さて、みなさん!
観たことのない映画の話が好きだ。
ただし、土曜日の朝のラジオに限る。
関西に長い間住んでいる人なら、あの人の名前と顔を思い浮かべるのではないだろうか。
そう。浜村淳さんだ。
浜村さんの番組、「ありがとう浜村淳です」のコーナー、「映画サロン」では、公開前の作品を紹介する。
映画を紹介するといっても、あらすじだけではない。詳細な情景描写を独特の語り口調で伝えるのだ。
場合によっては、脳内でエンドロールの映像が再生されるほどだ。つまり、映画館でいい映画を観終わった後のように、「しばらく動きたくない」という心境になるのだ。
中学1年生の頃、父親が運転する車の中で、はじめて浜村さんの映画サロンを聞いた。
「リバーワイルド 激流」という映画だった。川下りを楽しむ家族のボートに、逃亡犯が乗り込む話だったと思う。家族を守ろうとする母親が印象的だった。
浜村さんの話を聞いている間、僕の頭の中には映像が流れていた。知らないアメリカの川の情景が浮かんできた。水浴びをする母親を見つめる逃亡犯。それに気がついた母親と目があって、不適な笑みを浮かべた彼の表情まで、僕の頭に映った。
僕は車が目的地に着かないでほしいと思っていた。最後まで聞きたいと願っていた。
それから1年後、テレビで「リバーワイルド」を観た。ケビン・ベーコンが逃亡犯役で、メリル・ストリープが彼に翻弄される家族の母親役。
1年前に頭に映った映像とほぼ同じだった事に衝撃を受けた。初めて観たのに、2回目のような気分になったのだ。
時は過ぎて、2020年6月20日。つまり昨日の事だ。僕は車を運転していた。
ラジオはAM1179。
昔からの変わらない声で、昨日も浜村さんは映画の話をしていた。
昨日、紹介していたのは「MOTHER マザー」という来月公開の長澤まさみが主演の映画。
浜村さんの話を聞いた感想から書くと、「もう映画みなくてもいいです」の一言だ。
映画のストーリー自体が胸糞の悪い話で、あまり好きじゃないジャンルの映画だ。そういう意味でも、僕はこの映画は観ないと思う。
ただ、「映画をみなくてもいい」理由はそういう事じゃない。
完全に脳内に映像が再生されて、観たつもりになってしまったのだ。泣けるところや、考えさせるところがあり、嫌いなジャンルとはいえ、いい映画だと思う。
以前、関東の人が、浜村淳さんの事を知らないと言った時には驚いた。もしかしたら、関西でしか知られていない方なのかもしれない。
ただ、浜村さんの映画サロンはradikoでも聞けるはずだ。忙しくて映画館に足を運べない場合は、浜村さんの話芸でそのフラストレーションを解消してほしい。
ただし、どうしても見たい映画は浜村さんの声を聞いてはいけない。
初めてみる映画でも、2回目になってしまうから。
一日延ばしは時の盗人、明日は明日…… あっ、ありがとうございます!