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鏡職人

 光なく、ただ赤くばかりに見える黄昏になり、黒い影になって北村裕太は、静かな工房の中で小さな鏡を丁寧に取り扱っていた。その鏡は、彼が街の至る所に取り付ける作品の一部であり、彼の生きる喜びと情熱である。彼の手は確かで、鏡の表面を優しく拭き上げる。その際、微かに笑みが彼の唇を掠めた。彼は自分の作品が街の人々に喜びと自己愛をもたらすことを想像しているのかもしれない。点き始めた街灯が窓から差し込み、ようやく工房に光をもたらす。裕太はその光に包まれながら、自分の世界に没頭しているようだ。
 そのとき、工房のドアが軽くノックされる音が響く。裕太が振り返ると、そこには彼の幼馴染の真由美が立っていた。「裕太、久しぶり!」真由美は明るく微笑んで裕太に近づく。
「なに? なんか、あった?」
「最近、裕太の作品をよく街で見かけるから、思わず顔を出してみたんだ。本当にすごいね」
裕太は謙遜しながら笑みを浮かべた。「ありがとう。でもまだまだこれからだよ」真由美は興味深そうに工房を見回し、鏡の展示を観察した。「ねえ、裕太。これってどうやって作ってるの?」
 裕太は真由美に手順や材料の詳細を説明しながら、彼女が興味を持つ作品の製作プロセスを紹介した。彼女は興奮しながら彼の作業を見守り、時折質問を投げかける。
 時間が経つにつれ、二人の会話は過去の思い出や共通の趣味にまで及んだ。真由美が工房を訪れるのは久しぶりだったが、彼らの関係はまるで昔から変わっていないかのように深い絆で結ばれていた。
 誤解を招くような時間が近づくと真由美は裕太に別れを告げた。
「また来るよ。今日は本当に楽しかった」
 裕太は微笑みながら彼女を見送り、工房の中に戻った。真由美の訪問は彼の心にほのかな喜びを残し、彼の作業に新たな活力を与えたかもしれない。しかし、彼の心の奥底には、他人が持つ幸せそうな姿に対する彼自身の葛藤がまた沈み込んでいるのだった。

一日延ばしは時の盗人、明日は明日…… あっ、ありがとうございます!