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Torn 同窓会ー4

 俺は基本的に大人数の飲み会は苦手なので、リョウジ達とも少し離れて、酒を飲みながら会場を観察した。色んなヤツがいたのだなと俺は思った。引っ込み思案で、声が小さかった女の子に「コウキ!」と声をかけられた。卒業してから何があったのだろうか。高校生の時にそれほど親しく話をした記憶もないので、俺は面食らった。確かにその女の子は見た目も変わっていて、40歳という年齢に抗う努力しているのがわかった。変わるというのは、自分に自信を「持てる」という事なのだろう。同窓会で踏み込んで根掘り葉掘り聞く訳じゃない。大抵は、結婚しているのか、子供はいるのか、仕事は何をやっているのか、それくらいの近況しか聞かないし、聞かれない。何をしているのか言いたくない奴はこんなところに来ない。
「あぁ。コウキ君」
 自信を持った女子が去った後で、ムラカミに話しかけられた。ムラカミは同窓会の実行委員らしい。こうやって、出席者に声をかけて回っているという。そういう事が好きな社交的な奴だったかどうかも、あまり詳しく覚えていなかったが、まぁそんな奴だったのだろう。
「コウキ君はこっちに住んでないみたいだね」
「そうだな。車で1時間ぐらいの所だから遠くってわけじゃない」
「みんな、変わっていないだろ?」
「さぁ。どうなんだろな」
「君はこういう会はあまり好きじゃないようだね」
「そうでもないさ。懐かしい」嘘ではないが、説明するのが面倒くさくなってビールを口に運んだ。
「こういう集まりもたまにはいいものだよ。昔は同じようなところにいたのに、差が出ているんだ」ムラカミの言いたいことが何なのか俺はわからなかった。
「ムラカミが幹事なのだろ?」
「そう。毎年やっている訳じゃないけれど、卒業してからこれで3回目だよ。20歳になった年、30歳になった年、それで今回。君とアキヨちゃんは一度も来なかったけれどね」
「今年は俺はやってきた」
「でも彼女は死んだ」
「何が言いたいんだ?」何でも知っているという、ムラカミの態度が俺は気に食わなかった。
「まぁそんなにかっかしないで」
「なぁ。もういいか。俺はリュウジ達の所にいくぞ」
「僕はアキヨちゃんの事が好きだったんだ」俺を引き留めようとしたのか、ムラカミは遠いところを見るような目で言った。なんとなくそうだろうなとは思っていたが、俺は呆れた。
「それがどうしたんだ?」
「そうだね。コウキ君には関係のない事だね。親同士の仲が良かっただけの幼馴染だった。彼女にとって僕はそれだけだったんだ」
「お前、結婚はしているのか?」ムラカミに同情したわけではない。どちらかというと、馬鹿にしたような言い方を俺はした。
「いいや。していない。多分これからもしないだろうね」
「もしかして、今でもアキヨの事が好きなのか?」今度は驚いたという風な言い方のつもりだった。
「おかしいよね。こんな歳になっても幼馴染の事が好きなんて」俺もアキヨの事を思い出しているのだった。俺も似たようなものかもしれない。
「今まで誰かと付き合った事はあるのか?」冗談のつもりで聞いてみた。ムラカミは年齢よりも若く見えるほうだ。「そんな訳はないだろう?」という感じで聞いてみた。
「それはあるよ。でもね、アキヨちゃんのニュースを見た時から、僕は彼女の事を考えているんだ。つい最近の事だし、コウキ君には悪いと思ったけど、君にしかわかってもらえない気がした」
「あいつは、俺を振った後、誰かと付き合っていたっけ?」
「高校生の間は君としか付き合っていなかったんじゃないかな。君がアメリカに行っている間も」
 俺は1年間、アメリカに留学していた。実際の所、行きたくて行った訳ではなかった。親に言われて行っただけだった。それで何かを得た訳ではなかった。本来なら、アキヨみたいに将来の夢とか目標があるヤツが行くべきだった。そういう俺の態度がアキヨは許せなかったのかもしれない。
「なぁ、ムラカミ。お前、本当は俺の事嫌いじゃないのか?」ずっと前にも俺はそんな事を思っていたような気がする。そういう事をいつの間にか俺は忘れていたのかもしれない。


つづく

一日延ばしは時の盗人、明日は明日…… あっ、ありがとうございます!