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自分で決め続ける事が自由     :超えられない壁

俺は自由になったのだと思う。『1回目の俺』がそこにいるのが視えるようになった。あぁ。トシヤ君だ。死んではいるが、買ったばかりの服がすぐに着れなくなるような、育ち盛りの男の子にみえる。初めて出会う幽霊が彼でよかった。
「君がトシヤ君?今まで見守ってくれてありがとう」
トシヤ君に、俺は感謝しなければならない。同時に、彼の期待を裏切ったような事をしたことを詫びなければならないとも思った。

俺は俺として生きていた訳ではなかった。彼の代わりに、母親を許すために生まれてきたと思いこんでいた。だが今は違う。俺は何をするべきか自分で決められることに気がついた。死んでいるのに変な言い方だが、生きる事というのは「自分で決めている」と思えることなのだろう。
俺は自分が自殺したことを、どこかで他人のせいにしていた。自分以外の何かのせいにする事で、自分が正しいと思いたかったのだ。
だが、そうじゃない。
どんな状況にいても、人は、何かをやらされるために生まれてきたわけではない。いつだって自分が「何かを決めている」と思う事で、人は自由になれる。たとえ監禁されていても、「ここから出る」と自分で決め続ける事が自由になることかもしれない。監禁された経験は俺にはないけれども、今の俺はそう思っている。

「タチバナさん。俺達の話を聞いてくれてありがとうございました。ただ、今日はもう遅い。何かをするにしても明日以降にしましょう」

俺はタチバナさんが他人ではないような気がした。それは彼女の好奇心や、親切心に、無遠慮で甘えるような事をするわけではない。遠巻きに見るような感じではなく、顔見知りの関係者かもしれないという可能性を持って接しなければならない気がしたのだ。
サクラの事は気になるが、今から彼女の元へ行くのは生身の人間にはきつい。タチバナさんの「今からでも大丈夫ですよ」というテンションを俺は消してしまいたかった。
「わかりました。それでは明日、またここに降りてきます。それではおやすみなさい」
案外すんなりと、彼女が部屋に帰ってくれてホッとした。

残された俺とトシヤ君は、水時計のようにポタリポタリと、それぞれの言いたいことを少しずつ喋った。
当然のように俺の母親の話題になった。俺の母親というのは、彼が死んだ理由だ。俺はどういう表情をすればいいのかわからなかったが、彼の「何も気にしていない」ような素振りがありがたかった。

「もちろんいいよ。生きている人間の夢に入る方法を教えてあげるよ。夢に僕たちが出てきた事を、生きている人間に憶えてもらうやり方があるんだ。高い確率でそれができるんだ」

俺達は、今夜の母親の夢に出る事にした。
何を話すのかは決めていないが、母親には安心してもらいたい。俺が死んだことは、お母さんのせいではないと一言だけでも伝わればいいと思っている。

つづく


一日延ばしは時の盗人、明日は明日…… あっ、ありがとうございます!