をしている。未来のリョウジは、自分で会社を経営して、手に入れたいモノを自分で手に入れる手段を知っていた。何かを望んで、それを手に入れる事が尊い事のように俺は思った。
 目の前のムラカミはどうなのだろうか? 信じられない事だが、こいつは自分で時間を戻したのだろうか? 細い目をしているムラカミの考えている事がよくわからない。
「もしかして、あの本を読んでいないの? それじゃあ仕方ないね」
「まわりくどい事はもういい。お前は何を望んでいるんだ?」
「僕は、君に嫉妬していた。復讐だね」
 俺は鳩尾が冷たくなるような薄気味悪さと、心当たりのない事で「復讐」という言葉を使うムラカミを前にして、俺は喉のあたりに、酸っぱく込み上げてくる何かを感じた。
「もうあまり質問しないでね。けっこう気まずいし」
 そう言うとムラカミは一人で帰っていった。残された俺は、結局何の情報も手に入れる事ができなかった。


つづく

一日延ばしは時の盗人、明日は明日…… あっ、ありがとうございます!