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創作デブとガリ以外は読むな!6

「そうだろうな。パンケーキぐらいはどこかで食べたことがあるだろう。けれども、知らない食べ物を見ても、俺達は大体の味の予想はできるんだ。それはいくつもの情報を知っているからできることだ」
確かに山西の言うように、私達は視覚から得た情報を、過去の経験と結び付けてそれが何なのかという事を予想する。食べ物を見て美味しそうだと思ったら、どういう食感で、何の味に近いのかという興味が湧いてくる。そしてそれは欲求へと変わっていく。

「テレビのグルメリポートとか観ていると、大体の味はわかりますね。俺の場合はすぐに食べたくなるっす」テレビ取材された飲食店は放映直後、繁盛する事が多いそうだ。実際にお店に足を運ぶ人は、欲求が高まって、視覚や解説だけでは満足できなくなっているのだ。

「それとマニュアル通りの対応しかできない人間とどういう関係があるのですか?」ガリが冷静に話を戻す。確かに山西の話は興味深いが、話の全体が見えない。

「現実世界とのつながりが薄くなると、人間が持っている知性や創造性は退化していく道を選ぶことになるんだ。画面という限定された情報から、知識として世界観を構築させると、その人間の脳が処理できる周波数が、ディスプレイから出ている音と色の周波数に限定されることになる。でもな、実際の世界というのは0と1で作られているデジタル世界ではないんだ。この世界は人間の五感で知覚できる範囲を遥かに超えた周波数で満たされた世界だ。そういうものに合わせようとすることで人間は進化する。情報に囲まれて育つと『痛みを避け、快楽を増す』事を優先する。できる限り効率的に成長したいと思う事は必要だが、それでは体の機能が退化するに決まっている。それに対して、リアルな肉体の世界では、『できない』を『できる』にしようとする」山西の口調は先生そのものだ。

「いや、よくわからないっす」デブは躊躇わずに言った。

 山西は諦めずに続けた。
「バーチャルとリアルの違いがわからない脳が出来上がるってことだ。さっきの店員は決められた質問に答えるロボットみたいだっただろ?多分、本人からしてみれば俺達客は、人間というよりもバーチャルな存在なんだ。リアルな人だと思っていない。それは今までの環境がそうさせているんだ。」それでもデブはポカーンとしている。

「俺は何となくわかりますよ。今の俺もそういう感じなんで」ガリがボソッと呟くように言った。

「確かに、今のガリは去年までのお前と違う感じがする。何でそう思う?」

「何となく、現実感というか、何をしてもそういう感じがしないんです」ガリの頬はこけている。体が小さくなっただけでなく、急に老けた感じもすると山西は思った。

一日延ばしは時の盗人、明日は明日…… あっ、ありがとうございます!